強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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「ふむ」

 手に取った瞬間、それは起こった。

「イェ゛ロォォォ」

 彫像の口からほとばしるどうしようもないぐらいに汚らしい鳴き声。

「なっ、だから言――」

 微妙に得意げなカンダタの顔に、俺は苛ついて。

「でやあああっ!」

「べがぎっ」

 気がつくとオーブの台座を掴んだまま、フルスウィングしていた。


<↑休載のお詫びの小ネタ?>

*ご注意
今回のお話には、変態の悶えるシーンが引き続き登場します。
ご注意下さい。


第三百八十三話「これであと、一つ……だったよね?(閲覧注意)」

「ふむ」

 

 手に取った瞬間、「イェ゛ロォォォ」とか叫んだらどうしようかとちょっとだけ思ったのは否定しない。

 

(……とりあえず、ピチピチ男もこれで完全にカンダタ確定だなぁ)

 

 一緒に隠されていた覆面マントが動かしようのない証拠であり、同時にどうしようと思わせる品でもあった。

 

(ある意味でカンダタのトレードマークというか、犯行用衣装な訳だし)

 

 金の冠を盗まれた国の側で犯人の服を持ち歩いていることが発覚すれば、面倒なことになるのは請け合いだ。

 

(カンダタに着せて引き渡しちゃえば、その心配もないけど……)

 

 元部下と同じ所に収監する流れになるのは危険だと、その選択肢は消したばかり。

 

(原作と乖離させないなら、アレフガルドに行って貰うべきだよね)

 

 問題は、どういう経緯でアレフガルドに渡ったかの描写が原作に無いことだろう。

 

(確実なのは、ギアガの大穴から放り込むのかな)

 

 問題は、高所からの落下になることだ。

 

(ゲームでは大丈夫だったけど、普通パラシュートとか無いと死ぬよなぁ……ん? いや、その心配はなかったりする?)

 

 どうしようかと考え込み、ふと思い出したのは、原作のシャンパーニの塔でこの元ピチピチ男がしていた行動。

 

(確か、勇者から逃げる為に下の階に飛び降りたりとかしてたもんな)

 

 ただ、塔でこの男を懲らしめたのはクシナタさん達なので、この世界で実際にどうだったかを確認した訳ではないのだけれど。

 

(……まぁ、当人に尋ねたら「何でそんなことを聞くんだ?」って事になるし)

 

 ひとまずこの事は置いておいた方が良いだろう。

 

「オーブは手に入れた。となれば、あいつと合流せねばな」

 

 ロマリアの城下町に近寄りすぎて縛られた変態(カンダタ)が人目につくと厄介なことになるが、俺にはタカのめと言う遠方を偵察する呪文があるのだ。

 

(シャルロットもこっちに合流しようとするだろうから、必然的にこっち……いざないの洞窟にやって来る筈)

 

 互いに相手が向かった方へと移動すれば中間点ぐらいで再会出来るだろう。だから、考えることがあるとすれば。

 

「お、おい! オーブはちゃんとあっただろ? な、だからさ、このロープを解いてくれよ? な?」

 

 転がったまま話しかけてくる変態の希望を通してやるかどうかぐらいだ。

 

「解くのは構わんが、歩けるのか?」

 

 シャルロットに変態をぶら下げて再会する光景を想像すると、縛めを解くのはやぶさかでもない。問題は、行きの様に生まれたての鹿なり牛なりの真似をするのではないかと言うことだ。

 

「うっ」

 

「お前のせいで余計な手間をかけさせられたが、本来なら急ぎの旅の途中なのだ。縛る前のような有様ではたまらん」

 

 オーブも残りあと一つ。おろちの所のパープルもまだ回収していなかったような気もするが、取りに行くだけだから良いとして、ようやくラーミアの復活が叶いそうな所までこぎ着けたのだ。結局歩くのは無理なのか、呻く元ピチピチ男を前に、俺が不機嫌さを隠せなかったとして誰が非難出来よう。

 

(そもそも縛られた変態男って時点で視覚的にダメージだし)

 

 袋詰めにでもすべきだったろうか、首から上だけ出して。

 

「反論出来んなら、このまま運ばせて貰う……いや、喚くようなら袋を被せるか」

 

「わ、分かった」

 

 想像してみると今よりマシな気がして口の端にのぼらせてみると、袋詰めは嫌だったのか、カンダタはあっさり運搬されることを認め。

 

「ならば、さっさと行くぞ? 聖水の効果にも限りはある」

 

「ぐぎゃあっ」

 

 ロープの端を掴むと、悲鳴をあげた変態を持ち上げ、歩き出す。シャルロットと違い呪文で魔物除けの効果を代用出来ない俺にとって、魔物と遭遇する確率の高いダンジョンは出来ればさっさと立ち去りたい場所なのだ。

 

(回復呪文で傷を癒せばこんな変態荷物を扱う必要はないんだけどなぁ)

 

 身を捩る荷物は出来るだけ見ないようにしつつ、早足で出口へ向かう。薬草を使ったっきりなのは、呪文を使うところを見られたくないというのもあるが、下手に傷を回復させると今度は逃げ出す恐れがあることも理由の一つに挙げられる。

 

(少なくともこのロマリアを離れるまでは――)

 

 荷物の方が都合は良い。

 

「ぎっ、い、いでぇぇっ」

 

「……五月蠅いし、醜くいのが難点、か」

 

 割と酷いことを言ってる自覚はあるが、聞いて楽しいモノでないのは紛れもない事実だ。

 

「静かにしろ、聖水の効果がきれたら魔物が寄ってくるだろうが」

 

「う、うぎっ、だ、だってよ」

 

「ええい、クネクネするな、気色悪い……ぐっ」

 

 変態荷物のやかましさと、反論しようとしたことにイライラし、睨み付けたのは失敗だった。モロに見てしまったのだから。

 

「……はぁ、洞窟をそろそろ抜けることだけが救い、か」

 

 この分なら聖水の効果がきれる前にシャルロットと合流することさえ可能かもしれない。

 

(……シャルロット)

 

 片側の視界が罰ゲームだからか、少し前に別れたばかりの少女が、やけに恋しくて、胸中で名を呼ぶ。

 

「お、おぐ、ぎゃ、も、もっどゆっぐり歩いでぐれぇぇぇっ」

 

 近くに聞こえる汚い悲鳴は、本当に耳障りだった。

 




残るオーブは、おろちの所のを除けば、ブルーのみ。

ラーミアの復活も近い、か?

次回、第三百八十四話「で、結局この変態どうするよ?」



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