強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百十六話「おお! 私の友達! お待ちしておりました!」

 

「ふむ」

 

 ことの起こりは、ダーマに到着してすぐに訪れたらしい。

 

「よぉ、そこの嬢ちゃん」

 

 声をかけてきたのは、転職を司る神殿に居るのが相応しいとも思えない柄の悪い男。

 

「えっ」

 

 突然の出来事にエリザは面を食らい。

 

「ちょっとむしゃくしゃしてたとこなんだ、楽しいことしようや?」

 

 都合良く解釈したのか、男はいやらしい笑みを浮かべて近寄ってきたのだとか。

 

「……何というか、その手の輩は言うことに台本でもあるのか? おきまりの文句という気がするが」

 

 そも、スノードラゴンを侍らせた女の子に声をかけるとは、余程頭が残念なのか。

 

「あ、そうじゃないんです。いきなり魔物を連れて行くと問題になると思ったから、外で待ってて貰ってあたしだけで先に断りを入れに行った時のことだったんです」

 

「成る程」

 

「スノードラゴンのこともありましたから、『用事があります』って断ろうとしたのにしつこくて……それに」

 

 困っていたところ、今度は別の男が現れたという。

 

「どうも最初の人の仲間みたいでした。なんでも『ダーマの神殿にセクシーなお姉さんが沢山居ると言う噂を聞きつけてやって来た』と言う話でしたけど」

 

「……だいたい解った。『ガーターベルトでせくしーぎゃるになった女性に声をかけたが袖にされ、ダーマへやって来る女性に狙いを変更した』ということだろう?」

 

「あ、はい」

 

「伝聞だけでも頭のお粗末さがよくわかる連中だな」

 

 せくしーぎゃるった人達はがーたーべるとの犠牲者であり、通常ダーマの神殿は転職の為に訪れる場所なのだ。出会いの場ではない。

 

(まぁ、だからってそんな連中にルイーダさんの酒場へ来られても迷惑だろうけれど)

 

 そもそも、女の子を振り向かせるとか恋愛的な意味で好意を持って貰うというのは、難しいものだ。

 

(うぐっ、古傷が)

 

 仲の良かった女友達のことを自分に気があると勘違いし、玉砕したのはもう随分昔のことだけど、思い出すと未だに枕へ顔を埋めたくなる。

 

(特定の記憶を消す呪文ってないのかな?)

 

 確か、勇者の専用呪文に心へ深く刻みつけた言葉を忘れるというものがあった気もするが、きっと俺の欲している効果とは別物だろう。

 

「少し考えれば解ることだろうに……まぁ、異性にモテない者の気持ちと言うところまでなら、理解出来るが」

 

「「えっ」」

 

「ちょっと待て、何故そこで揃って驚く?」

 

 変なことを口にしたつもりはないというのに、解せぬ。

 

「まあいい。すまん、脱線させたな。しかし、その連中があのがーたーべるとにどう関わってくる?」

 

「あ、えっと……そ、その人達に絡まれた時、一人の男の人が止めに入って来たんです」

 

 それは「なに、そのてんぷれ」と呆れるべきところなのだろうか。

 

「お師匠様、どうしました?」

 

「いや、『物語』によくある展開だと思ってな」

 

「……まぁ、言われてみればそうですな」

 

 呆れ成分がポーカーフェイスから漏れていたらしく、尋ねてきたシャルロットへ俺が答えれば、元僧侶のオッサンが同意する。とりあえず、ありきたりと感じたのは俺だけでなかったらしい。

 

「それで、助けに来てくれたと思わしき男の人が『大丈夫かい? せっかく転職に来たのに嫌な思いをしちゃったね? そうだ、君にぴったりなモノがあるんだ』と言ってアレを」

 

「っ」

 

「……ご主人様?」

 

 この時、俺は喉元まで出かかったツッコミを押しとどめるのに必死だった。

 

(ベタすぎんだろ、何処の悪徳商法?!)

