強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百七十話「泥棒と俺」

「カンダタ、だと?」

 

 実際会ったことはないが、原作では勇者一行と二度戦うことになる悪党であり、バハラタの近くで人攫いをしていた連中の頭目でもある人物である。

 

(バハラタの方のアジトに潜入したのは、カンダタ不在の時だったもんなぁ。対決が一回減った分、こんな所でしわ寄せが……)

 

 現実に対決回数が関係するとは思わない、ただ誰かに負けて懲らしめられた回数と考えるなら話は変わってくる。

 

(勇者一向に子分共々負けて命乞いをしたことで、求心力を失い、原作みたいに最終的には独りぼっちでアレフガルドに流れ着いたのだとしたら――)

 

 何処かでもう一度倒し、部下にカンダタを見限らせないと、また何処かで悪事を働く可能性がある。

 

(バハラタ側のアジトとダーマの一件で部下はもう殆ど居ないとは思うけど、直接戦って負けたのはクシナタさん達にだけだろうし)

 

 もっと派手に人前で負けさせて名を地に落とさねば、ごろつきやら犯罪者やらを部下にして一味を再び立ち上げることだって考えられると思うのだ。

 

(イエローオーブを盗むことに成功してる訳だし)

 

 強奪なのか窃盗なのかはこれから話を聞かないと解らないが、盗人として確かな実力を持っていると言う評判が立つのはよろしくない。

 

「カンダタの親分に着いていけばお宝を盗みまくって面白おかしく暮らしていける」

 

 などと勘違いした犯罪者やごろつきなどが我を争って子分にしてくれと集まれば、あの洞窟への潜入も意味を半分程失ってしまう。

 

(頭目を逃して遊ばせておいたのは、失敗だったな)

 

 クシナタさん達にはカンダタのことも話してあったのだが、あくまで話したのは原作の流れ。

 

(下手に処断して、その後の流れが変わらないようにと考えたなら、俺でも逃がしただろうし)

 

 どうせ原作同様、命乞いをしてしつこく食い下がりもしたのだろう。

 

(現実になるとあれがどんだけめんどくさいかは、ダーマで元バニーさんのおじさまに実証済みだからなぁ)

 

 ともあれ、オーブを持っていったこともある。カンダタは何としても探しだし、きついお灸を据える必要があると思う。

 

「……そうか、ならばそのカンダタという男を追わねばならんな。待っているがいい、俺の手を煩わせること、後悔させてやろう」

 

 例え、シャンパーニの塔でクシナタさんにトラウマ級のOSIOKIをされていたとしても、懲りずに再び罪を犯したというなら、相応の罰をくれてやるべきだ。

 

(あ、けど……何処かの女戦士みたいにOSIOKIして欲しくて犯罪行為に手を染めてる変態になってたら――)

 

 ふいに、なぜそんなことへ思い至ってしまったかは、わからない。

 

(って言うか、何思いついてるんだよ、俺!)

 

 この手の発想は、何処かの腐った僧侶少女の専売特許だろうに。

 

(そもそもその流れなら、クシナタさんに惚れたカンダタかストーカーになる展開の方がまだあり得……あれ?)

 

 おかしい。ただ、嫌な想像を打ち消す為だけに提示した可能性だというのに、何故だか急に不安を覚えたのだ。

 

(いや、クシナタさんは一度カンダタに勝ってる訳だし)

 

 普通に再戦したなら後れを取ることなんてない、とは思う。

 

(そう、普通に再戦したなら……)

 

 ただ、俺の想像力はあっさりと普通以外の状況を想像した、例えば。

 

「もう一度OSIOKIしてくれぇぇぇっ!」

 

 イメージしたのは、そう叫んで飛び出し、町中でクシナタさんの行く手を塞ぐカンダタの図。

 

(……くっ、何て恐ろしいテロをっ)

 

 もう一度と言っているところが最大のポイントである。悪党が一人変態に堕ちようとどうでも良いが、ただの一言でかってクシナタさんがカンダタにOSIOKIしたことを周囲の人々に知らしめてしまうのだから。

 

(……と言う冗談はさておき、悪党は手段を選ばないものだからな)

 

 緊急時を想定してキメラの翼くらいは常備してると思うけれど、逃げるだけでは対処不能なえげつない手などいくらでもある。

 

(心配性と言われてしまうかもしれないけれど)

 

 イエローオーブはこちらが探してる品の一つだ。寄り道の理由には充分すぎる。

 

「それで、カンダタは今どこに?」

 

「実はそれなのでありますが……ロマリア」

 

 シャルロットと合流したら話をしないといけないなとも思いつつ、聞いた俺にお姉さんが挙げたのは、クシナタさん達が居るであろう場所ではなく、かつて通過した国。

 

「なっ」

 

「正確には、ロマリア周辺に潜伏していると思われるであります。どうやってか、昔の部下が捉えられたのを知ったらしく」

 

「……そうか」

 

 狙いはダーマの騒動で貴族や商人と一緒に捕まって方の裁きを受ける予定の、元部下か。

 

「しくじったな」

 

 以前ロマリアの側まで足を運んだことはあったが、あくまで近くまで行っただけ。ルーラの呪文で移動することは不可能なのだ。

 

(魔法の鍵はシャルロットが持ってるだろうし、関所を抜けるのは可能だけど)

 

 近くまで言ったからこそ解ることなのだが、ロマリアまでは結構距離がある。

 

(また馬を借りる必要がありそうだな。それにしても……もう会うこともないのではないかと思っていたロマリアの女王陛下にこんなに早く再会するかも知れなくなるとは)

 

 何とも言えない気持ちで俺は行き先を変更したのだった。

 

 




 流石に主人公がどこかのツインテール幼女になってしまうお話の怪人みたいなカンダタは拙いと思いましたので、まともな思考の元、動かしてみました。

 ただし、クシナタさんにOSIOKIされなかった、とは言ってません。

 されたとも今は言いませんが。

次回、第三百七十一話「予定って割とコロコロ変わるモノ」

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