強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百九十五話「再会」

「いらっしゃいま」

 

「ああ、今日も客としてきた訳ではない。こいつを預けに来たのと……シャルロットは来ているか?」

 

 町を進み、目的地にたどり着いた俺は、階段を下りると出迎えた従業員へ顔をさらして問うた。

 

「あ……これは失礼しました。はい、シャーリ……シャルロット様でしたら、モンスター舎の方かと。そちらのスノードラゴンを預けられるというなら、そちらの意味でも舎の方へ行かれると宜しいでしょう。魔物達の世話係にはこちらからも話を通して行きますので」

 

「そうか、すまんな」

 

 格闘場へ足を運ぶ理由として説明してしまっている以上、ホロゴーストIN親ドラゴンはここで預かってくれるよう話をしておかなければ、嘘をついたことになってしまう。

 

(ただでさえ、このイシスを襲った魔物と同じ種だからなぁ)

 

 国民の感情を考えても、やはり一旦預ける以外の選択肢はない。

 

「では行くぞ」

 

「フシュアァッ」

 

「ふむ、さて……確かこちらだったな」

 

 足し算されたドラゴンが着いてくるよう呼びかけ、呼応して鳴くのを確認してから歩き出し、時折立ち止まってはおろちとここで会った時の記憶を頼りに、関係者以外立ち入り禁止の区画を進んで行く。

 

「魔物の檻はこの先だが……ん?」

 

 檻も複数ある、どの檻へ向かうべきかと首を捻ろうとした瞬間、俺は立ち止まる。

 

「フシュア?」

 

 言いたいことは不明でも、状況から親ドラゴンINホロゴーストがこちらの行動を訝しんだぐらいのことなら推測出来る。

 

「……今、声がしたな?」

 

 だからこそ、確認した。あちらはこっちの言葉を解するのだ。

 

「……うぶ?」

 

「っ」

 

 ただ、答えを待つよりも早くもっとはっきりと声が聞こえ。

 

「今のは……シャルロット」

 

 止まっていた俺の足は再び動き出す。ただし、以前より早く。

 

「シャルロット!」

 

 また、何処かに行ってしまう訳でもないのに、気づけばその名を呼んでいて。

 

「え、あ、お師匠……様?」

 

「っ、そっちか」

 

 呼びかけに返る反応へ向かって走り出せば、急に前方のドアが開き。

 

「お師匠様ぁっ」

 

「シャル……ロット」

 

 飛び出してきたシャルロットの姿に、俺は足を止める。二、三日離れていただけでは、大げさかも知れないが、シャルロットからすれば発泡型潰れ灰色生き物をカウントしなければ立った一人で急に別行動するハメになっていたのだ。

 

(再会へのリアクションとしてはおかしいところなんて無いよね)

 

 俺の声を聞くなり飛び出してきたことも含め。

 

「お師匠様、マリクさんの修行にはぐ……ええと、お師匠様、それは?」

 

 ただ、報告をしようとしたシャルロットが視線を動かし、問うた後だった。

 

「あっ」

 

 俺がミスを悟ったのは。

 

(しまったぁぁぁぁっ)

 

 買い物を済ませて格闘場に向かったところまでは良い。格闘場でシャルロットと再会出来たことにも問題はない、ただ、発泡型潰れ灰色生き物に人生もといモンスター生教訓をくれてやるべく購入した品を隠さず持っていたことは大失敗だった。

 

(手段に気をとられて原因を失念するとか)

 

 俺はシャルロットが鎧へはぐれメタルに侵入されてとんでもないことになったことを知らなかった、見なかったと言うことにしている。これは勿論シャルロットの精神衛生面を鑑みてのことだが、そうなるとあの発泡型潰れ灰色生き物をOSIOKIする理由が消失するのだ。

 

(当然、「じゃあ、その道具は何の為のものでつかお師匠様?」ってことになるよね、うん)

 

 ここで正直に話してしまえば、発泡型潰れ灰色生き物の鎧内不法侵入を見なかったことにした意味が消失するどころか、更なる精神ダメージを与えてしまう可能性がある。

 

(だからって、ここでまごつくわけにはいかないし)

 

 挙動不審になったり、回答までに時間をかけては何か隠してますと言っているようなものだ。

 

(考えろ、自体を収拾出来る言い訳を……修行に使う、は「実際にやって見せて下さい」って言われるのが関の山だから駄目だとして――)

 

 シャルロットも成長してきている。下手な言い訳では、矛盾点を見つけられたり論破されたりでこちらが更に墓穴を掘りかねない。

 

(嘘で人を騙すには、真実を混ぜ込むのが良かったはず、となると誰かをOSIOKIする為というのが無難か)

 

 しかし、そうそう都合良くOSIOKIしても不自然でない存在が居るだろうか、ジパングに居て候補に挙げられないおろちを除いて。

 

(と言うか、不自然でないとか以前に魔物は殆どジパングに預けてきてしまってるし、殆ど三人パーティーと言っても過言でない状況なのに、OSIOKI相手なんて……)

 

 居る訳がない。

 

「ピキー?」

 

「……ん? あ」

 

 そう、例えば下着を被って駆け回った前科のある灰色生き物、メタルスライムのメタリンを除けば。

 

「どうしました、お師匠様?」

 

「あ、あぁ。この品の――」

 

 このままメタリンを犠牲にしてしまおうと決めて、シャルロットの問いへ応じようとした俺は、、灰色生き物を見たまま言葉を続けようとし。

 

(って、ちょっと待て。確かに、いい訳にはなるけれど、これもシャルロットの黒歴史ほじくり出すことになるんじゃ?)

 

 ギリギリのところで、落とし穴の存在に気づく。

 

「この品の、何です?」

 

「あ、あぁ、それはだな……」

 

 だが、致命的失敗を避けたとは言え、ピンチは終わらない。

 

(っ、これもみんなあの発泡型潰れ灰色生き物のせいだ! おのれ……発泡型潰れ灰色生き物ぉ)

 

 だから、胸中で俺が走る経験値を呪ったって仕方のないことだったのだ。

 




はふぅ、旅行の疲れがががが……。

とりあえず、シャルロットと合流は果たせた主人公。

だが、OSIOKIグッズをシャルロットに見つけられてしまい、窮地に陥ってしまう。

次回、第二百九十六話「毎度おなじみ窮地のお時間」

このピンチ、どう切り抜ける、主人公!

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