「お師匠様、今頃何してるかなぁ」
昨日の夜、宿屋のベッドに寝ころんで窓から星空を眺めていた時と同じ言葉をボクは呟いていた。
(ロマリアだっけ、この国に一番近いの)
お師匠様はいろんな事を知っている、だから何処に行かれたか何て予想してもきっと当たらないだろう。
(それに、いつまでもお師匠様のことだけ考えてちゃ駄目だよね?)
そう考えつつも、気が付くと手がベルトに吊した「はがねのむち」の持ち手を弄ってしまっているのだけど。
「ゆ、シャルさん、どうされましたの?」
「う、ううん何でもないよ。これからどうしようかなぁ、って」
不意に声をかけられて一瞬どきっとしたけれど、嘘は言っていない。昨晩一緒になって決めたお忍び中の呼び方で声をかけて来たサラに頭を振って見せたボクは、動揺を誤魔化す為、更に言葉を続ける。
「ほら、お店が開いたら買い物して、その後ルーラで帰るくらいの予定は立ててるけど」
「ああ、新規メンバーのことですわね?」
「うん。お師匠様におじさんとみーちゃん、それからお師匠様と一緒に居た女戦士さんまでは決まってるとして……」
盗賊、魔法使い、僧侶、遊び人、戦士。ここに勇者のボクを加えると八人に足りないのは二人。
「成る程、バランスを考えるなら攻撃か回復の呪文を使える職業を入れるべきでしょうが、悩みどころですな」
「そう。けど、今のパーティーには武闘家や商人の人も居ないし」
僧侶のおじさんに頷きを返すと、ため息を着いてからみーちゃんことミリーに目をやる。
「みーちゃんが賢者になるって所まで考えると、商人や武闘家の人でも良いんじゃないかって気もするから」
「ごっ、ごめんなさい」
「あ、えっと」
「シャルさんは責めてるわけではありませんわよ? ただ、今後の計画を立ててるだけですの」
「そういうこと。むしろボクは頼りにしてるからね、みーちゃんのことは」
「「えっ」」
何故かサラまで驚いて声を上げたけど、今までもパーティーの盾になってくれていたのは事実だし、そもそもミリーが居ないとあの『修行』は出来ないのだから。
(な、内容はともかく、効果だけ見れば……)
進んでやりたいどころかもう出来ればやりたくない修行だけど、自分でも信じられないくらいに実力がついた。
(けど、あれからだよね。こう、油断すると後ろにミリーが居て)
すりすりとお尻を撫でられているような気がするように、なったのは。
(っ、そう……こん、な感、じ?)
今まさに触られているような気までしてきて身体を強ばらせつつボクは振り返り。
「す、すみません」
「うみゃぁぁぁっ」
視線のあったミリーから謝るのと同時にお尻を鷲掴みにされて悲鳴をあげた。
「っ、このエロウサギ! 謝りつつ何してますの?!」
「ほ、ほめふははひぃ、ふひはへふふぅ」
サラがミリーのほっぺたを引っ張って引きはがす間、ボクは青い空を見上げてふと思う。
「まだ見ぬ新人さんを苦行に突き落とすようなことを考えたからバチが当たったんじゃないか」
と。
(何か他の修行方法考えてみるべきなのかな)
効果があるのは間違いないものの、サラはともかく何の落ち度もない人をあんな目にあわせるなんて。
(第一、あの修行で力をつけたミリーから逃げられる新人さんなんていないよね……あれ?)
そこで、ふと気づく。ミリーが追う側では新人さんがすぐに捕まってしまって修行にならないのでは、と言うことに。
(けど、どうしよう。それじゃ、普通に新しい人を入れても無理なんじゃ……あ、ひょっとしてこれはお師匠様からの課題?)
わざと問題点を残してそれをボクに解決させようと言うことなのかもしれない。
(そっか、あぶなかったぁ。気づかなかったらお師匠様をがっかりさせるところだったよ)
逆にこの課題をクリアして結果を残せば、お師匠様はきっと褒めて下さるはずだ。
(わかりました、お師匠様。ボク、必ずお師匠様を満足させて見せますっ)
結果を出すことを胸中で誓うと、大きく息を吸って吐く。
「うんっ」
何だか急にやる気が出てきた。
「「シャルさん?」」
突然声を出したからか、みんなの視線が集中したけど、ボクは何でもないと頭を振って外を示す。
「そろそろお店も開いてると思うし、装備を買いに行こっ?」
宿の一室から指さす窓、お日様も完全に顔を出して、天気は良い。雨天だって出来るけどルーラで飛ぶならこっちの方が良いと思う。
「そうですな。これだけの港町です、きっと良い品も並んでいることでしょうしな」
「ですわね。呪文があるとは言え、流石に『ひのきのぼう』のままはきついですものね」
こうして買い物に出かけたボク達を待っていたのは。
「僧侶と魔法使い用の装備? うちには置いてないねぇ」
「「えっ」」
サラとおじさんに買える装備が置いていないという事実だった。
「ふむ」
揃って呆然としていた中、真っ先に我に返ったのは僧侶のおじさんで。
「どうしたの、おじさん?」
「よくよく考えれば、あの方はシャルさんに話しかけてお金を渡していたような気がしましてな」
「あ」
問いかけに返された言葉でボクもようやく気づいた。
(それって、つまり……)
あれはパーティーに向けての一言ではなく、ボクに対しての言葉だったのだと。
「愛、ですわね」
「ご馳走様ですな」
「ふぇぇっ?! ちょっ、そのボクとお師匠様はそう言うのと違くて、ううん、そうなったらい……あ、違」
まじめくさった顔で言い放つサラとおじさんの言葉にボクの顔が熱くなる。
「あ、あのすみません……このはがねのむちを頂けたら、その」
この時、ちゃっかりミリーが武器を買っていたことに気づいたのは、ボクが冷静さを取り戻し、ルーラでアリアハンへ帰る段階になってからだった。
勇者の装備しか殆ど売ってなかったのは、主人公のポカです。
さて、ポルトガでの休暇は終了し、アリアハンに戻るシャルロット一行。
目指すはルイーダの酒場か。
果たしてシャルロットの判断とは。
次回、番外編4「シャルロットの判断・中編(勇者視点)」
そろそろ検証用のデータ進めたい。