強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三十一話「変態盗賊の提案」

 

「これは、どういうことなんだ?」

 

 目を覚ましてからが大変だった。

 

(えーっと……)

 

 シャルロット達とポルトガに来て、休暇を楽しめるようにとお小遣いを渡して別れたところまでは予定通り。その後アリアハン国王からの手紙をポルトガの国王に渡して、交易網作成にも色よい返事を貰えた。

 

(一応、裏の目的の方は及第点だと思うんだけどな)

 

 まぁあの王様は、黒胡椒を欲しがっているのだ。望むモノが手に入る可能性が増えるなら飛びついてきたって不思議はない。

 

(にしても……)

 

 無事役目を果たして気が緩んでいた、とは思う。いくらシャルロットが側にいたからとは言え居眠りをしてしまったのは事実。睡眠時間が短かったとか、海を泳いで疲れていた何て言うのはただの言い訳だろう。

 

(だから そろそろ せつめい を して くれません か?)

 

 思わず心の声が棒読みになるが、バニーさんと魔法使いのお姉さんの罪人を見るような視線は変わらない。

 

「あう……」

 

 シャルロットは喘ぎつつ顔を真っ赤にして俯いてしまうし。

 

(僧侶のオッサンはなぁ……)

 

 昨晩縄で縛った身として、微妙に頼り辛い。

 

(これからについて話したいのに)

 

 何故、俺は縛られて居るんだろうか。これはバニーさんのポジションではなかったのか。

 

(や、俺も僧侶のオッサン縛ったけど)

 

 と言うか、正座させられているのも謎だ。魔法使いのお姉さんはジパング出身ではないというのに。

 

「査問ですわ」

 

「は?」

 

 俺が焦れてきた頃、ようやく口を開いた女魔法使いの第一声がそれだった。

 

「最初は勇者様からお話を聞こうとしたのですけれど、ずっとあの調子ですし……」

 

 何があったのか、何があってそうなったのかを居合わせた僧侶のオッサンに聞いてみたものの、「聖職者として人の事情をみだりに話すことは出来ない」と口を割らなかったそうなのだ。

 

「と、言われてもな……」

 

 ぶちゃけ、俺にもよくわからないのだ。シャルロットの悲鳴で目を覚ましたと思ったら視界は何かの布で覆われていて、直後に後頭部を強打。

 

(痛みを堪えて布を取り払おうとしたら、また強打)

 

 最初は強盗か何かに襲われ、布を被せられて袋叩きにされているのかと思った。何度か頭を蹴られた気もするし。

 

「と言う訳で、気が付くとシャルロットに身体を揺すられていた」

 

 すぐに僧侶のオッサンがホイミを駆けてくれたが、そんな場所にいたのは騒ぎを聞き駆けつけたのか。

 

(そっか。これは俺が勇者の身を危険にさらしたことに対する断罪)

 

 たぶん、それで二人は俺に怒っているのだ。こんな単純なことを言われなければ思いつけないなんて情けない。

 

(シャルロットはそれをまた自分のせいだって思ってるのなら)

 

 説明はつく。自責の念にかられることなんてないのに。

 

「すまない」

 

 そうだ、遅すぎたかも知れないが俺が為すべきはまず謝罪だったのだ。

 

「お師匠様?!」

 

 頭を下げた俺を見てシャルロットが驚きの声を上げたが、構わない。

 

「配慮が足りなかった、シャルロットも自分一人の身体ではないというのに……」

 

「な」

 

 魔王討伐の任を果たそうとする勇者は、この世界の人々の希望。そんなシャルロットを俺はまた自責の念に追い込んでしまった。

 

(まったく、俺は何をやってるんだろう)

 

 そもそも精神的な負荷から解放しようと、ほんの少しでも気が紛れればと休暇を計画したというのに、真逆の結果になってしまっている。

 

「非難は受けよう、罰も」

 

 何故か魔法使いのお姉さんが固まってしまっているが、その顔は真っ赤だ。今更罪に気づいたことに驚き、怒ったのだろう。

 

(そりゃ、怒るよなぁ)

 

 勇者パーティーの一員としても、この世界の住人の一人としてもその怒りは正当なものだ、ただ。

 

「ただ、厚かましいかもしれないが、一つ願いがある。その前にシャルロットと二人だけで話をさせてくれないか?」

 

 シャルロットの心の負担を減らしたくて俺は一つ提案を、いや希望を口にした。

 

「お師匠様ぁ……」

 

「っ」

 

 声に振り返ると泣きそうな顔をしたシャルロットが居て、いたたまれなくなる。これ以上、自分を責めさせたくなくて、俺はもう一度頭を下げ。

 

「たの」

 

「ち、違う。ボクが、ボクが悪いんだ!」

 

 口にした言葉をシャルロットの悲痛な叫びがかき消す。

 

「あ、あんな事をしようと思ったから……」

 

「シャルロッ、っぷ」

 

 涙声に変わり始めたそれに慌てて、縛られているにもかかわらず立ち上がろうとした俺はバランスを崩して床に突っ伏し。

 

「ボクが、お師匠様に膝枕をしようなんてしたから――」

 

「「え」」

 

 続けた言葉に、耳を疑った。何を言っているのか理解出来なかったのだ。

 

「「ひざまくら?」」

 

 場にいた全員の声が見事にハモる中。

 

「うわぁぁぁぁ」

 

 シャルロットは俺達の前で泣き崩れた。

 




まずは短めですみませぬ。

勇者は涙ながらに語る、自分の黒歴史を。

そして真実を知る主人公とサラ。

互いの誤解が明らかになった時、彼らが取る行動とは。

次回、第三十二話「真相とそれぞれの誤解」

僧侶のオッサン、そろそろ名前確定させたい

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