強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百三十一話「買い出し」

「確か、道具屋はこっちだった筈だな」

 

 大まかな見当は付けていた。だが、木と木の間を突っ切るのを断念したところでシャルロットが後ろから抱きついて相談して来るというハプニングは、俺の認識を狂わせたのだ。

 

(まぁ、ぶっちゃけどっちに進んでいたかが若干解らなくなったって事だけど)

 

 村と神殿の間の森で迷子になってタカの目を使うのは恥ずかしすぎる。

 

(えーと、こっちに向かって進んでいて、背中にむにゅんとして、振り向いた後話を聞いて……)

 

 自分の行動を思い返すことで、どちらから来たかを思い出す。

 

(しっかし、どっちを向いても木、木、木、だな)

 

 原作だと沢山茂った木々の有る場所の中にいる感じだろうか。

 

(最初は、最短距離を取ろうとしていたんだから、来た道の延長線上を真っ直ぐ突っ切れば村の方に出るはず)

 

 建物の裏手に出てしまって行き止まり、なんてオチも充分考えられるけれど。

 

(まぁ、突っ切るのを止めた判断は正しかったってことだよな。また少し枝が当たるけど、引き返して木々の中を出る、か)

 

 下手に木々の中を突っ切って迷子になるよりはマシだ。

 

「迂回しよう」

 

「お師匠様?」

 

 宣言するなり俺は来た道を引き返す。足下の下生えを踏みしめた後を辿ればいいだけであるし、何より先頭をシャルロットに任せる訳にはいかない。

 

(女の子だもんな。小枝が顔を傷つける可能性もあるし)

 

 横着したのは俺なのだ。枝をかき分けて進むのは当然のことだと思う。

 

(しかし、やっぱり鬱陶しいよなぁ、小枝)

 

 枯れたまま伸びている枝を指で挟み折り、放り投げながら胸中で嘆息するも嘆いたところで枝は減らない。

 

「ふぅ、ようやく戻ってこられ」

 

「そこの御仁、少しよろしいか」

 

 そして、ようやく戻ってこられたと思えば見知らぬ戦士風味のオッサンに声をかけられる始末だ。

 

「何だ?」

 

 問う声が若干不機嫌なモノになったのは、仕方ないと思う。

 

「私は最後の鍵を探して旅をしている。しかし、鍵を手に入れるには壺が必要だという。何故壺が必要なのか、そもそもどのような壺があればいいのか、断片的な情報のみで困っていたのだ。見たところこの村の者ではないとお見受けした。最後の鍵と壺についてもし知っていることがあれば教えて頂きたいのだが」

 

「最後の……鍵?」

 

「おぉ、何かご存じか?」

 

 思わずオウム返しにポツリと漏らしたらオッサンに食いつかれたが、このオッサンには覚えがあったのだ。原作の方でだが。

 

(あー、最後の鍵の入手方法のヒント用の)

 

 勇者にヒントを与えるのが存在意義であり、こんなアクティブに最後の鍵を探しては居なかった気もするが、町や村がリアリティのある人口や広さになってるのと同じ事なのだろう。

 

「まぁ、知らんわけではないが……俺達の旅にも必要になるかもしれん品でな。話せるかどうかはそちらの事情を詳しく知らねばなんとも言えん。開けたい鍵があるだけなら、解錠呪文を使える知り合いを紹介しても良いしな」

 

 今回のちきゅうのへそ探索は俺が先行して鍵を開けることでことなきを得たが、今後目的地に最後の鍵でしか開かない扉に遭遇する可能性を考えるなら、鍵は入手しておく必要がある。

 

(先に鍵を探しに行っ入手出来ていれば、透明になって先行し扉を開けてくるなんて真似だってせずに済んだからなぁ)

 

 この先何があるか解らない。そも、いつの間にかオーブ集めを優先して忘れていたが、少し前までは遣るべきことのリストに最後の鍵の入手はあったと思う。

 

「元バニーさんや魔法使いのお姉さん、元僧侶のオッサンがそのうち解錠呪文を覚えるからいいや」

 

 と鍵をスルーした結果、また今日の様なことがあったら、どうするというのか。

 

「成る程、そちらの言い分至極もっとも。では――」

 

「もっとも、その前に。俺達は買い物に行くところでな。話は歩きながらかもしくは買い物が終わってから聞くと言うことにしたいのだが」

 

 早速話出そうとしたオッサンを制してそう言うと、俺はシャルロットへ振り返り「行くぞ」と声をかけた。

 

「あ、はいっ」

 

「っ、これは失礼した。デートの最中であられたか」

 

 ただ、俺とシャルロットのやりとりを見て誤解したオッサンの言葉は俺にとってもシャルロットにとっても想定外だった。

 

「「えっ」」

 

「邪魔をして申し訳ない、許されよ」

 

 声をハモらせた俺達の前で頭を下げたオッサンは、逗留先の名を告げ、しからばごめんと立ち去り。

 

(そして、びみょうな くうき の なか。 おれ と しゃるろっと が のこされた の だった)

 

 どうしてくれるんだ、おっさん。この じょうきょう を。

 

(あー、シャルロットなんか顔真っ赤にして俯いちゃってるじゃない)

 

 セクハラで訴えても良かったのかも知れない、あのオッサン。

 

「シャルロット……大丈夫か?」

 

「えっ、あ、はい。大丈夫でつ」

 

 当人は何でもないと返してきたが、生じた間が何でもあったことを物語る。

 

(シャルロットがあの様子じゃ、買い出しは俺が引っ張って行くしかないな)

 

 うっかり一ケタ多く食料とかを購入してしまったら困る。

 

「邪魔をする。このリストにあるモノを購入したいのだが」

 

 気負いもあって舵廊下、道具屋に着いた俺は気づけば店主へそう言っていた、船長から渡された羊皮紙を片手に。

 




どこかの王様の「デートかよ」と言う台詞を思い出した闇谷が居る、早朝。

次回、第四百三十二話「もっと腕にシルバーを巻くとかさ」

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