強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十五話「人捜しと手がかり探し」

「さてと、ようやく到着か」

 

 流石に着地の失敗などもう起こりえない。危なげなく降り立つなり、周囲を見回せば、この国は最初に訪れた時と殆ど変わっていなかった。

 

(いや、むしろ最初に訪れた時から日数を数えればこっちが普通なのか)

 

 ジパングという短期間で魔改造してしまった国があるが、むしろあっちの方が異常なのだろう。

 

(うん、元凶が何言ってるって感じだけど)

 

 ジパングもあんな国にするつもりはなかったのだ。

 

(シャルロットがてなづけたり俺が引っこ抜いた魔物達を預かってくれる場所があるという意味で、今は非常に有りがたい場所ではあるとしてもさ……ジパングの人には、結果的に魔物との共生を強制しちゃったようなものだし)

 

 そも、原作では勇者一行はアレフガルドに渡って帰れなくなってしまう為、勇者達が元居た故郷のその後は俺も知らない。

 

(バラモス倒した後、どうなるかは頭の痛いところだよなぁ)

 

 竜の女王のお願いを聞いた場合、おろちは女王の子供の親代わりとしてアレフガルドに赴く訳で、そうなってくるとジパングを治める者と魔物達を統率する者がほぼ同時に消えてしまうのだ。

 

(ジパングに行くだろうエピちゃんのお姉さんかレタイト辺りに頼むという手もあるけど、おろちとウィンディだと……)

 

 魔物としての強さや格という面でのグレードダウンは否めない。一応、元親衛隊の副隊長でイシス侵攻軍の総大将と言う経歴があるものの、後者に至ってはやむを得ぬ選択だった可能性もあるのだから。

 

(ダーマで転職したことだし、ジパングでひたすら灰色生き物と模擬戦して貰えれば実力差の方は埋まるかも知れないんだけど、こう、ビジュアル面が、なぁ。ローブを脱いだことで一見良くなったようにも見えるけど、見るのは俺でも人間でもなく魔物達な訳で……)

 

 ダークエルフっぽい格好と言うだけなら、だからどうしたと言われてしまうだろう。特に同じエビルマージからすれば服を脱いだだけである。

 

(ここはあれかな、専用装備で補……やめよう。こんな提案したら、元バニーさんのおじさまがハッスルして壮絶に際どい感じの「悪の女幹部」風防具を開発し出すに決まってる)

 

 がーたーべるとをダーマにばらまいてくれやがった危険人物だ、元バニーさんには悪いが、俺の認識では未だに要注意人物のリストから抜けていない。

 

(って、よくよく考えたらあの国、エピちゃんのお姉さんだけでなくおろちもいるんだっけ)

 

 うわぁい、じぱんぐ しゅうりょう の おしらせ だね。

 

(しまったぁぁぁぁっ)

 

 へた したら、じぱんぐ が にど と あし を ふみいれ られない まきょう と かす じゃない ですか。おれ の うっかりさん、てへっ。

 

(「てへっ」じゃNEEEEEEEE! ああ、元バニーさん、どうか無事で)

 

 今思い返すと、一人だけせくしーぎゃるの犠牲になってなかった気がするが、今はこの為の前振りだったように思えて、俺は祈らずには居られなかった。

 

「お師匠様、どうされたんです?」

 

「ん? あぁ、すまん。ジパングに旅立っただろうミリーとウィンディ達のことを少し、な」

 

 シャルロットの言葉で我に返りはしたものの、一度気になると隠すのは難しそうで、俺は正直に白状して二人で飛んできた方を振り返り。

 

「あ、言われてみると変わった組み合わせの夫婦ですもんね。けど、ちょっと羨ましいなぁ。ボクもいつか」

 

「っ、すまん。無神経なことを言った」

 

 人差し指をくわえた弟子の姿を見て失言に気づいた俺は密かに歯噛みする。

 

(うあああ、俺の馬鹿。シャルロットは大魔王を倒さなきゃ恋愛も許されない身の上だってのに)

 

 もう、こんなに失言が多いならいっそのこと無口系キャラに転向すべきなのかもしれない。

 

「え? あ、大丈夫ですよお師匠様。それに……達も……きり……」

 

「いや、さっきの言には配慮が足りなかった」

 

 何かごにょごにょ続とけるシャルロットに頭を下げると、東から南に顔の向きを変える。

 

「一刻も早く倒そう、バラモスを」

 

 出来ればゾーマと言いたいぐらいだが、それは言ってはいけない。シャルロットは、まだ知らないから。

 

(その為にも今は、やることをやらないとな)

 

 サイモンに関しては当人が勇者という有名人だ、探し当てるのは、もう一方と比べて遙かに容易だ。

 

「そう言う訳でシャルロット、お前はサイモンを探してくれ。人に聞くにしても同じ勇者からの方が居場所も聞きやすかろうしな。俺はイエローオーブの行方について探ってみる。もし進展があれば宿を取って宿屋で待機していてくれ」

 

 俺はシャルロットに指示を出し。

 

「はい、わかりまちたっ」

 

「よし、いい返事だ。……あ、部屋は一人部屋を二つ、な?」

 

 返ってきた返事に満足しつつも、以前の失敗を思い出して釘を刺す。

 

「えっ」

 

「いや、何故そこでどうしてという顔をする?」

 

 ねん の ため に くぎ を さそう と したら あんのじょう とか。

 

「とにかく宿のことは頼むぞ」

 

 振り返り、もう一度だけ頼んでから俺は歩き出す。

 

(交易網にも引っかからなかったって時点で有力情報を拾うのは骨が折れそうだけど、泣き言は言ってられないもんな。まずはその手の品を扱う店を探してみるか)

 

 持ち込まれているとは思えないが、あたりも付けず手当たり次第に聞いて回るよりはマシな筈。

 

「ちょっといいか? 美術品や骨董品を扱っている店を知らないか?」

 

「骨董屋、ねぇ……それなら、あっちに」

 

「助かる」

 

 たまたま出会った通行人から一軒の店を示されると、俺は礼を言って再び歩き出した。

 




してーあどべんちゃーの筈が何故か元バニーさんとかに不穏なフラグが立った件について。

次回、第三百六十六話「そう簡単に見つかれば」

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