強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百七十一話「予定って割とコロコロ変わるモノ」

「勇者シャルロット様ですか? シャルロット様なら謁見を終えられて、宿に戻られたようですが」

 

 港からポルトガの城へと目的地を変えた俺を待っていたのが門兵のそんな言葉だったのも、寄り道したことを踏まえれば仕方ないことだったと思う。

 

「そうか、手間を取らせた」

 

 一応そうしてシャルロットの所在は訪ねたが、だからといって宿屋へ即座に引き返す訳にはいかない。

 

「さて、報告はしておかんとな」

 

 せくしーぎゃるだのがーたーべるとだの色々あったが、転職を望む人々が世界中から集まってくるダーマ神殿へと到達したことは交易網作成の窓口で一言伝えておく必要があるだろう。

 

(イエローオーブのことについての聞き込みは殆ど不要になっちゃったけど、交易網の作成も王様から依頼されてるれっきとしたお仕事だしなぁ)

 

 大魔王バラモスに脅かされ生活が厳しくなる国民を得た利益で救うのが目的だったことを鑑みると、バラモス打倒を優先させても何の問題もない気はするが、これはあくまで俺が一度結果的にバラモスを殴って、実力の程を確かめているから。

 

(今のシャルロットパーティーでも俺が補助すればバラモスの撃破自体はそれなりに余裕なんだけど、アリアハンの国王にバラモスの実力を把握する術なんてない訳で……)

 

 ひょっとしたらシャルロットがバラモスを倒すのは、早くて数年。場合によっては親父さんのように不覚を取ることも計算に入れての交易網作成依頼だったのかもしれない。

 

(うん、普通に考えれば灰色生き物みたいなボーナス生物で急速成長、とかを予測しろって言う方が無茶だよね)

 

 予想出来るのは俺のような異世界から来た人間でかつものごとをゲーム基準で考えちゃうことをやらかす輩だけだろう。

 

(そこ、ゲーム脳って言わない)

 

 何となく悲しくなってツッコミを入れてしまったが、俺は誰と戦っているのやら。

 

「どうかしたでありますか?」

 

「いや、何でもない。窓口は向こうだったな?」

 

 訪ねてきたあります口調のお姉さんに確認を取ると、ゲームの時は存在しなかったカウンターへと向かう。

 

「交易網作成の総合責任者……と、名乗る必要もない、か」

 

「はい。窓口業務の私共が、あなた様のお顔を知らなくては問題ですから。ようこそ、ポルトガへ。本日のご用件は何でしょうか?」

 

「先日、転職を司るダーマの神殿へ到達したのでな、まずはその報告にな。それと、先方で取り扱っている品を幾つか購入しておいた。まぁ、必要があって購入した品ばかりで、交易品としての値打ちがあるかは微妙だがな。商品の質が解れば参考ぐらいにはなるだろう」

 

 言いつつ鞄から筆記具と紙を取り出し、カウンターに置く。

 

(うん、よくよく考えるとあの時ちゃんと交易品っぽいものとかも購入してくるべきだったよなぁ)

 

 流れで、自分用に買った品をサンプルとして提出してみたが、こうして冷静になって省みると肩書きの割にはきちんと貢献出来ているかが微妙な気がしてしまう。

 

「成る程、中々良い質の紙ですね」

 

「量が少なくてすまんな」

 

 元々他人に渡す為に買ってきた物でないこともあるが、エピちゃんのお姉さんの指示を書き取ったり、今後の方針を紙に書きつつ考えたりと、派手に使い過ぎたのかもしれない。

 

「ともあれ、他の支部とも連絡を取って協議してみましょう。本日はご苦労様でした」

 

「いや、大した情報でなくてすまん。では、失礼する」

 

 その後、幾つかのやりとりをした上で、窓口を後にし。

 

「さてと。それで、カンダタだが――」

 

 同行するお姉さんにカンダタのことで他に情報がないか確認しつつ宿へ向かう。

 

「おそらく、バハラタ東の……正確には北東でありますが、あちらのアジトが壊滅してることを知らなかったのかと」

 

「まぁ、そう考えるのが妥当だろうな。でなければ、わざわざ盗みをはたらいたロマリア方面に逃げる理由がない」

 

 地図を見れば解るのだが、クシナタさん達がカンダタを懲らしめたと思われる塔から見ると、アジトの側にあるバハラタの街はかなり南東に位置する。

 

(ロマリアから逃げ出した貴族と途中まで同じルートで行くつもりだった、ってことだろうなぁ)

 

 ただ、目的地までの距離を考えると、どうしても何処かの街なり村なりで補給をする必要も出てくるのだ。

 

「ロマリアは若干寄り道になるものの、補給無しでアッサラームまでは無謀でありますからな」

 

「ああ。それもあるが……俺としてはもう一つ気になる点がある。ダーマで逃げ出した貴族とカンダタ一味の残党がつるんでいたこと。そして、ロマリアの国からすれば王の頭へ頂く重要な品である王冠があっさりと盗まれたこと。これは仮定だが、ロマリアの貴族にはカンダタの協力者が居たと考えるとどうだ?」

 

「成る程、ロマリアに向かったのは、協力者を頼る為でありますか」

 

「ああ、だがな……」

 

 お姉さんははたと膝を打つが、まだこれは俺の想像でしかない。

 

「故に何処かで元部下が捕まった話を聞いて、救出の為ロマリアに向かったと言う可能性も捨てられん。そして、この両者にある大きな違いは、俺の想像通りならカンダタはダーマでの大捕物やバハラタ北東のアジトが壊滅している事を知らず、部下が捕まったことを知っての行動なら……アジトが壊滅していることも知っている可能性がある」

 

 もし、アジトが潰れていることを知ったなら、最悪、カンダタが行き先を変えることも考えられるのだ。

 

「それは……」

 

「アジトの壊滅を知っていたなら、ロマリアが奴を捕まえる最後のチャンスになるかもしれん」

 

 めんどくさいことになったと思う。しかも、だからといって今から応援を呼ぶとなるとルーラの呪文を使ったところで二日分時間をロスすることになる。

 

「自分はどうすべきでありますか? 応援を呼ぶ為の伝令に?」

 

「いや、お前は世界樹の葉の件をこれから名をあげる者達に伝えてくれ」

 

 ロマリアに辿り着きさえすれば、女王陛下の協力は得られる。それに、想定される敵戦力は多くてもカンダタとクシナタさん達に蹴散らされた子分+α程度だろう。

 

「伝言承ったであります。では、自分はこれで」

 

「ああ、気をつけてな」

 

 ルーラの呪文で飛び立つ為、城下町の入り口へ向かうお姉さんへ別れを告げると、俺は再び歩き出す。

 

「ふぅ……宿に着いたら、話すことが増えてしまったな」

 

 一つ、嘆息を漏らして。

 

 




ダーマ編の伏線があんなところにも?

次回、第三百七十二話「あれ、ひょっとして宿に泊まってる時間ないんじゃね?」

シャルロット的にはセーフなのかな、二人部屋じゃないし。



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