 

 忌まわしき品の登場まで聞いて確信した、最初のごろつき連中、おそらく割って入ってきた男とグルだろう。

 

(まぁ、修行とかいろんな理由で神殿に居る女の人達には売り込んだから、新規開拓を狙ったとかそんなところだろうけれどさぁ)

 

 まぁ、ある意味でありがたいというべきか。

 

(罪状があるなら処断してもOKだよね?)

 

 人を騙したり脅して商品を売りつけ、金銭を巻き上げているなら、交易網作成の責任者的な意味合いで制裁を下したって、きっと問題ないはず。

 

「何にしても、ごろつきとつるんで品物を売りつけ、金品をとるような輩は放置しておけん。今後、このダーマに来る者達の――」

 

 ダーマに来る者達の為にも、悪の芽は摘まねばならないと俺は続けようとし。

 

「フシュアアアッ」

 

「あ、ちょ、ちょっと待ってください。まだお金は払って無いんです」

 

「なん……だと?」

 

 慌てて割り込んできたエリザの声に固まった。

 

「『数日付けてみて、気に入ったなら購入してくれればいい』ってお話しだったんです。その途中で騒ぎに気づいたこのドラゴンが」

 

「割って入ってきて、今に至る……ってこと?」

 

「はい」

 

 それはつまり、エリザを庇おうとしたのだろうか。

 

「フシュオオオオッ」

 

「そっか、『どういう魂胆があるか不明なのぉ、よってエリザに通訳して貰い自分が付けたのよぉん』だそうです」

 

 うん、通訳ありがとうシャルロット。だけど、せくしーぎゃる成分っぽい語尾まで訳してくれなくて良かったんだ。

 

「フシャアアァ」

 

「えーっと、『誰かが受け取らなければ引き下がらなかった可能性もあるしぃ、破損した場合は買い取りとのことだからぁん、自分が付けねば何らかの方法で買い取らざるをえない状況に追い込んでいた可能性あるのぉん』だそうです」

 

 あぁ、ちゃん と かんがえて うごいた けっか が これ なんですね。

 

(おれ かんげき です……って、感激出来るかぁぁぁぁっ!)

 

 ガーターベルトドラゴンになってまでエリザを守ってくれたのは良いけれど、頭痛の種が増えちゃっているじゃないですか。

 

「ふぅ、とれました」

 

「フシュオ」

 

 とりあえず、エリザが外してくれたことで頭痛の時間は終了したのだが。

 

「……ともあれ、外せたならちょうど良い。変装してソレを返品しがてら敵情視察してくるとしよう。今はグレーだが、悪事に手を染めている可能性が高そうだからな」

 

 個人的にはがーたーべるとを扱ってるという一点だけで一味丸ごと殲滅してもいい気がするものの、それではこちらが牢屋にぶち込まれてしまう。

 

「エリザは返品に付き合って貰う必要があるが、流石に大人数だと目立つ。他の皆は宿の手配やアイテムの補充を頼めるか?」

 

 聞き込みとかをお願いしようかとも思ったが、エリザの話では新たにダーマへやって来た女性が絡まれている。

 

(そんな状況でシャルロットが聞き込みに出れば、まず絡まれるだろうし)

 

 これは、サマンオサへ行ってへんげのつえを借りて来るべきだったか。少し悩んだがタイムロスは痛く。

 

「では、頼む。行くぞ、エリザ」

 

「は、はい」

 

 先に敵情視察すべきと断じた俺は、一度だけシャルロット達の方を振り返ると、エリザだけを連れ歩き出し。物陰でモシャスの呪文を使って変装する。

 

「……それで、返品先は近いのかしら?」

 

 カモになれるように変身したのは、たまたま見かけた女性。疑問を口にしたのは、本殿を離れ、階段を上り、店でひしめくエリアに入った後のこと。

 

「ええと……確かこの辺りの……あ、あれです」

 

 キョロキョロと周囲を見回したエリザが指さした先にいたのは。

 

「おお! 私の友達! お待ちしておりました!」

 

 いかにもアッサラームな感じの商人であった。

 




主人公と周りの認識にあったズレがちょっとだけ発覚。

ちなみに、エリザの話で助けに入った(?)のはイケメンだったらしいです。

まぁ、典型的なアレですね。

次回、第三百十七話「売っている物を見ますか?」

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