強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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番外編4「シャルロットの判断・中編(勇者視点)」

 

「はぁ、ようやくあの『さっちゃん』なんて呼ばれ方とお別れ出来ましたわね」

 

「あ、うん」

 

 アリアハンに戻ってきたサラの第一声に、相づちを打ちつつボクは苦笑する。

 

(親しみやすそうで良い呼び方だったと思うんだけどなぁ)

 

 嫌がっていたようなのでなるべく呼ばないで居たけど、正解だったみたいだ。

 

「じゃあ、ボクは一旦家に帰るね? お土産渡してきたいし」

 

「承知しました、では我々はルイーダの酒場に行っておりますな?」

 

「うん、じゃあお土産渡し終わったら酒場に行くね」

 

 街の入り口に近いのって、こういう時良いと思う。

 

「おかえりなさい、私の可愛いシャルロット」

 

「ただいま。これ、お土産」

 

「まあ、高かったんじゃないの?」

 

 出迎えてくれたお母さんにポルトガで買ったワインと塩漬けのお魚を渡すとボクは頭を振った。

 

「ううん、大したこと無いよ」

 

 実際、ナジミの塔でモンスターを倒して結構お金が貯まっていたからお土産を買う程度の余裕はあったのだ。

 

(お師匠様が装備のお金をくれたのもあるけど……あ)

 

 そこまで考えてふと気づく、せっかくお師匠様に貰った武器や買った防具が暫く使えないことに。

 

(そっかぁ)

 

 しばらくは袋の中で封印するしかないのだろう。鉄の鎧にはミリーにお尻を触られても何ともないって魅力的な一面があったのだけど、旅人の服に逆戻りだ。

 

(革の鎧ぐらいなら買えるけど、囮ならあんまり装備を強化するのも良くないだろうし)

 

 だいたい自分だけお尻をしっかりガードしてるというのも良くないと思う、あの「しゅぎょう」を人にさせるなら。

 

(だいたい、一人で考えてても仕方ないよね)

 

 今のボクには頼れる仲間が居るんだ。

 

「じゃ、ボクルイーダさんの所に行ってくるね?」

 

「あら、気をつけて行くのですよ」 

 

 お土産を渡し終えて家での用件を片付けたボクはお母さんに背を向けると、外に出て。

 

「あ」

 

 大通りの脇で、立ち止まる。目に飛び込んできたのは、お師匠様を待っていた街の入り口。

 

(ううん、気になるなら尚のこと結果を出して待ってなくちゃ)

 

 そもそも酒場ではみんなが待っているだろう。大通りを横切って酒場に続く道を早足に進み、ドアをくぐる。

 

「よう、姉ちゃん俺といっぱ」

 

「ごめんなさい、通りますね」

 

 肩に腕を回そうとしてきた酔っぱらいのおじさんから身をかわすと、店の奥へ。

 

(これも修行の成果、かな)

 

 ちょっとだけ苦笑して周囲を見回す。

 

「勇者様、こちらですの」

 

「あ、お待たせ」

 

 サラが呼んでくれたお陰でみんなもあっさり見つかり、再会は果たせた。

 

「いえいえ、家族との団らんに水を差す気はありませんからな。もっとゆっくりされていてもいっこうに構いませんでしたぞ?」

 

「ううん、みんなあってのボクだし……お師匠様が帰ってくるまでに新しいパーティーメンバー揃えておきたいなぁって」

 

 何だかまたからかわれそうな気もしたけれど、嘘は言えない。

 

「ふむ、まぁ早いに越したことはないでしょうな」

 

「……で、ですね」

 

「異存ありませんわ」

 

「え?」

 

 だから、ちょっとだけ面を食らった。茶化さず真剣に賛成してくれたことに。

 

「さて、ではここから先は上階で話すとしましょうかな?」

 

「あ、登録所」

 

「然様です。あそこであればこちらの希望する人材を見つけてくれるでしょうからな」

 

「そっかぁ、けどボクまだ登録所を利用したことなくて……」

 

 思い返せば、今のパーティーメンバーだってお師匠様が用意してくれた人達なのだ。

 

「大丈夫かなぁ……」

 

 この酒場に最初に来た時だって失敗したから、どうしても不安になる。

 

「誰でも最初は初心者なのですぞ? まして、勇者の貴女が尻込んでどうするのです?」

 

「っ」

 

 まごついていたところへかけられたその言葉にボクは打ち据えられた。

 

(……だよね)

 

 単純すぎることを忘れていた。そもそも大げさに怖がりすぎていたとも思う。

 

「ありがとう。ちょっとまだ恥ずかしいけれど行ってくるね」

 

「ええっ? け、けど新しい人をどうするのかってお話しは……その、まだしてませんよね?」

 

「うん。ただ、思いついたことがあるからそう言う人がいるのか聞いておきたくて」

 

 驚いた顔をしたミリーに頷きで応じたボクは階段を上ると、登録所に向かった。

 

「あの」

 

「ああ、お客さんですね。ここは冒険者の登録所。貴女が仲間にしたい人を登録し――」

 

「と、登録の前に探して欲しいんです、ボクが今から言う条件に合った人がいるかどうかを」

 

「は、はぁ」

 

 ボクの申し出に係の人は面を食らったようだったけれど、ここまで言ってしまった以上、引き返せない。

 

「お、お尻を……女の人か男の人のお尻が好きな女の人はいっ、居ませんか?」

 

「はい?」

 

 初めは初心者。なら初心者を初心者と修行させればいい。

 

(男の人のモノの方が好きな人がいたなら、男の人だって修行できるよね?)

 

 口に出すのは本当に恥ずかしかった。だけど、もしそんな人がいたなら――。

 




あの師匠にしてこの弟子あり。

シャルロットもひそかに影響されていたようです。(遠い目)

そして、シャルロットの判断による新人の加入であの修行はさらなる混沌と化してしまうのか?

次回、第三十六話「死者と考察」。

時系列的に番外編4の後編は主人公と合流シーンが入ると思われるので、先にこちらを書きます。

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