「……はぁ」
あの時のことを思い出すと、つい掌を見てしまいますが、後悔はしていません。
(勝手に決めつけて、勝手に動いて……)
私からすれば、借金を返して元気でやっていると言うだけで十分だったのです。
(ご主人様やシャルへの危険が減るからって、おじさまが犠牲になって素直に喜べるはずが無いのに……)
何故、解って下さらなかったのでしょうか。
「おじさま、許して貰えてるでしょうか……」
その後、連れ出したおじさまには戻ってきた皆さんに感謝と謝罪をするようにと言って部屋の外に出し、一人残された部屋の中で私は天井を見上げます。
(ご、ご主人様達もそろそろ戻ってくる頃ですよね)
気にはなるものの、今更様子を見に行くことも出来なくて、ドアがノックされたのは、丁度悶々としていた時のことでした。
「おじさま? まだ私は――」
「ミリー、ちょっといい?」
「え? しゃ、シャル?」
怒って居るんですからね、と続けるより早かったのは、きっと幸運だったのだと思います。
「すみません、すみません、その……おじさまが戻ってきたのだとばかり」
ドアの向こうから聞こえたのは、間違いなくシャルの声で慌てて駆け寄った私はドアを開けるなりシャルに謝罪します。
「ふふ、それだけミリーもあのおじさんを心配してたんだよね? ボクなら全然気にしてないから」
(私ったらなんてミスを……)
シャルは笑って許してくれましたが、とんでもない失敗でした、ただ。
「それで、そのおじさま何だけど……『戻ってきたかと思った』ってことは行き違いかな?」
「えっ」
「あ、お師匠様も戻ってきてて、ミリーのおじさまがどうなったかって気にし」
「ご主人様が? 私、行ってきます」
前言撤回とはこういう時に使うのでしょうか。
「ちょっ、ミリー?」
シャルは驚いてるようでしたが、そう言うことなら話は別です。
(おじさま、ご主人様に変なこと言ってないと良いのですけど……)
おじさまからすると、ご主人様は自分が払おうと思っていた私の借金を肩代わりした人。
(おじさまを信用していない訳じゃありません。ですけど、おじさまは……)
時々暴走するのです。父が生きていた頃は、父が抑え役になったり叱っていましたが、今はそんな人も居ないはずで。
(どうしよう、よく考えればご主人様と顔を合わせることになるなんて解っていたのに)
部屋を飛び出し、廊下を進む足は自然と速くなりました。
(お、おじさまがご主人様に変なことを言いそうになったら、止めて……それからご主人様とシャルにもおじさまを助けて頂いたことのお礼をもう一……度?)
ただ、ご主人様の所に行く途中で、更にもう一つ失敗をしてることに私は気づいたのです。シャルにまだお礼を言っていないことに。
「ミリー、待っ」
「す、すみません、ごめんなさい。シャルにもおじさまを助けるのに協力して貰ってるのに、、私……お礼も言い忘れて」
とんでもない失敗をしたと思った矢先に、この失敗。穴があったら入りたいです。
「えっ、あ、い、いいよ」
そんな私にシャルは頭を振って。
「ミリーは友達だし、ミリーのおじさんを助けるって決めたのはお師匠様で、ボクはただ従っただけだから……だからさ、ミリーがお師匠様のことを聞いたとたん飛び出していった理由はわかってるつもり。行こうよミリー、お師匠様の所に」
「……シャル」
この人と友達で本当に良かったと私は思いました。
「ありがとう、ありがとうございます」
だから、今度こそお礼を言うと差し伸べられた手を取り。
「ボクが先行するね、お師匠様は多分まだあそこにいると思うから」
「そ、そうですね……よろしくお願いします」
進むシャルに手を引かれる形で、私達は向かいました、ご主人様の所へ。
「シャルロット」
「えっ、お師匠様?」
いえ、向かおうとしたと言うべきかもしれません、途中でご主人様と鉢合わせることになったのですから。
「さっきの話だがな、全員で集まって話をした方が良いと言うことになった。それでお前とミリーを呼びに来たのだが」
「あ、じゃあ丁度良いですね。ミリーも連れてきましたし」
「だな。お前達が来ればおそらく全員が揃うだろう」
「っ」
お礼を言いに行こうとした所へご主人様が呼びに来て下さるなんて思ってもいませんでしたが、このままでは機会を逸してしまいそうで。
「ご主人様」
気づけば私はご主人様を呼び止めていました。
「ん?」
「ご主人様、その……ありがとうございました、おじさまのこと」
もう、失敗をするつもりはありません。
「あ、あぁ……気にするな」
「ご主人……様?」
ただ、ご主人様のお返事がどことなく端布悪そうな様子だったことが少し気になりました。
(私、何か粗相をしたでしょうか?)
そんなことないと一笑に付すことが出来れば良かったのですけれど、今日の私は失敗続き。
(け、けど直接ご主人様に「何か粗相をしたでしょうか」と伺うなんて)
とても出来そうにありません。
(……後で、ご主人様しか居ない時なら出来るでしょうか)
人目のない状況で、勇気を振り絞れば、きっと。
(行かないときっと後悔しますよね……ですから)
お話が終わったら、ご主人様のお部屋へ伺うことを密かに心へ決めたのでした。
おじさまがゲシュタルト崩壊しそう。
元バニーさん主人公の部屋への突撃を決意。
いやぁ、主人公の心の内を知らないからこそですよねぇ、この行動。
さてさて、どうなることやら。
次回、第三百六十話「忘れ物の回収、そして出来たら改修」