強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百十六話「ランシールの村」

「ところでシャルロット、今日の宿はもう取っているか?」

 

 村の中を見て回りつつ、不意に問いかけた理由は幾つかあったが、一つは視界の中に宿の看板を見つけたからだ。

 

(まぁ、観光客や旅人へ解りやすい立地でないとお客さんが入ってこないもんなぁ)

 

 村の中央を東から西へ一直線に伸びた道はやがて南へと直角に曲がる言わばメインストリートで、視界に入ってきた看板の宿屋もこの通りに面して店を構えていた。

 

「あ、はい。スレッジさんのお弟子さんとも会いまちたし、お話しをするかも知れないと思って二部屋取っておきました」

 

「そうか。では片方を使わせて貰おう。地球のへそに挑むなら、それこそしっかり休養を取って疲れを取っておく必要があるからな」

 

 部屋一つでないことにほっとしつつも、予防線を張った俺はそのまままずは宿屋に向かおうと主張する。

 

「別に疲れたとかそう言う訳ではない。村を歩き回るにしても荷物が少ない方が身軽で良いからと言うだけの話だ」

 

 シャルロットの持つ反則的な(チート)袋にぶち込んでしまうと言う手もあるにはあるが、私物の中にはシャルロットには見せられないようなモノも混じっているため、この手は使えない。

 

(あ、もちろん えっちな もの とか じゃ ない ですよ?)

 

 俺が最初に思い浮かべたのは。

 

「いつぞや没収した『がーたーべると』って、あのあとどこにやったっけ?」

 

 などと一瞬声に出さず首を傾げたのは秘密だ。

 

「わかりました。では、宿屋に行きましょう」

 

「あ、ああ」

 

 俺の申し出を承諾したシャルロットに何故か腕を引っ張られ、向かった先は先程から視界に看板の入っていた宿屋。

 

「ん?」

 

「どうしました、お師匠様?」

 

「いや、何でもない」

 

 宿屋の棚を見て、声を上げた俺に振り返るシャルロットへ首を振って見せると、俺は密かにとある呪文を使う。

 

(これを呪文って言って良いモノかは微妙なんだけどね……って、うわぁ)

 

 とうぞくのはな、原作ではフロア内にあるアイテムや宝箱、ゴールドの数を知ることのできる能力だったのだが、これが現実となるとどうなるか。

 

「あと163個たからのにおいがする」

 

 こんな感じの反応が返ってきたら、俺はどうすればいいのだろうか。

 

(きっとこれ、盗れるだけ盗ったらこうなるってことなんだろうなぁ)

 

 宿の金庫に小分けにされて入れられてるお金、台所の食材、おなべのふたもへたすれば防具としてカウントされてる可能性がある。

 

(リアル化して部屋数が増えてるのも拍車をかけてる、かな)

 

 どのみち、犯罪をやらかした場合獲得出来るアイテム個数なので、全く意味のない数字だ。

 

(というか、かんぜん に しに すきる って やつ ですよね、これ)

 

 いや、俺が棚の上にあった薬草を見て、ゲーム同様家捜ししたとしたらなんて考えてしまったせいかもしれないけれど。

 

(アッサラームで小さなメダルを見つけた時も月明かりか何かに反射したメダルを見つけただけだもんなぁ)

 

 こちらの認識しだいで効果が変わってしまうと言うのは想定外だった。

 

(まぁ、よくよく考えると調べてアイテムが手にはいるところ全てに反応するなら、お店でレミラーマ唱えたら商品棚が全部光るよね、あと金庫も)

 

 何を持ってアイテム認識してるか、と言うこともあるだろう。

 

(鉱石をアイテムと見れば、鉱山の中でとうぞくのはなを使った日にはどうなることか)

 

 一瞬でも人様のモノを原作でタンスや壺に入ってるアイテムと認識したのが失敗だった。

 

(もう反応する品の定義を設定してから使わないと駄目だな、こりゃ)

 

 持ち主の存在しない品か落とし物程度に。

 

「さてと、荷物はここで預かって貰えるのか?」

 

 お前が言うなとツッコまれそうだが、部屋に残して行くと防犯の面から見てよろしくない。

 

「はい、こちらでお預かりします」

 

「では、これを頼む」

 

 俺は尋ねた宿屋の主人から肯定の返事を貰うと、鞄を開け、取り出した布の上に幾つか中身を載せると風呂敷包みして店主の前に置いた。

 

「確かに」

 

「数日の滞在だ、大丈夫だとは思うが虫害には気をつけてくれ」

 

 村をぶらつくのに不要な品の中には保存食も含まれている。駄目になっても買い直せば良いだけだが、一応釘を刺すと、もう一度鞄の中を確認してから口を締める。

 

「すまん、待たせたなシャルロット」

 

「あ、はい。じゃあ、行きましょうか、お師匠様」

 

「うおっ」

 

 振り返って声をかけると応じたシャルロットに手を掴まれ、宿の外へ。

 

(なんだか、今日はやたら強引だなぁ。やっぱり、外での無茶で心配をさせちゃったのか)

 

 だとすれば、原因はあやしいかげが出ることを忘れていた俺にある。

 

(なら、埋め合わせはしないとな)

 

 明日、単身でちきゅうのへそへ潜ると言うのに、精神面が全然大丈夫じゃなかったりしたら拙い。

 

「シャルロット」

 

「えっ、あ」

 

 単純な力比べなら、俺に軍配が上がる。呼びかけと同時に手首を掴んで引っ張れば、シャルロットは俺の腕の中だった。

 

 

 




それは、ゲーム脳による失敗か?

リアルっぽくなっていると言うことは、解釈次第で弊害も起こりうると言う。

そんな中、主人公はシャルロットへ万全の体勢でちきゅうのへそに挑んで貰う為、動き出す。

次回、第四百十七話「それはでーとなのですか?」

さて、どうでしょうかねぇ。

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