「サイズの合わない服をいつまでも着ていては服が伸びる、最悪破れる可能性とてある」
まして、あのピチピチ旅人の服はまほうつかいの格好にされてしまった他人から奪ったモノである。
「脱がせるのは、当然の事だ」
とりあえずピチピチ男とシャルロットの二人が変な誤解をしないうちに、俺はまくし立て正当性を主張した。
(ふぅ、とりあえずはこれで良し、と)
服を脱いで返せという意味だとピチピチ男とて理解出来たと思う。
(一番最悪のケースは二人が誤解した上、ピチピチ男が裸で居ることだしなぁ)
まだスカラの呪文の効果が残っているので、ピチピチ男が逆上して殴りかかってきたとしても大したダメージは受けないが、増した防御力が効果を発揮するのは、あくまで物理攻撃に対してのみ。視覚的なダメージを軽減する効果など無いのだ。
(まぁ、その辺が分かっていても、この推定カンダタの尻は見ないといけない訳だけど)
もしこの男がカンダタで、クシナタさんに懲らしめられたなら、残っていると思うから、お尻ペンペンの痕が。
「ほ、ほら。服は脱いだぜ?」
「そうか。シャル、服をそっちの男の横に持っていってやってくれ」
「……あ、は、はい」
「個人的には洗ってから返してやりたいところだが……」
我に返ったシャルロットが脱ぎたての旅人の服を拾い上げるのを俺は複雑な気持ちで眺めると、嘆息する。
「諦めるしかなかろうな」
この状況では無い物ねだりということは分かっていた。
(なら、シャルロットが服を持って行っている間に、OSIOKIの痕があるかだけは確認しておかないと)
確認シーンを見られては別の誤解を招きかねない。
(……うん、確認しないといけないよね。ただ、なぁ)
一つ問題があるとすれば、正直に理由を告げず万人を納得させられるような尻を見る理由が思い浮かばなかったこと。
(いや、万人が納得する理由とか存在した方が嫌な気もするけど)
見せろと言った以上、厳しくても何らかの理由を挙げる必要はあり。
「さて、次だ。ここに薬草がある。先程から見ていたが、妙に尻を庇うような動きをしていた気がしたのでな」
表に出せず悩んだ結果、口から出たのは苦し紛れのカマかけだった。
(うん、分かってる。これでカマかけを外したら気まずいことぐらい)
当たっていたとしても、待ってるのは元ピチピチ男の尻の手当だ。どっちにしても地獄かも知れないが、思いつかなかったのだから仕方ない、そして。
「うぐっ、やっぱあんたにゃあかなわねぇな」
当たっても嬉しくないカマかけへピチピチ男は見事に引っかかった。
(これも、身から出た錆か)
素直に下着をずり下げる元ピチピチ男の前で薬草を磨り潰すと、ピチピチ男が持っていた棒っきれの先端に塗る。手で直接塗らないつもりなのは、ささやかな抵抗だ。
(せめてこれぐらいはしてもいいよね?)
自問しても答えなどない、だからそのまま患部へ塗るべきなのだろう。一言断りを入れてから薬草を塗布し、それで終了、簡単な作業だ。
「……塗」
そう、簡単な作業の筈だったが、確認の言葉は途中で途切れた。
(うわぁ)
視界に入ったのは、声にして外に出さなかった自分を褒めたくなるような光景。
(クシナタさん……いや、気持ちは分かるけどさ)
直接触れたくないという部分はクシナタさんも同じだったらしい。赤紫色の痣はもみじ、つまり掌の形ではなく、棒状のモノだったのだから。
(見たところ剣の腹って訳でもないな、これ。まぁ、くさなぎのけんを使うのは流石に嫌だったって事だと思うけれど)
ちなみに、隊のお姉さん達のOSIOKIではちゃんと手で叩いていたような音だったので、相手によって使い分けていたのだと思う。
(え? おれ の とき? のーこめんと と させて いただきますよ)
と言うか、俺は一体誰に向かって言っているんだろうか。
(……わかってる、こんな筆舌尽くしがたい時間、現実逃避しなきゃやってられないって事ぐらいは)
こうして、俺の心に何とも言えない影を落とし、確認作業と治療は終わりを向かえる。
「うぐぐ、薬草が染みるぜ」
下着をはき直す元ピチピチ男が呻いていたが、どうでも良かった。
(とりあえず、あの様子ならこの男がカンダタってことで良いとは思うけど)
ならば、聞いて置かなければならない事がある。
「……治療は済んだ。次は質問に答えて貰おう。お前が盗んだオーブはどうした? どこにある?」
服を下着まで脱がせたというのに、カンダタが盗んだとされるイエローオーブは見つからなかった。こいつの元の服が無いことを鑑みると元の服と同じ場所に隠してある可能性もあるのだが、推測だけで探すよりは口を割らせた方が早い。
(身柄は確保してある訳だし、治療したとは言え弱点も見つけたし)
偶然にも叩くのに丁度良さそうな棒きれも転がっているのだ。
「な、何の」
「とぼけるなら、そこの棒きれで薬草を塗った部分を思い切りぶっ叩く」
成り行きで治療してしまったが、そもそもコイツに対する心証は良くない。主にバハラタで人攫いを部下にさせていた関連で。
「わ、分かった、正直に言う。オーブは、売っちまった。あ、あんたの言ってんのは、あのイェア゛ーオーブのことだろう?」
「いぇあ゛ーおーぶ?」
「お、おうよ。台座を押すと『イェア゛ー』って鳴」
「でやぁっ」
明らかに嘘をついていると分かったので、俺はフルスウィングの一撃をカンダタの尻に叩き込んだ。
投稿ミスって途中で投下してました。
すみませぬ。
次回、第三百八十一話「後始末」