強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百三十四話「こちらのやり方」

 

「まず相手は複数の集団からなるようだが、全てを俺達が相手にする必要はない」

 

 カンダタ一味の残党はこちらの手で片付ける必要があるだろうが、商人連中については物理的に排除出来る類の相手には思えないし資金提供しているという貴族への対処も俺達では難しいと思う。

 

「そもそも、相手が実戦に投入出来るのは、カンダタ一味の残党と金で雇った相手になる訳だからな」

 

 これらの実行部隊を叩いても金で代わりの戦力を雇われるだけかも知れないが、少なくとも雇って編成するまでの時間は稼げるし、モシャスによる入れ替わりを警戒しているなら、金で戦力を揃えるのにも通常より手間がかかるはずだ。

 

「あの、けどお師匠様……それだと時間稼ぎにしかならないような」

 

「確かにな。だが、貴族についてはお前の活躍で得たコネなどで各国の王へ繋ぎを撮れば何とか出来る可能性もある。サマンオサの王とイシスの女王なら、まず協力してくれると見て良いだろう、公式にお前を勇者と認めているアリアハン国王もな」

 

 宮廷内闘争なんて思い切り畑違いで管轄外だ。他の国にしても交易網作成で利益を得ているはずだし、頼めば貴族の動きを封じてくれる可能性はある。

 

「実働部隊が倒され、貴族からの資金提供が止まれば、残った連中は打つ手が無くなる」

 

 そこで倒したカンダタ一味の残党が、反勇者連合の悪事を白状してくれれば、それを理由に残った商人達は役人へ突き出すことが出来る。

 

「それで、この件は終了だ」

 

「随分自信ありげぴょんね? そんなに上手く行くぴょん?」

 

「おそらくはな。先程の話通り、ミリーの『おじさま』がこちらの敵を集結させ諸共に滅ぶつもりなら、勝負を決める為の弱点というか急所は必ず用意してあるはずだ」

 エピちゃんのお姉さんにはバレバレだったとは言え、俺はそこまで読めなかったし、対峙した時やりづらい相手だと思ったぐらい頭の切れるオッサンだったのだ、細工の一つや二つは仕込んでいると思う。

 

「問題が一点あるとすれば、どのタイミングであの商人を救い出すか、ぐらいだな」

 

「ご主人様……」

 

「どうした? あんな裏があると聞いて見殺しにする筈がないだろう」

 

 後味の悪いのはゴメンだし、俺としては他にも助けないといけない理由が幾つかある。

 

(イシスの商人やイシスへ来た商人が襲われたのも、バラモスの軍勢がイシスへ侵攻しようとしたのも、元はと言えば、俺が原作に色々手を出したからだもんなぁ)

 ついでに言うなら、あのオッサンが作りだそうとしていた神秘のビキニのこともある、ただ。

 

「ご主人様、ご主人様ぁっ!」

 

「うおっ」

 

 ちょっと、迂闊ではあったかもしれない。よくよく考えると、あの商人のオッサンへの気遣いは元バニーさんへの気遣いともとれたのだから。身体能力的には、元バニーさんが抱きついてきた所で、どうということはない。少し驚いたといった程度で済むのだが、それは衝撃のみの話。

 

「あ、ありがとうございますっ……ありが――」

 

「お、落ち着、あ」

 

 無自覚に押しつけてくる柔らか質量兵器に動揺した隙をつかれてしまった、とも言えると思う。バランスを崩したと気づいた時にはもう遅く。

 

(ちょ)

 

 倒れ込む先は、一つのベッド。丁度変態一号が縛られている方である。

 

「あ」

 

「くっ」

 

 咄嗟に元バニーさんを抱き込んだのは、下敷きにしない為。無理矢理床に倒れることも出来たかも知れないが、俺は躊躇った、そして。

 

「きゃああっ」

 

「ぐふっ」

 

 一つの悲鳴に息絶えた人が最期に言い残す台詞のようななにかが続いた。

 

「お師匠様! ミリー!」

 

「スー様!」

 

 きづかってくれる のは ありがたい けど、だれか ひとりぐらい えぴちゃん の おねえさん も きづかって あげようよ。

 

(位置的にお腹当あたりに倒れ込んだもんなぁ)

 

 身体は後ろ向きだったので絶対とは言えないが、さっきの「ぐふっ」は俺の頭が腹部に落ちて空気がし出されてのものだったのではないだろうか。

 

(って、冷静に考察してる場合じゃない。とりあえず、エピちゃんの姉さんの上から降りないと)

 

 元バニーさんも抱えて倒れたので、結構な威力になっていたはずだ。下手すると骨だって折れているかも知れない。

 

「すまん、二人とも大丈夫か? シャルロット、すまんがこ」

 

「あんっ」

 

「え」

 

 身じろぎしつつ何とか起きあがろうともがくと腕をベッドの縁にかけようとした瞬間、左肩が柔らかなものにめり込み、俺は固まる。

 

(しまった、頭がお腹の上って、つまり……)

 

 肩が当たったのが何かは言うまでもない。

 

「はぁはぁ……っ、そ、そこ……は」

 

 お腹を圧迫しているからか、何処か弱々しい声が左から聞こえ。

 

(だから、解ってますって……ん? あ)

 

 声には出さず、応じてから気づく。

 

「よくかんがえる と このへんたいさん がーたーべると と ふくめんがわり の ぱんつ いがい なに も つけていないんじゃ ありません でしたっけ」

 

 と。

 

「あ、す、すみませんご主人様、今退きま」

 

「な」

 

 腕の中から上擦った声が上がり現実に引き戻されるが、今身体の上で動かれたら、状況が悪化する気しかしない。

 

「ちょっと待、シャルロット、頼む! ラリホーを」

 

 思わず弟子に助けを求める形になったけれど、仕方ないと思う。俺の身体は遊び人の経験があり、バニーさんも元遊び人、眠りを誘う呪文に巻き込まれても効かない可能性はあったが、他に方法が思いつかなかったのだ。

 

「は、はいっ! ラリホーっ!」

 

 願わくは、シャルロットの呪文が効いてくれますように。祈りつつ、俺は目を閉じた。

 




 かっこよく さくせんかいぎ を はじめたはず なのに き が ついたら らっきーすけべっていた けん に ついて。

 げせぬ。

 次回、第三百三十五話「夢なら良いのに」

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