強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百三十五話「夢なら良いのに」

 

「しっかしなぁ」

 

 我ながら凄いというか、変な夢を見たものだと思う。

 

「ゲームの世界に憑依トリップとか、二次創作小説でもあるまいに」

 

 と言うかせくしーぎゃるが変態過ぎるし勇者パーティーの女性比率は高すぎるわ、おまけにクシナタ隊なんて女性だけの原作にない集団まで出来ちゃってる始末。

 

「まったく、なんて夢を見たんだか」

 

 引きつった笑いしか出てこなかった。

 

「まぁ、居眠りして見た夢じゃないだけマシかな」

 

 寝言で夢の中で口走ったようなことを言っていた上、誰かに聞かれたりしていたらきっと俺の人生は終わっていたと思う。

 

「ただ、な」

 

 記憶にあるのは、やたらリアルな感触。

 

(シャルロットや元バニーさんには夢でもいいからもう一度会ってみたい、何て思うからかな)

 

 まるで誰か一人を抱きしめているかのような感触と重みが腕の中にあるような気がするのは。

 

(おかしいなぁ、夢だった筈なのに)

 

 お師匠様と俺を呼ぶ声が聞こえる気もする。これではまるで、現実を夢だったことにして逃避しているようではないか。

 

(解せぬ)

 

 そもそも、ラリホーをかけられたのにしっかり周囲の様子が把握出来ているというのもおかしい。

 

(これじゃまるでラリホーが効かなかったことを含めて色々誤魔化そうとしてるみたいじゃないか)

 

 そんなこと、ありえないというのに。

 

(……って、言い切れたらなぁ)

 

 解っている、解っていた。

 

「お師匠様」

 

「……シャルロットか。すまんが、俺が下敷きにしたこの元エビルマージにベホイミを頼む」

 

 二人分の重みが直撃したからな、と言い添えると俺は目を開けた。

 

(まぁ、夢だったことに出来るならこんな苦労はしてない、か)

 

 だが、忘れよう。左肩の感触は。

 

「それと、そこの二人、ミリーを頼む」

 

 自力で無理なら他人を頼る。そんな当たり前のことを今になって思い出せたのは、吹っ切れたからだろうか。

 

「すみません、ご主人様。私……」

 

「謝罪なら俺よりも下敷きになった者に言ってくれ、あと動かんようにな。眠って静かにはなったようだが、怪我をしてる可能性は残っている」

 

 とりあえず、元バニーさんにもラリホーは効かなかったようだが、変態一号には効果があったらしい。

 

「このまま目を覚まさなければ、こいつのがーたーべるとについては何とかなるだろう。怪我の功名というのも問題がありそうではあるが」

 

 俺が席を外せば残りは全員女性陣、着替えさせても何の問題も無いと思う。

 

(出来れば、エピちゃんの方も何とかしたいところだけど)

 

 お姉さんの方をどうにかしようとシャルロット達に任せた結果が、俺の頭の下にある状態だ。

 

(不意打ちでラリホーとかかけて剥ぐ方がよっぽど確実かもなぁ)

 

 元エビルマージと言うことで、呪文への耐性とかがあるのではとも思っていたのだが、ラリホーの呪文が効いたという実例が存在する以上、試してみてもいいんじゃないだろうか。

 

(まぁ、どっちにしてもこの状況を何とかしてからだけど)

 

 少なくとも、元バニーさんがスミレさん達に起こされるまで出来るのは考えることと、左肩に当たる感触を意識しないようにすることぐらいだ。

 

(後は、祈ることぐらいかな。「頭の下の変態さんが上から退くまで目を覚ましませんように」って)

 

 相手がせくしーぎゃるで変態な上に事故なのでセーフと主張したいところだが、それで問題がないなら最初からシャルロットに助けを求めたりなどしない。

 

「スー様、お待たせ」

 

「もう良いぴょんよ?」

 

「そうか、すまんな」

 

 だから、いつ起きるか解らないという意味では中々にスリリングな時間だった。

 

「さて、と」

 

 身体の上の重みが無くなったなら、身体をベッドの外側へスライドさせればこと足りる。

 

「っ、なんとかなったか。シャルロット」

 

「はい、お師匠様っ。ベホイミ!」

 

 身体がずり落ち、お尻を床にぶつける形になったが、許容範囲だ。

 

「やれやれ、俺もまだまだだな」

 

 とは言え、尻もちをついている所を含めて、弟子の前で醜態をさらしたのは紛れもない事実。

 

「寝ているなら着替えさせるという意味でも好都合だろう。俺は席を外す」

 

 エピちゃんのお姉さんが縛り付けられたベッドに近寄らなければ、もうこんなアクシデントに見舞われることはないと思うものの、格好に問題がありすぎる。

 

(いくら、今の状況の方が頭が冴えるって言われてもなぁ)

 

 俺としてはチェンジと言わざるを得ない。

 

(まぁ、事故とはいえ怪我させちゃったかも知れないし、お詫びを兼ねてまともな防具でも買って贈ろうかな。アクセサリーとセットで)

 

 上手く行けば、変態一号を封印出来るとも思う。

 

(って、ひょっとしてこの方法でカナメさんに何か贈れば「お揃いにしたい」ってあの二人も同じものを着ようとするんじゃ)

 

 変態でせくしーぎゃるが二人分一気に解決するなら、試してみる価値はある。

 

(となると、モノは遊び人と盗賊の双方が装備出来る防具、かぁ)

 

 複数入手する必要があることを鑑みると、非売品は現実的でない。

 

(全員女性な訳だし、女性専用装備なら職業関係ないモノが多かった気もするな、えーと……あれ? 女性専用装備って水着以外にあったっけ?)

 

 そもそも、水着は非売品ではなかったか。

 

(ひょっとして、これは元バニーさんの『おじさま』の協力が不可欠だったり?)

 

 まさか、こんな所でまであの商人に生きていて貰わないといけない理由が出てくるなど、俺は予想だにしていなかった。

 

 




夢オチにしたかったけど、無理があった模様。

次回、第三百三十六話「マジカルスカート? そんなのありましたっけ?」

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