「これがワタシの扱ってる本当の商品ヨ」
横に退いて胸を張る青年がさっきまで居た場所へせり出してきたのは、展示ケースの様なもの。
「本?」
その中に数冊並べてあったのは、そうとしか形容出来ないもの。
「そう、本ネ。ただし、この本、ただの本違うヨ。全部ワタシが書いたネ」
「……作家だったと言う訳か?」
おれが、そう問い返すと、青年は惜しいネと首を横に振る。
「ワタシ作るの、複製品ヨ。だいたいの人、贋作とか偽物言うネ」
「贋作?」
言われてからケースの中をよく見てみると、置いてあった本には見覚えがあった。
「これは悟りの書?」
賢者に転職したい者にとっては喉から手が出る程欲しいであろうアイテムだったのだ。
「しかし、贋作と言うことは」
「お察しの通りヨ。ワタシの複製品で転職出来る確率はだいたい30~50%、本物には到底及ばないヨ」
「は? いや、確率にはなったとしても転職出来るのか?」
俺が二度驚いたのだって仕方ないと思う。
「それぐらい出来ない様じゃ、商売としてやっていけないネ。そもそも、全く効果のナイ偽物と効果があるかも知れない偽物じゃ、お客さんの食いつきも違って来るヨ」
「いや、それはそうだが……」
とりあえず、話を聞いて驚き、説明に一応納得もした。ただ、同時に疑問も覚えた。
(あのクリーチャー、何でこの青年を俺に紹介したのやら)
時々本物同様の効果がある偽物を作り出すことが出来るのは凄いと思うが、紹介した理由の方が思い至らない。
(俺が話したのは、布と糸が必要だってことと)
拡大解釈しても、旅をしていることぐらい。クシナタ隊の誰かが漏らしたのも、カナメさんを含むクシナタ隊の一部が俺と恋仲になりたいと思っているとか、そう言うことぐらいだと思う、あのクリーチャーの誤解を加味しても。
(ただなぁ、そうすると「あいつらには知られていない」ってのが引っかかるんだよな)
反勇者連合と敵対してるとか知らなければ、ああ言う口ぶりにはならないんじゃないだろうか。
(うーむ)
一応、この青年に直接聞くという手はあるが、あのクリーチャーもこの青年も新入りの商人達が好き勝手やってるから敵対しているように思える。
(一応、こっちの目的の一つに『おじさま』の救出が含まれてることを鑑みると、ここで質問するのは、得策じゃないかもしれないんだよなぁ)
好き勝手やらせてるのも、最終的に自滅する為の仕込みだとすれば、やらせてるのはあの商人のオッサンで、目的はどうあれその行動の結果、迷惑を被ってるのがこの青年やあのクリーチャーなのだ。
(反勇者連合を倒す、なら協力してくれそうだけど)
元バニーさんのおじさまを救出するとなると逆に敵に回る可能性もある。
「はぁ……お客さん、盗賊やってる割には真面目ネ」
俺が考え込むのを海賊版反対的な意味合いで好ましくないとでも思っていると誤解したのか、そう告げた青年は嘆息すると展示ケースを押し込んで元の棚へと戻し。
「けど、紹介された手前ワタシにも意地はあるヨ。実はワタシもう一つ商売してるアル。ただし、商品はココヨ」
告げつつ叩いたのは、自分の頭。
「頭?」
「さっきのリスト、どうやって作ったと思うアル? ワタシ副業で情報屋やってるからアルヨ」
「ほう」
ぶっちゃけ、さっきの贋作でも割と凄いと思っていただけに、まさか他にも引き出しがあるとは思っていなかったは俺は、思わず声を漏らしていた。情報という品なら、その重要さに気づかない者以外には需要があることだろう。ひょっとして、あのクリーチャーがここを勧めた理由はこちらの方だったのか。
「ふふふ、こっちはお気に召したようアルな。もし知りたいことあるなら聞くヨロシ。リさんの紹介だから、情報一つタダでいいヨ。もっとも、二つめ以降はお代頂くし、それとは別に表向きの商品を買って行ってくれるとワタシ嬉しいアルが」
「なるほどな。まぁ、俺としては得られる情報次第だな」
この青年が商売をしていることを鑑みるなら、求める情報もそれに関係したモノの方が、詳しいことを知られると思う。
(反勇者連合の方を突っ込んで聞くのは、商人のオッサンを救出したいなら聞かない方が良いだろうし……となると、やはりあれかな)
商人が関連していそうで、手元になくて欲しい品。
「イエローオーブと呼ばれる宝珠を知っているか? 竜を模した像の台座にのった姿をしていると思うのだが。その現在の所有者を出来れば知りたい」
赤と緑、そしてシルバーは既に手元にあり、紫はおろちが所有。消去法で残りは青と黄色のみなのだ。
(地球のへそで片方は入手出来るはずだし、ここで持ち主が解れば)
譲って貰うことで全てが揃う。
(まぁ、そこまでうまく行く保証はないし、上手く言ったら出来すぎな気もするけれど)
他に尋ねるべきモノも思いつかない。だから、それで良かったのだと思う。
「イエローオーブ……ちょっと待つアル。何処かで聞いたような」
青年の言葉が、それを証明した。
次回、第三百四十四話「心当たり」