強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百四十八話「そんな顔はするな、シャルロット」

 

「……お師匠様ぁ」

 

 交渉が終わったのだろう、ただ振り向いて俺を呼んだシャルロットの顔は忘れられそうになかった。

 

「っ」

 

 どうしたと誰何する言葉さえ出てこない。反面、ああやっぱりと心の中の何処かで思いつつも、ちらりとこちらを見つめる不死鳥を見た。

 

(乗せることは出来ない、そう言ったんだろうな)

 

 出なければ、シャルロットがあんな顔をするはずがない。申し訳なさそうな、何かを押し殺そうとして失敗しかけたような、半泣きの表情を。

 

(その通りです)

 

 だが、流石に想定外だった、心に直接声が聞こえるという展開は。

 

「な」

 

 思わず驚きの声が出たが、それは俺の認識が甘かったのだろう。

 

(そう言えば、竜の女王も心を読んできたし、「神のしもべ」なら、それぐらいのことが出来てもおかしくはないのか)

 

 そも、人を背中に乗せて飛ぶなら、意思の疎通が出来ねば拙いことになる、例えば――。

 

「気流の乱れたところに突っ込みますからしっかり捕まっていて下さいね」

 

 何て警告を、あの鳴き声で現されても理解出来るのは、シャルロットぐらいだろう。

 

(だいたい、原作通りなら勇者は魔物の言葉を理解する機会だってやって来なかった訳だし)

 

 ラーミアがテレパシー的な連絡手段を持っていても不思議はない。

 

(それはさておき……心の声に返事をしたと言うことはこの思考も筒抜けと言うことだな)

 

(ええ。そして、私は言いました。「えっちなことを考えているので私の背には乗せません」と)

 

(まてい)

 

 そうぜつ に とんでもないこと いいやがりましたよ、このとり。

 

(なにそれ、おかしいだろ? むっつりスケベとかセクシーギャルだって乗せられるはずなのに、何故それでアウト?!)

 

 つーか、そりゃシャルロットもあんな顔するわ。自分のお師匠様がえっちな事を考えていたから乗鳥拒否とか。

 

(誤解しているようですから、追加で言いますが。私が言ったのはあなたではなくシャルロットのことですよ?)

 

 きっとこの時、俺は耳を疑った。直接心に語りかけられてるのに。

 

「は?」

 

 なに を いってるんですか、このとり。

 

(しゃるろっと が えっちなこと なんて かんがえるはず が ないじゃないですか、やだー)

 

 そんな要因記憶をひっくり返してみても思い当たるものはない。

 

(ついさっき焼却処分した邪悪な書物にしおりが挟んであったこととか、最近シャルロットの様子がちょっとおかしかった事なんて全力で関係ないし、関係ない筈だし!)

 

 あの邪悪な書物が原因で、シャルロットがせくしーぎゃるを越えた真の痴女(セクシーギャル)に目覚めかけてるとかだったら、俺は全力で阻止した上、あの腐った僧侶少女に何をするか自分でも、「もぉ、あったしぃ全然訳わっかんなぁい」でごじゃりまするぞ。

 

(……冷静に、落ち着いて下さい。シャルロットにはそう言いましたが、それはただの建前なのです)

 

(……え?)

 

 建前、建前ってなんだったっけ。

 

(まだ混乱してるようですね。申し訳ありませんが、心を読んだことで私はあなたの事情を知ってしまいました、その上で考えたのですが、あなたは複数の事を同時にやるつもりでいるでしょう?)

 

(あ、あぁ)

 

(でしたら、シャルロットとあなたで手分けして物事に当たった方が、効率はよい筈ですね?)

 

 そこまで説明されれば、ラーミアの言わんとしていることは解る、だが。

 

(俺はシャルロットのお袋さんに約束をしている。シャルロットを守る、と)

 

 アークマージのおばちゃんを探すこと、最後の鍵の確保、イシスにいるマリクがおろちに相応しい男になれたかの確認。

 

(アランの元オッサンはスレッジのドラゴラムを前に一度見ている気がするから、合流した時点でマリクが竜に変身出来るようになっていれば、最後に一つは達成出来ると思うけど、残りの二つはなぁ)

 

 最後の鍵の確保で最初の目的地になるエジンベアとおばちゃんと別れたほこらの牢獄ではそれなりに距離がある。

 

(二手に分かれた方が良いのは解る。何処にいるか不明なおばちゃんを捜す側がお前に乗って探した方が良いと言うことも)

 

 おばちゃんと俺なら、シャルロットの前では出来ない話が出来る。俺がシャルロットのお袋さんと交わした約束を破れば時間を短縮させることが出来るのは間違いない。

 

(それでも、無理だ。効率化と時間短縮の為の心遣いには感謝しよう。だが、俺は――)

 

 あの約束を破ることなど出来ようはずがない、なぜなら。

 

(ふふ、シャルロットは幸せ者ですね。わかりました、あなたがそう言うつもりならシャルロットには私から話しておきましょう)

 

(そうか、すまんな。わざわざ気を遣って貰った上に)

 

(いえ、いらぬお世話だったようですから)

 

 ラーミアは俺の謝罪にそう応じ、テレパシーっぽいものを切り。

 

「えっ、そ、それは本当ですか?!」

 

 おそらく、会話相手を切り替えたのだろう急に声を上げたシャルロットの顔が喜色に輝いた。

 

(ふぅ、良かったぁ。これで何とかなるよね)

 

 一時はどうなることかと思った。

 

「お師匠様ぁ、聞いてください。『ボクがお師匠様に乗るなら、直接乗った訳ではないので乗せても良い』ってラーミアが――」

 

 前言撤回。どういう きどうしゅうせい してんだ、あの とり。

 




バラバラになると思った? 逆にひっついちゃったよ!

ちなみにラーミアがこんな性格なのはだいたい守人エルフふたりのせい。

卵の時に一緒にいたので影響を受けてしまったっぽい。

次回、第四百四十九話「シャルロットの出発、俺の出発」


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