強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百六話「フィールドのBGM、結構好きです」

「まぁ、こちらとしても地球のへそを攻略した後、引き続き俺達を運んで欲しいという事情がある。協力を惜しむ気はないし、航海を続けるに物資の補充は不可欠だろう?」

 

 とりあえず、話せたのは、あやしいかげのこと、ハルナさんに必要な品をとってきて貰う貰うことも鑑みて最短でも二日はランシールに滞在すること、船に戻ってくる時本来の予定であれば船員が買い込んで来るはずだった物資を俺とシャルロットで運んできても構わないことの三つ。

 

(あ、あの全面真っ白な島にここでの用事が終わったら運んで欲しいってのも入れると四つかぁ)

 

 ともあれ、伝えるべきことの殆どは伝えられたと思う。

 

「無論、安全を考えればバハラタなり他の港町なりへルーラで飛んでそこで物資補充した方が良いのは、承知している。船長がそちらを押すなら、考えもしよう。だが、目的地から遠ざかると言うことは、あのバラモスに時間を与えてしまうことと同意義だ」

 

 戦闘力は俺一人に遊ばれた、割と残念な大魔王ではあるものの、イシス侵攻の様な原作にない行動に出られるかも知れないと思うと、やはり、時間は与えたくない。

 

「先のイシス規模の侵攻を行ったところで、こちらが戦力を揃えれば撃退とて難しくはないが、被害ゼロで完勝出来るかと問われれば、俺としては難しいと言わざるをえん」

 

 あちらが宣戦布告なり何なりして知らせてくれれて充分な迎撃態勢をとれたなら話は別だが、いくらあのバラモスでもイシス侵攻の失敗から学習はしているだろう。

 

「恐怖を煽り降伏を促すために宣戦布告してから侵攻したら、派遣した軍が半分壊滅し残りは降伏したでバラモス。もしまた宣戦布告して軍勢を派遣したなら同じ結果が待ってるバラモスな。よし、今回は宣戦布告無しでドッキリ電撃作戦バラモス」

 

 とか、まぁ口調は適当だが、おおよそそんな感じに。

 

(地図を見る限り、直線距離でイシスの次に近いのはアッサラームだけど)

 

 襲われるのがルーラで飛べる既に訪れたことのある場所ならまだいい。

 

(エジンベアとか、未来訪の国を狙われた場合、最悪後手に回る)

 

 距離や手前に他の国があるなどといった条件を考えると、エジンベアへ侵攻の確率は相当低いのだが、相手がどう出るか未知数である異常、最悪のケースは想定に入れておくべきだ。

 

「この船は速い、速いと思うが進めるのは海に限られる。行く手を陸地に遮られた場合、上陸して進むことは出来ようが、イシスに攻め寄せた魔物達は空を飛ぶモノが多かった」

 

「……陸を進めぬ船では空飛ぶ魔物と競った場合、地形次第で引き離される……道理ですな」

 

「そう言う意味合いでも俺達はオーブを集め、不死鳥ラーミアの力が借りたい」

 

 シャルロットの手で改心した魔物や、イシスでこちらに降った空飛ぶ魔物も居るには居るが、遠目では敵味方の判別が難しいのだ。

 

「乱戦になった時、敵味方の区別が付きづらくては同士討ちとてあり得る」

 

 これについては、俺がスノードラゴンに跨り単騎で出撃すれば話は別になるが、一人で殲滅するには呪文が使えないと厳しい。

 

(手段を完全に選べなくでもならない限り、これはないな、うん)

 

 そも、俺が一人で行動するのをシャルロットが黙って見て居るとも思えない。

 

(例外があるとすれば、俺が軍勢を押さえ、その間にシャルロット達がバラモス城に突入してバラモスを討つってケースだけど)

 

 シャルロットのお袋さんとの約束を反故にするような策を敢行したら、どうなるか。

 

(やっぱり、ここはどうあっても転進なしで、次の目的地まで運んで貰わないと)

 

 一時思考が脱線しかけたものの、やはりというか何というか、結局そこへと落ち着く。

 

「俺から言えることは、それだけだ。船長、どうする?」

 

 問いの形を一応作っていたが、この時船長が転進をしたいと申し出ていたら俺はどうしただろうか。

 

「解りました。必要な品については、大まかなモノならリストアップも済んでおります。現地にたどり着かなくては何が補充出来るかも解りませんが、補充の必要がありそうな品を事前にリストアップしておくのとそれは話が別ですからな」

 

「すまん」

 

 言いつつ船長の見せた苦笑に、説得されたのではなく、こちらへ譲ってくれたのだと理解した俺は、気づけば頭を下げていた。

 

「ほっほっほ、何やら焦っておいでの様子ですが、あなたと勇者様のお役目を考えれば無理からぬこと。されど、焦りは思わぬ失敗を招きます。要らぬお節介かもしれませんがな」

 

「そんなことはない。急いていたのは事実だ」

 

 竜の女王に残された時間、バラモスの原作にない行動に受けた衝撃、そしてバラモス討伐とは関係ないところで消費した時間の埋め合わせ。

 

(バタフライエフェクトが俺の行動のせいだったとしても、焦って事態が好転する訳じゃないんだ。こんな時こそ冷静にならないと)

 

 バラモスに時間は与えたくないが、今のところ何か企みだしたと言う情報は入ってきていない。

 

(そう言えば、エピちゃんのお姉さんの後釜っぽいエビルマージも倒してるもんな)

 

 あれははぐれメタルを確保しにバラモス城へ行った時の事だったか。俺の倒したエビルマージの一人がそんなことを言っていたとシャルロットから聞いた気がする。

 

「世話になったな、船長」

 

 楽観が過ぎるのも考えものだが、知恵者を欠いたことでバラモスの動きが止まっている可能性に気づけたのは、大きい。

 

(こっちに都合の良い仮説を盲信する気はないけど、もし事実なら動きのない理由にも頷けるし……これは、確かめてみるべきかもな)

 

 船長から必要な物資のリストを渡され、小舟を経由して再び海岸へと戻った俺は、バラモス軍の内情を探る方法を考えつつ足音を消して歩き出した。

 




いかん、爺さんと主人公の会話だけで終わってしまった。

次回、第四百七話「一番無難なのは、あれだよね、あれ」

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