強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百十五話「さいかい」

 

「すまん、待たせたな」

 

 謝りつつシャルロットに歩み寄ると、その手を取り掌へ拾ってきた指輪を置く。

 

「え? お、お師匠様、これは?」

 

「戦利品兼待たせた詫びだ。おどるほうせきという魔物と出くわしてな」

 

 変に誤解されてもあれなので、すぐに説明した。

 

(まさか、俺に女性へ指輪を渡す日が来るなんてなぁ)

 

 お詫びの品とは言え、人生何があるかわからないものだ。

 

(とりあえず、渡す相手がシャルロットで良かった)

 

 スミレさん辺りだと絶対にからかわれていたと思う。

 

(いや、側にスミレさんがいれば同じ事か)

 

 この世界に結婚指輪とかの概念があるかどうかがまず不明だが、女性に宝飾品を贈るというだけでもからかわれる対象にはなるだろう。

 

(まぁ、今回は理由まできっちり説明した訳だし)

 

 誤解はないと思いたい。

 

「え? す、すみませんお師匠様……ボク、お師匠様とはそういう風には、ちょっと……」

 

 とか、勘違いされた上に申し訳なさそうに指輪を突き返されたら、泣ける。

 

(うん、普段から責任とれないとか言ってる癖に何想像してるんだってツッコミいれられるかもしれないけどさ)

 

 それなりに仲良くしてる女性から、拒絶されるのはダメージがでかいと思うんだ。

 

(だいたい、シャルロットが懐いてるのも師匠とか父親代わりとしてだからなぁ)

 

 勘違いは禁物だ。

 

(って、待てよ? 父親代わりなら誕生日にはプレゼントとか用意しておくべきだよな)

 

 何だか割と大冒険してる割には日数がそれ程経過していないものの、油断はできない。

 

(原作では、勇者が国王に呼ばれた日が誕生日だったはず)

 

 ルイーダの酒場に訪れたのはその後だろうから、俺がこっちに意識だけで来ちゃった初日がシャルロットの誕生日と言うことになる。

 

(あれから一年後、かぁ)

 

 この進行速度だと、普通にゾーマを倒してアレフガルドで生活し始めてから数ヶ月後、何てオチになっていそうな気がするが。

 

(その時、俺はどうしてるかな……)

 

 元の世界に戻っているか、ギアガの大穴が塞がっちゃってシャルロット同様アレフガルド在住か。

 

(こういう時、どう転んでも良くしておくのがいいよな)

 

 元バニーさんか、アランの元オッサン辺りに託しておけば、どちらのケースでも対応は可能だろう。

 

(一緒にいるようなら、返して貰って渡せば良いだけだし)

 

 そんなことより、何を渡すかの方が問題だ。

 

(女の子と勇者という両方の観点から見て、良いと思うのは光のドレスだけど、あれはジパングにすごろく場が出来ないと入手不可能だしなぁ)

 

 銀の髪飾りは能力的にもアレフガルドの魔物とやり合うには厳しいモノがあるし、何より安い。

 

(とは言え、がーたーべるとや水着系は論外だし)

 

 俺だって誕生日プレゼントがステテコパンツだったりした日には困惑する。

 

(何も女性専用の装備に拘る必要はないってことなのかもな)

 

 そもそも、次の誕生日がいつかと考えたなら、まだ慌てるような時期じゃない。

 

「お師匠様?」

 

「ん? あ、すまん。少々考え事をな」

 

 長々考え込んでいたからだろう、訝しんだシャルロットの声で我に返った俺はもう一度謝罪し。

 

「あ、それって……そちらのスレッジさんのお弟子さんからの伝言がどうとかって事だったりするんですか?」

 

「あー、そ、そうだな。それもあるが……」

 

 誕生日に何を渡すか考えていたなどと当人に言えるはずもなく、とりあえず相づちを打ってから言葉を探し。

 

(そうだ、おばちゃんと合流しないといけないことは言っておかないとな)

 

 推定吸血鬼から聞いた話のことを思い出し、再び口を開く。

 

「実はな、これはここに来る途中魔物から盗み聞きした話なのだが、アンの子供が母親を捜しているらしい」

 

「えっ?」

 

「最初に出会った時、倒れていただろう? あの後俺達と一緒に来たからな」

 

 子供の方は生死すら知らず、おばちゃんの行方を捜して居るであろうこともあわせおばちゃんと合流する必要性があることを俺は告げた。

 

「魔物から盗み聞きしたと言ったが、今アンの子は大魔王に仕えているらしい。アンが居ない状況で出会えば戦いになるやもしれん」

 

 敢えてゾーマの名は出さなかったが、嘘は言っていない。おばちゃんと合流する理由と、おばちゃんの子供と敵として出会う可能性があることをシャルロットが知るだけで今はいい。

 

「もっとも、ここまで来てアンを探しに引き返す訳にもいくまい。オーブを集め、とある島の台座に捧げれば不死鳥が蘇る」

 

「不死鳥……ですか?」

 

「ああ、人を背に乗せてかなりの早さで飛ぶことも出来るらしい。ここまで言えば、解るな?」

 

 オウム返しに聞いてきたシャルロットへ頷きで応じてから逆に尋ね。

 

「はい。ボクがちゅきゅうのへそに向かってオーブを回収してくれば良いんですよね?

 あ、けどそれで全部でしたっけ?」

 

「パープルオーブはこのスレッジの弟子がおろちから譲り受けてきてくれるそうだ」

 

 指折り数えたシャルロットへ、俺はハルナさんを示した。

 

「は、はい」

 

「すまんが、パープルオーブのことはよろしく頼む、それとスレッジへの伝言の返事もな」

 

「解りました。では、これで」

 

 シャルロットと再会する前に打ち合わせした通りのやりとりを交わしハルナさんが立ち去り。

 

「さてと、では行くか」

 

「はい、お師匠様」

 

 俺達もまた歩き出したのだった。

 

 




次回、第四百十六話「ランシールの村」

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