強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百三十話「どうしてこうなった」

「……話はだいたい解った」

 

 俺はとんでもない勘違いをしていたらしい。

 

(とは言え……これ、俺はどうすりゃいいんですか?)

 

 ぶっちゃけ、こんなケースは想定していなかった。もちろん、村と神殿の間でシャルロットの話を聞くことになったと言うのも予定外だが、それはこの際どうでもいい。

 

「ミリーのプライバシーに関わることで詳細は明かせないと言うのも理解はするが……とりあえず、話してくれた所までで俺に言えることは、だ」

 

 そこで一旦止めてから、俺はシャルロットと名を呼び、言う。

 

「お前はどうしたい? ここにミリーは居ない。敢えて秘密にしておくと言う事だって出来る訳だ。無論、お前の中にしこりとして残るだろうし、後で露見すれば友情を壊しかねないと言う意味合いからすれば悪手だが――」

 

 今揉めずに済むという利点はある。もうすぐバラモスに挑む大事なこのタイミングでパーティー間にくさびを打ち込むような事になるのはよろしくない。

 

(けど、一体何したんだろうなぁ、シャルロット……元バニーさんに無断で先走ったとか、裏切りがどうのこうのって)

 

 まだこの世界に来る前のこと、家族の人数分買ってあったケーキを勝手に選んで先に食べて後で喧嘩になったことがあったが、あれと同じようなモノだろうか。

 

(あのころは俺もまだ子供だった……って、ケーキの話はどうでも良い)

 

 今は、シャルロットの相談に乗ることが最優先だ。

 

「ともあれ、仲の良かったお前達がぎくしゃくするのを見ているのは忍びない。俺に出来ることがあるなら協力するぞ? 無論、出来る範囲で、だが」

 

 気持ち的には即座に全面協力したいところだが、ここで安請け合いするのは危険だと第六感が告げたのだ。

 

「お師匠様……ありがとうございまつ」

 

「礼はいい。弟子の面倒を見るのが師匠だろうし、俺も一応はパーティメンバーだからな」

 

「お師匠様……」

 

 そんな事よりも、俺に何か出来ることがあるかだ。

 

(この場合だと……元バニーさんのご機嫌取りとかそう言う事になるのかな。うーむ)

 

 そうだ。いつもは元バニーさんが俺をご主人様と呼んでいるのだから、俺が元バニーさんをお嬢様と呼んでみてはどうだろうか。

 

(うん、ないな。……自分で考えておいてアレだけど)

 

 確か遊び人と盗賊だけの着られるスーツがこの世界には存在したと思う。

 

(アレンジすれば執事なら――)

 

 やれるかもしれないが、確かあの防具は非売品だった気がする。

 

(そもそも、そう言う色仕掛けめいたことはイケメンがやってこそのモノだからなぁ)

 

 借り物のこの顔は割と整っているとは思うけれど、中身が俺では話にならない。

 

「あ、あの、お師匠様……ボク、ミリーに謝ってみます。許して貰えるかは解りませんけど、やっぱりボクが悪かった訳ですから」

 

「……そうか」

 

 俺の言葉がシャルロットの中の何かを変えたと言うより自分で答えを見つけたような気がするが、おそらくはこれでよいのだろう。

 

「答えが見つかったなら、俺から言うべきことはもうない。ただ一つを除いてはな……」

 

「えっ」

 

「当初の予定通り、道具屋に向かうぞ。こいつをいつまでも手でもって行く訳にはいかん。背負子のようなモノを買うという目的もあるが、船用の物資を買い込んで届けに行かんとな」

 

 シャルロットの相談で脱線してしまったが、ハルナさんが戻ってくるまでにこちらも船に物資を届けておかなくてはならないのだ。

 

(オーブが揃ったら出航な訳だし)

 

 猶予はルーラの往復でかかる二日。別れたのがつい先程だから時間的な余裕はあるが、外にはあのあやしいかげが出没する危険地帯がある。

 

(シャルロットは付いて来たがるかも知れないけれど、袋だけ借りて単独で動いた方が魔物に見つかる可能性は低いし、いざというとき呪文が使える利点があるからなぁ)

 

 船からのお使いは一人で果たしに行きたいが、問題は、どうやってシャルロットを言いくるめるかだ。

 

(このランシールに来る時は先に行かせて心配させた上、時間をかけちゃってるのが痛いな)

 

 理由はあったし、おどるほうせきからの戦利品という遅くなった理由はシャルロットに渡してある。

 

(ん、待てよ……そうだ。ハルナさんが来たように誰かが俺達を探しに来るかも知れないから留守番が必要だとでも言えば良いか。スレッジの弟子と言うことになってるハルナさんにはお使い頼んじゃった訳だし)

 

 場合によってはスレッジの格好をして戻り、シャルロットに会いハルナさんの居場所を尋ねるという小細工をしてもいい。

 

(スレッジ自身の証言もあれば信憑性は増すし、あとはシャルロットにお前の師匠を捜してくるとでも言って村を出て変装を解き、何食わぬ顔で「ただいま。さっきスレッジに会ったぞ」とでも言えばいいし)

 

 スレッジに扮装せずとも、戻ってきた時、スレッジと会ったと言うだけのパターンでもハルナさんの偽りの身元を補強することは出来ると思う。会いに来たスレッジがハルナさんを探していたと言うことにすれば。

 




主人公「盗賊で、執事だからな」


次回、第四百三十一話「買い出し」


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