強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十三話「ダーマの出立へ」

「勇者サイモンがポルトガに居るらしいと聞いてな。次の目的地にたどり着くには船が要る。そこでサイモンがミリー達と乗っていたあの船を借り受けてこようと思うのだが」

 

 次の日の朝、俺は方針を明かしたが、説明は簡単だったように思われる。

 

(何せサイモンと一緒だった元バニーさんが居るからなぁ)

 

 残りのメンバーのうち魔法使いのお姉さんと賢者になったアランの元オッサンからなるカップルは、主に転職で一からやり直すことになったアランのハンデを埋めるべくイシスに飛んだ。今頃はおろちの婿候補のマリクと一緒に発泡型潰れ灰色生き物との模擬戦という修行に打ち込んでいる頃だろう。

 

(気にはなるんだけどね)

 

 イシスに立ち寄ると、日程が一日ずれてしまうのだ。

 

「ミリーも賢者としての修行は必要だろう。それに、オーブの眠る地球のへそはたった一人で挑まねばならん場所と聞く。ならば、わざわざ大人数で押しかけていっても時間を無駄にするだけだからな」

 

 ぶっちゃけ俺一人でも充分だが、回復呪文の使えないことになっている俺が単騎で潜入するのは、シャルロットが異を唱えそうな気もする。

 

(だからってシャルロットを送り出した場合、帰ってきた時は仲間になった魔物とパーティーが構成されてる、なんてオチがありそうな気もするんだけど)

 

 これ以上魔物のおともだちが増えるとジパングがパンクしてしまわないかとちょっとだけ不安になる。

 

「大丈夫、ミリー。ボクもだいぶ強くなったし、お師匠様が一緒だから、海の魔物に遅れは取らないし」

 

「……シャル」

 

「まぁ、そう言うことだ。地球のへそに関しては俺が忍び足で魔物との戦闘を避けつつこっそりオーブだけ回収してきてもいいしな」

 

 ランシールまでの航路で魔物と遭遇する可能性をすっかり忘れていた俺の顔は、シャルロットの言葉にひきつりかけるも、何とか取り繕い、便乗する形で自分が潜ってきても良いのよとアピールしてみる、ただ。

 

「あ、それには及びませんよお師匠様。強くはなりましたけど、お師匠様のお手を煩わせるばかりじゃ申し訳ありませんし……良いところを見せれば……」

 

「ん?」

 

「あ、何でもないでつ」

 

 後半ボソボソとしゃべっていて聞き取れなかったが、シャルロットも自分が挑戦する気でいるらしい。

 

(うーん、確かあそこミミックか人食い箱が宝箱に混じってた気がするんだよなぁ)

 

 そう言う意味でも宝箱の中身を判別する呪文の使い手である俺が行った方が良いように思えるのだけど。

 

「まぁ、どちらが潜るかは船を借りてから決めても遅くあるまい」

 

 場合によっては、クシナタ隊のお姉さんに一人、こっそり着いてきて貰って俺の影武者を任せ、俺自身はレムオルの呪文で透明になってシャルロットを尾行するという方法もある。もちろん、反則だけれど。

 

「……話を戻そう。目的地が決まった以上、もはやこのダーマに留まる理由はない。俺とシャルロットはこのままポルトガに向かうつもりだ。今回世話になったエリザの仲間ともここで別れることになるだろう。ミリー、お前の『おじさま』ともな」

 

「っ」

 

 元バニーさんは俺の指摘に、息を呑むも、こればっかりは仕方ない。

 

「秘密裏に掠うことが出来たとは言え、今回の騒動に関わっていたことを知る者は居るはずだ、となればこのままダーマに置いておく訳にはいかん」

 

 かといって故郷のイシスへ送還するのは敵対行為を働いていた経緯を鑑みれば論外だし、当人も承伏しかねるだろう。

 

「ロマリアも選択肢からは消える。女王陛下はエリザの元仲間だが、他の商人達やごろつき達を罪人として委ねてるからな」

 

 同じ場所に送っては問題になる。

 

「残ったのは、コネなりツテがあるアリアハン、サマンオサ、ジパングだが、魔物のウィンディと一緒になると決めた時点で、最初から選択肢は一つしかなかったとも言えるな」

 

 魔物と人が共存している国と言えば、ジパングを置いて他にない。そもそもジーンという前例があるので、犯罪者を匿うという意味でもうってつけだ。

 

「バラモスに余計な時間を与えたくはない、と言う意味では時間を無駄にすることは許されん。だがな、ミリー。もし、ジパングに寄り道するとしても俺は止めん」

 

「……ご主人様」

 

「家族、というのはいいモノだ。血が繋がっていなくても、な」

 

 思えば俺もこの世界に来てしまってから家族に会っていない。

 

(ホームシックにかかるにはまだ早い気もするけれど)

 

 中身の俺はさておき、この身体の方にも家族は居るんだろうか。

 

(……元の世界に帰るとか元の身体に戻るどころじゃ無いんだけどね)

 

 バラモスもゾーマもこの世界では、まだ健在なのだ。

 

「ただ、寄り道するならしっかり言っておいてくれ。あんなモノをばらまくのはこれっきりにするように、とな」

 

 しんみりしてしまいそうだったので、冗談めかして切実なお願いを元バニーさんに俺はして、ではなと踵を返す。ウィンディ達にも挨拶をしておく必要があるのだ。

 

(表向きは、だけどね)

 

 実際には、今後の指示を出す為に一人向かう先はカナメさんの部屋。

 

(ウィンディの所は商人のオッサンが居る可能性があるからなぁ。元バニーさんと鉢合わせしたら拙いし)

 

 自分から玩具になりに行く気はないので、スミレさんの部屋も除外。女王陛下はお付きの人がいて内密の話がしにくいことを鑑みると、他の選択肢は最初から無かった気もしてしまう。

 

「……と言う訳でな。クシナタ隊のメンバーを一人借りて行こうと思う。シャルロットには面識のない者で」

 

 出立前に旅装として、フード付きのマントを二つ用意し、シャルロットを送り出すタイミングで入れ替わると言うのが俺の立てたプランだ。

 

「わかったぴょん。スー様の体格に合わせると、靴を底上げしても任せられそうなのは一人しかいないから、その子を呼びだして話を伝えておくぴょん」

 

「無理を言ってすまんな」

 

 何とも言えない表情で応じたカナメさんへ、俺は頭を下げた。

 

 




ぐぎぎ、出発に至れなかった。

次回、第三百六十四話「出発と到着」

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