強くて逃亡者   作:闇谷 紅

490 / 554
第四百四十一話「出でよ神ろ……あ、間違えた」

「すまなかったな、使いに行かせておいてこんな態で」

 

 お使いを頼んだのはこちらなのだ。即座に頭を下げた。

 

(いや、べつ に あの おばはん の おあいて から これさいわい と にげてきた とか そういうわけじゃ ない ですよ?)

 

 ここでの謝罪は礼儀の問題だ。

 

(うん、だから「あらあら修羅場かねぇ」とかのたまう外野なんてきっと居ない)

 

 居ないと言ったら居ないのだ。

 

「い、いえ……こちらこそ取り込み中に」

 

「ああ、気にすることはない。少々面倒な誤解をされてしまって解くのに手こずってはいるが、それところは話が別だ。これでようやくオーブも揃うしな」

 

 最後の鍵の在処についても有力な情報は得られた。

 

(まだイシスのマリクがドラゴラムは覚えたか、ほこらの牢獄で別れたアークマージのおばちゃんが何処にいるのかとかバラモス討伐以外では気になることは有るけど……)

 

 純粋にバラモス討伐のみを考えるなら、後はここまでに考えたように動くだけ、一本道だ。

 

(アリアハンの王様に頼まれた交易網の作成は、バラモスの活動による影響で民が困窮しない為の事業だったわけだから、バラモスを倒せば俺もお役後免の筈)

 

 つまり、脱宮仕えの道筋が、自由の扉が見えてきたのだ。

 

「こんな所で立ち止まっている訳にはいかん」

 

「スー様?」

 

「あ、いや、すまんな。俺達は誤解が解け次第、船で次の目的地に向かう。その後は、ラーミアの定員にも依るが、ここで得た情報を元に最後の鍵を探しに行くつもりだ。何でも、鍵は海没して浅瀬になっている場所にあるらしいが、それらしい浅瀬をアリアハンの南で見たという話がある」

 

 浅瀬の位置を鑑みるなら、鍵を手に入れればルーラでアリアハンに飛び、ラーミアに乗ってバラモスの城に向かう流れになるだろう。

 

「途中でイシスの仲間を拾う事になるとは思うがな。この時、状況によってはジパングへ寄り道するかもしれん」

 

 元バニーさん達も修行しているとは思うが、イシスには別の意味でおろちへの生け贄、じゃなかったおろちに婿としてあてがう予定のマリクも修行している。

 

(ドラゴラムでの変身に差異があるかはきちんと確認しないとなぁ)

 

 おろちが惚れた相手とマリクが別人なのは、大きなネックだ。

 

(竜の女王の余命も後どれだけ残されてるか気になるし)

 

 確認するだけならおそらくルーラの呪文による移動が一番手っ取り早いものの、ここで寄り道すれば行って帰ってでラーミアの復活が二日遅れてしまう。

 

「度々使いっ走りにしてしまって悪いが、連絡を頼む」

 

「は、はい」

 

「こちらの行動予定は今話した通りだ。よって、次に会うことが出来るとすればイシスになる。エジンベアに立ち寄ったことはないとスレッジは以前言っていた気もするしな」

 

 ハルナさんには本当に度々申し訳ないが、伝令をして貰う他無かった。

 

(やるべき事を優先すると、次に伝言を頼めるのは――)

 

 今伝えたばかりのイシスだ、どんなに早くても。

 

(俺がシャルロットに同行していれば、魔物との戦いで後れを取る可能性はおそらく、ない)

 

 むしろ動いて欲しい場所があるとすれば、ノータッチになってしまっているノアニール方面だろう。

 

(クシナタさん達が向かっていると思うからわざわざ追加で言う必要はないし、混乱してる上あの洗濯係の相手をしてるとは言え、すぐ後ろにシャルロットもいるからなぁ)

 

 今の俺に出来るのは、知り合いの弟子に頼んでもおかしくないレベルの伝言のみ。

 

「スレッジにも次に何か伝えたいことがあるようなら、イシスで待つかイシスに人をやるよう伝えてくれ」

 

 あくまで知人への伝言という形で最後をそう締めくくると、では頼むぞとハルナさんに声をかけ、俺は戻る。

 

「あぅ。で、ですからボクとお師匠様は……」

 

「大丈夫大丈夫、解ってるよ。いいねぇ、若いって」

 

 とりあえず、シーツを洗濯しつつの片手間であしらわれているシャルロットを救うために。

 

「待たせたな、シャルロット」

 

「お、お師匠様……」

 

 手強い相手であるのは承知しているが、茶番は終わらせてしまうべきだろう。シャルロットに無言で頷きを返した俺は、続けて言った。

 

「シャルロット、ホイミを」

 

「えっ」

 

 そもそも、誰も怪我していないのに血の染みが付いていると言う状況が、こんなめんどくさい事態を引き起こしたのだ。

 

(ハルナさんとシャルロットのお陰だな)

 

 誤解を付くのを止め、ハルナさんと話したからこそ気持ちを切り替え、打開策が浮かんだのだ。

 

「俺が怪我をして出来た染みだが、こいつは回復呪文が使えるからな。怪我だけ綺麗に治ってこういう事になった訳だ」

 

「え、怪我?」

 

「ああ、このシャルロットがうつらうつらし始めたのでな、武器の手入れをしようとして少々失敗した。その後寝ぼけていたこいつに回復呪文で手当を頼んだのだが、眠そうにしていたからな、覚えていなかったのだろう」

 

 おそらく、短期間で考えたにしては自画自賛だが完璧な言い訳だと思う。

 

(これでシャルロットが回復呪文の使い手だと解れば、一件落着だ)

 

 回復呪文を使った覚えのないシャルロットは訝しむかも知れないが、その辺りは袋から薬草を失敬して使ったとでも言えばいい。

 

「ふむ、見たところ手が荒れているようだな。シャルロット」

 

「あ、はいっ。ホイミ!」

 

 ちなみに荒れた手を治させたのには、こちらに好意を抱いて貰おうという計算もある。

 

(ふ、完璧だ)

 

 そして俺はこの騒動の収束を確信した。

 




とりあえず、オーブは揃った模様。

ラーミアの復活はまだ少し先のようですが。

次回、第四百四十二話「再び船で」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。