「バラモスを倒す為にも、下手に警戒させるのはよろしくない」
故に俺が考えたのは、パーティーを二つ用意するというモノだった。
「一方は囮だ」
此方に勇者を配し、かなりのんびりペースで旅をさせる。
「お師匠様?」
「この囮に目を向けさせ、注意を逸らしつつもう一方のパーティーで情報を集め、バラモスに対処するべく動く訳だ。今日の休暇のように素性や実力を極力隠してな」
勇者を囮に回す、と言ったところでシャルロットが驚いた顔をして此方を見たが、俺は敢えてそのまま説明を続けた。
「ただ、勇者と言ってもシャルロットを囮の方に配するとは言っていない」
筆談だからこそ、声は殺され視線が俺に集中する。
(まぁ、配置しないとも言っていないけどね)
今のところ、勇者一行はアリアハンから出ていないことになっている。
「そこで、ロマリアに渡ってからは別の人物を勇者に仕立てる。偽勇者というか、影武者だな」
この時シャルロットは勇者の仲間という立ち位置に移動し、状況によってはもう一方のパーティーへ移動する訳だ。
「勇者オルテガを直接知っている者と遭遇するとややこしいことになるという欠点もあるが、頭をすっぽり覆う防具で誤魔化すなり手はある」
疑われることも計算の上、後でアリアハンの国王に掛け合い勇者一行であるという証明書を一筆書いて貰おうかなとも思っている。シャルロットが同行中は嘘でもない訳だし。
「それで、囮パーティーにのんびり旅をさせると書いて貰ったが、これは裏のパーティーつまり本命側のパーティーメンバーが揃う為の時間稼ぎでもある」
同時に偽勇者を仕立てる時間もこれで稼ぐ。
「勇者の影武者に要求されるのは、武器を振るう技量と魔法使い及び僧侶の呪文を行使する能力」
勇者には勇者しか使えない呪文があるものの、わざわざ呪文を使わなければいけないというルールもない。
(精神力を温存するって理由付けすれば、呪文控えめでも疑念は持たれないだろうし)
そもそも勇者の専用呪文で真っ先に思い浮かぶ攻撃呪文のギガデインは覚えるのが当分先なので、今は気にする必要もないだろう。
(先に覚える電撃呪文ライデインでさえ結構先だった気がするもんなぁ)
問題があるとすれば、そんな何でも出来るような人材が居るのかという疑問。もちろん、提示してきたのは俺ではなく、ペンを走らせてこっちに見せてきた僧侶のオッサンだ。
「今は居ないが、聞いたところによるとこの大陸の東に職業を変えられるダーマと言う神殿があるらしい」
転職を行うことで複数の職業の呪文を会得することも可能だとシャルロットに書いて貰えば、納得したらしくオッサンは紙を引っ込め。
「そして、一定以上の経験を積んだ遊び人は僧侶と魔法使い両方の呪文を会得出来る『賢者』への転職がかなうとも聞いた」
俺の投げた爆弾にまずシャルロットが自分の口を押さえてバニーさんをガン見し、慌てて書き上げた文を見て今度は驚きの表情を浮かべたオッサンと女魔法使いの視線がバニーさんに集中する。
「ただし、転職は全く別の道を歩み始めると言っても過言ではない」
レベル1からのやり直し、当然いきなり魔物の強い場所に引っ張り出すのも危険なので、囮パーティーをゆっくり進ませるのにはレベル1になってしまったバニーさんを危険にさらさず通用するところまで育成するという狙いを含む。
「装備はシャルロットも賢者も扱えるモノを選んで出来るだけ共有するか、同じモノを身につける」
幸いにもバニーさんとシャルロットの体格はあまり変わらない。ある一点を覗いてはだが、これは俺が続けたようにサイズ違いで同じモノをあつらえてペアルックすればいい。
「それでだ、実質『実働部隊』となる側にはルーラの使い手が複数居ることが好ましい」
一人は途中で囮部隊から離脱するシャルロットに担って貰い、もう一人については丁度この中にいる。
「実力が要求されるのでな、サラには『実働部隊』が準備出来るまでとある『修行』を行って貰う」
人数的な不足もあるのでルイーダさんの所で追加斡旋して貰うメンバーと共にだ。
「お師匠様、その修行って」
と明らかに引きつった顔に物を言わせるシャルロットに俺は頷いた。
「今回の騒動の罰だな」
新人さんには申し訳ないが、魔法使いのお姉さんの方はあれがあるからあまり心が痛まずに済む。
「魔物の数が急激に減ると此方が腕を上げつつあることにバラモスが気づくかもしれん」
その点を考えれば、セクハラ鬼ごっこは実に優れた修行だと言える。受ける側からするとロクでもないモノだったとしても。
「ご主人様、と言うことは……」
空いた手をワキワキさせながら紙を見せるのは止めてくれませんか、バニーさん。
(しあわせのくつがもっとあればなぁ)
あのレアアイテムを盗むことが出来る魔物、はぐれメタルが出る場所でこの世界限定なら俺が覚えているのはバラモスの城だけ。
(流石にその為だけにネクロゴンド目指す訳にもいかないし)
ともあれ、俺が見せられる考えの大半は提示した。
「最後に俺だが、時折パーティーを抜けて単独行動する許可を貰いたい。多少の無理なら可能だからな。ダーマ神殿とやらに向かうルートを探ってみようと思う」
出来ればシャルロットは連れて行ってやりたい気持ちもあるのだが、今後のことを考えるとまだ魔法が使えることが明かせない。
(聖水、ルーラ、アバカムがあれば行動範囲はけっこう広くなるはずだし)
自由裁量を得られることで出来ることはかなり大きい。
「追加の人員の選択はシャルロット達に任せるが、修行の都合上女性が好ましい」
流石にいくらバニーさんでも男の尻は狙わないと思うので。
「異論がなければこれで動こうと思うが、皆はどうだ?」
得心がいったのか、引きつった顔で笑うシャルロットに俺は肩をすくめつつ頷くと、周囲を見回したのだった。
虚と実、二つのパーティーがもたらすは魔王の油断か、それとも。
主人公は自由裁量を求め、そこにいくつもの狙いを内包す。
計画を打ち明けられた勇者一行が下す決断は、そして罰ゲームにリーチがかかっているサラの運命は。
次回、第三十四話「天の配剤」
新キャラが登場するかもしれません。