強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十九話「残りの二人に出番の多さで妬まれてないと良いけど」

 

「ああ。それから、先日は助かった」

 

 思い返せばこのお姉さんがレッドオーブを届けてくれたお陰でオーブ探しの手間が一つ分省けたとも言える。

 

(と言うか、このお姉さんと会うと残りの二人のことも思い出すけど)

 

 このお姉さんはスレッジとして俺が育てた3人いる交易網作成の担当者の一人、つまりアリアハンの王に仕える人で、他にも老人と語尾に「っ」が付くお姉さんとの3人組だった気がする。

 

「いえいえ、これもお役目であります。バラモス討伐に必要な品とも聞いておりますし」

 

「まぁ、間違ってはいないな」

 

 モシャスだの、バラモス城に行ったことがあるか飛行出来る魔物を仲間にするだのと言った反則技を使わなければ、バラモスの居城へ赴くのに不死鳥ラーミアの協力は必須なのだから。

 

「それはそれとして、お前と同期の二人は何をしてる? 最近顔を見ないが」

 

「ああ、それでしたら、イシスとサマンオサにそれぞれ赴任中であります」

 

「ほう」

 

 好奇心からの問いに返ってきた答えへ声を上げてみるが、このお姉さん達の仕事を鑑みれば何もおかしくはない。

 

(むしろ俺が勇者の師匠兼同行者として交易網の方にかかりっきりになれないからなぁ)

 

 今更ながらにこのお姉さん達にしわ寄せが行っていないか気になり始め。

 

「しかし、それは大変そうだな……人手は足りているのか?」

 

「あ、それでありますが……実は人手不足になり始めておりまして、まことに恐縮ながらもしスレッジ殿にお時間がありましたら自分達の後輩を鍛えて頂きたいと申しているとお伝え頂けると……」

 

 聞いてしまったことが失敗だと気づいたのは、お姉さんが本当に申し訳なさそうな顔で拝んできた後のことだった。

 

「あ、あぁ。会うことがあればな」

 

 そう応じたモノの、ぶっちゃけそんな余裕など有るはずもない。

 

(そもそも、もうあの育成ツアーもやる訳にはいかないし)

 

 レベリングの為に狩った魔物達はやまたのおろちの部下で、そのおろちが改心してこちらに従っている現状でレベル上げの為に虐殺やらかしたら俺が外道である。

 

(って、そんなことしなくてもおろちに話を持っていって灰色生き物との模擬戦を頼めばいいのか……?)

 

 かってシャルロットも経験したというあの修行法ならば、灰色生き物が狩られすぎて絶滅するという危険もないし、俺が同行する必要もない。

 

(なんだ、割と良いことずくめじゃないか。やまたのおろちが健在だとか色々やう゛ぁいことがアリアハンの国王に筒抜けになるだけで)

 

 そう、たった一つ致命的な問題があるぐらいだ。

 

(うん、没だな。没)

 

 ジパングが魔物王国になってることも対外的にはヒミコが神通力で屈服させた魔物だとかそう言うことになってるはずであり、ヒミコの正体がおろちであることはジパングの国民さえ知らないというのに、外国人にばらせる訳がない。

 

(……となると残ったのはイシスの発泡型潰れ灰色生きも……あれ? 死んだ発泡型潰れ灰色生き物を生き返らせる為の世界樹の葉って回収したっけ?)

 

 そして だいかあん を もさくした けっか が ぽか の はっかく ですか。

 

(何で忘れてたし、あの逃げる経験値の数がそのまま修行効率に直結するのに)

 

 ひょっとしたらアランの元オッサン、今頃マリクと交代制で修行してるのではないだろうか。

 

(ここで気づいて良かった。悪いけれど伝言頼んで、クシナタ隊か元親衛隊の誰かに世界樹まで行って貰うか……)

 

 もしくは、時間のロスを覚悟して俺とシャルロットが行くか。

 

(とりあえず、これについてはシャルロットに相談してから決めるしかなさそうだなぁ)

 

 発泡型潰れ生き物が足りなくてマリクの修行に支障が出た場合、竜の女王にマリクをおろちの婿として紹介出来なくなる可能性が出てくる。

 

(それに、アランのレベル上げにも影響することを考えると、後回しにして良い問題じゃない)

 

 もちろん最優先はオーブの確保、世界樹の葉の確保は次点と言ったところだと思うけれど。

 

「あの、どうかしたでありますか?」

 

「ん? あぁ、実はスレッジの修行より効果のある修行法があるのだが、必要なものがあってな。かといって俺はオーブ探索で手一杯、どうしようかと思っていたところだ」

 

 問われて我に返った俺が、正直に話したのは、なんのことはない。このお姉さんが交易網作成の担当者の一人だからだ。

 

「必要なもの、でありますか?」

 

「ああ、世界樹の葉と言ってな、死者を生き返らせる力があると言われる品だ。この世界の何処かにある世界樹から一人につき一枚だけつみ取ることが出来るとも言われている。稀少な品故に市場に出回ることはないと思うのだがな」

 

 だが、数カ国に跨って交易の網を広げていれば、ひょっとしたら手にはいるのでは、とも思ったのだ。

 

「むろん、それだけでは運頼みになる。確実に必要枚数を集めるなら世界樹に赴いて摘んでくる必要があるだろう」

 

「……ひょっとして、世界樹の場所をご存じでありますか?」

 

「ああ、おおよそだがな」

 

 確か、四つの岩山の中間点がどうのこうのと何処かの猫が言っていた気がする。

 

「それはそれとして、だ。さっきイエローオーブを探しているかと聞いてきたな」

 

「あ、そうでありました。実はつい最近掴んだ情報なのでありますが――」

 

 お姉さんは言ったのだ、何でもカンダタという男に盗まれたのだ、と。

 




バハラタで直接カンダタと対決しなかったバタフライ効果の模様。

次回、番外編22「ノアニールの西の(クシナタ隊隊員視点)」

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