強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百五話「むしろケアして欲しいのは俺の方かも知れない」

 

「成る程、話はだいたい分かった」

 

 とりあえず接触した三人の内、唯一まともに話が出来たスミレさんから得た情報を中心に話を纏めると、がーたーべるとの大ブレイクとやらはまず限定的なものらしい。

 

(遊び人としてやって行く為の精神修行用、ねぇ)

 

 着用させるにも理由が要る為、売り手である商人はまず遊び人になったばかりの人間をターゲットにしたのだとか。

 

「遊び人たるもの、羞恥心や恐怖に負けて遊ぶことやふざけることを躊躇ってはならない」

 

 とか言う理由である種の極限状態を体験させる精神修行にがーたーべるとは導入されたとスミレさんは言う。

 

「転職の後、新しい職業に慣れる為の修行コースがダーマの神殿にはあって、急ぎの人なんかはやらないものだけど」

 

「カナメはそれを受けた訳か」

 

「そう」

 

 たぶんゲームのキャラなんかは急ぎの人のと言うことになるのだとすれば、おかしいところはない。

 

(レベル1で神殿追い出されたら、周辺の魔物になぶり殺しにされても不思議じゃないしなぁ)

 

 ルーラの呪文やキメラの翼などの移動手段があるか守ってくれる仲間が居れば話は別だが、一人で修行に来ていた場合、魔物の跋扈する山野を突破する実力は必要不可欠だ。

 

「結果として、遊び人の修行場はせくしーぎゃるで溢れた」

 

「悪夢のような光景だな」

 

 何というかスミレさんの説明だけでダーマへ向かう気がゴリゴリ削られて行くのは、気のせいだろうか。

 

「エピちゃんは、『お姉様とお揃い』とか言う理由で自分から身につけた。盗賊は関係ない」

 

「あぁ、それはまぁ、納得だな。しかし、ならガーターベルトが広まってるのは遊び人だけと思って良いのか?」

 

 だとすれば、些少なりとも救いはある。

 

(と言うか、元バニーさんは大丈夫だったわけだし)

 

 ダーマがせくしーぎゃるの巣窟になった訳でないなら、遊び人を避けて行けば良いだけだ。

 

「スー様、それなんだけど……残念なお知らせが一つ。せくしーぎゃるは呪文使いとして大成するって噂が、ダーマで広まってる」

 

「え゛」

 

「たぶんスー様のお知り合いが大丈夫だったのは、せくしーぎゃるがどんなものなのか事前に知ってたから」

 

 固まる俺の前で、スミレさんは補足情報と言う形で絶望を振りまいてくださりましたよ、うん。

 

「そう言う意味では、クシナタ隊でせくしーぎゃるになってしまったのも、修行として半強制的にガーターベルトを付けさせられた遊び人の子と、お揃いという理由で自分から装備したお馬鹿さんが二名くらい?」

 

「二名?」

 

「そう。エピちゃんとお揃いって、お姉さんの方も身につけてた」

 

「うわぁ」

 

 元バラモス軍最大の知将が今はせくしーぎゃるですか、そうですか。

 

「そもそも初期から居たクシナタ隊の人達は、身につけると性格が変わる装飾品の厄介さについては学習済み。きんのネックレスで隊長にOSIOKIされた子達のことを忘れてる隊員はきっといないし」

 

「あぁ、そんなこともあったな」

 

 カナメさんも修行という理由で強要されなければ、おそらく身につけることはなかったのだろうと思われる。

 

「あたしちゃんから話せるのはこれぐらい。スー様なら大丈夫だと思うけれど、今のダーマは夜のアッサラームより下手をすると危険だから、気をつけて。それじゃ」

 

 最後に忠告を残してスミレさんは去り。

 

「……はぁ」

 

 縛られたとあるせくしーぎゃる共々見えなくなったところで、俺は嘆息した。

 

「もういっそのこと女装でもしてしまうか」

 

 アッサラーム越えってどういうことだよ。何でそんなことになってるんだよ、ダーマ神殿。

 

(まさかとは思うけど、名前の変更とかしてくれた命名神に仕えてるおばあさんまでせくしーぎゃるになってないよね?)

 

 話を聞いた限り、あり得ないと言い切れないレベルで風紀が乱れてるような気がするのだが。

 

「エリザ、無事でいてくれ……」

 

 どうしてこう状況は絶望へ一直線なのですか。天を仰いで呟いた俺は、その足でシャルロット達と合流すべく宿屋に向かった。

 

「そして、その日の夜。俺は、シャルロットを待ち一人用の客室でベッドに腰掛けていた。最初は男女別で二部屋という部屋割りだったのだが、『元僧侶のオッサン達は二人部屋が良いだろう』と気を利かせたふりをして俺は一人部屋を獲得したのだ」

 

 沈黙に耐えきれず、セルフナレーションで状況を説明してみるが、まだシャルロットは尋ねてこない。

 

(よくよく考えたらシャルロットの方も元バニーさんと二人部屋に変更ってことになってる訳だし、その関係とかかな?)

 

 だとしたら、俺のミスだ。

 

「とは言え、『部屋に来い』って呼びつけておいてこっちから訪ねて行く訳にも行かないし」

 

 すれ違うなんて最悪のパターンだってある。

 

「……はぁ」

 

 これで今日何度目のため息だろうか。

 

(と言うか、来たなら来たで、シャルロットとどんな話をするかって問題があるんだよな)

 

 元バニーさん達と再会した事件現場での囁きはただの先送りに過ぎない。

 

(シャルロットが、何を言って来るかを想定して対策を立てないと)

 

 後で来い発言で先送り出来たと言うことは、泣いて取り乱すケースはおそらく無いと見て良いと思う。

 

(となると、謝ってくるパターンか、これから叱責されると思いつつやって来るパターンのどちらか、かぁ)

 

 前者なら許せば問題解決。

 

(問題は後者のパターンになるな)

 

 こちらとしては叱るつもりなんてサラサラ無いが、シャルロットが負い目を感じているなら、お咎めなしはかえって逆効果になる。

 

(適当にOSIOKIというか、罰を科して話を終わらせるぐらいしか思いつかないけど、罰という名目で修行させたり、買い物とか雑用を追加で頼むような形なら――)

 

 きっと丸く収まると思う。

 

「よし、それで行こう」

 

 ちょうどそう方針が定まった直後だった。

 

「……お師匠さま、良いですか?」

 

 ドアが外からノックされたのは。

 






次回、第三百六話「所謂ひとつの『夜会話』」

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