強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百九十四話「はぐれメタルのしつけかた」

「しかし、こうして空を飛んでいると世界というのが広いモノだと、改めて実感させられるな」

 

 眼下を流れて行く景色に感嘆の声が漏れるのを抑えつつ、俺は視線を前に向けた。

 

(流石にイシスはまだ見えて来ないかぁ)

 

 何だかんだでシャルロットを二日近く一人にしてしまった。もちろん、状況を鑑みれば、他に打開策は無かったと思うのだが、あの発泡型セクハラ潰れ灰色生き物と一緒という一点が不安を覚えさせるのだ。

 

(「無事だと良いけど」って言おうモノならフラグになりかねないし、今の俺に出来るのは一刻も早くイシスにたどり着いてシャルロットと合流することだけだよな)

 

 格闘場か、マリクの屋敷か、宿屋か。着いた時間帯によって居場所も違うだろう。

 

(エリザと別行動すれば同時に二箇所を当たれる。シャルロットの性格なら一番ありそうなのは、格闘場かな)

 

 発泡型潰れ灰色生き物はマリクの修行相手として用意した魔物だが、修行用に借りたスペースはそれなりの広さがあった。

 

(何もせず待つぐらいなら自主的にトレーニングとかしていても不思議はないもんな)

 

 シャルロットはまだまだ強くなれる。しかも倒すべき大魔王が健在となれば、強くなろうと励む理由は充分だ。

 

(もっとも、今のシャルロットならちゃんとメンバーを揃えさえすればバラモスには勝てると思うけどね)

 

 先日覚えた範囲回復呪文の中でも最上位の呪文であるベホマズンは精神力を大きく消耗する為乱発出来ないものの、状況を一瞬で覆してしまうような力があるし、呪文以外の面での成長も著しい。

 

(成長、かぁ)

 

 本当にシャルロットは強くなったと思う。出会った頃は水色生き物の群れに倒されかけていた女の子が、気づけばイシスをバラモスの手から守り抜き、魔物使いから心得を伝授され様々な魔物からは慕われ、もうバラモス打倒にも手が届きそうなのだ。

 

(本当にすごいよな。俺なんてこの身体のスペックがあってようやくやっていけるというか、身体能力と呪文、強力な装備に結構頼りがちだって言うのに)

 

 だからこそ、勇者なのかも知れないけれど。

 

「ふむ、見えたな」

 

 いつの間にか眼下は砂漠が取って代わり、視界にオアシスらしきモノが見えてくるなり、高度が下がり始める。

 

「エリザ、俺は下に降りたら格闘場へ向かおうと思う。お前は、城下町の人間に場所を聞いてマリクの屋敷に向かってくれ。シャルロットが宿に部屋を取っている可能性はあるが、前と同じ宿とは限らん。マリクのところを尋ねて、シャルロットが留守であれば、滞在先も聞いておいてくれると助かる」

 

「あ、はいっ。マリク様というと、王族の方でしたよね?」

 

「ああ。もっともお前だってイシスを守った英雄の一人だし、門前払いをくらうことはないだろうからな」

 

 多分どちらかは行方を捕まえるか合流出来ると思う。

 

「では、頼むぞ」

 

 早めに話を切り上げ、着地の姿勢を作る。

 

(前回の轍は踏まないっ)

 

 イシスの地面は石畳だった気がするが、そこは砂漠の国。街路の上には風の運んできた砂がある。

 

(転んで砂まみれはご遠慮願いたいな)

 

 まかり間違ってそんな姿で再会しようものなら、師匠の威厳が死ぬ。

 

「ふっ」

 

 まぁ、危なげなど皆無でごく普通に着地しましたけれど。

 

「おいっ!」

 

 むしろ、問題は別の場所にあり。呼びかけられて振り向くと、そこにいたのは、一人の兵士。

 

「そこのおま……あ、あなた方は」

 

「魔物連れですまん。魔物使いの仲間が居てな、このスノードラゴンは旅の足なのだ」

 

 水色東洋ドラゴンを見とがめた兵士に、俺は頭を下げ説明してみる。

 

「この町がこいつの同族に襲われたことは知っている。そう言う意味でも一旦モンスター格闘場へ預けに行こうと思うのだが」

 

「そうでしたか。そうですね、そうして頂けるとこちらとしても助かります」

 

 俺かエリザが何者か知っていたらしく、丁重な対応に切り替えた兵士へもう一度頭を下げると、そのまま歩き出す。

 

(しかし、ここに来るなら親ドラゴンの姿を隠す布でも用意しておくべきだったか)

 

 イシスで先日を襲撃したモノと同種の魔物を連れ行くのは拙いとシャルロットと別行動しておきながら失念していてこの態だ。

 

(これ以上のポカは避けないと)

 

 避けた上で、シャルロットと合流し、あのセクハラ発泡型潰れ灰色生き物にも人の弟子に破廉恥な行いをした愚かしさを骨の髄まで知って貰わねばなるまい、明らかに骨なさそうだけど。

 

「さて、どうするかな」

 

 道具屋へ寄って、OSIOKI用の小道具を買ってから行くのもいい。

 

(聖水で一撃はこのゲームじゃ無かったはず)

 

 まぁ、いずれにしても躾はちゃんとしないといけないと思うのだ。

 

(ほら、こっち の いうこと を すなお に きいてくれる ように なれば、しゅぎょうこうりつ も あがりますし)

 

 だから、私怨なんて一切無い。

 

「すまん、ちょっといいか?」

 

「はい、いらっしゃい。道具屋へようこそ」

 

 道具屋の前で立ち止まってしまったのも、この後色々買い込んでしまったのも、きっと後で色々と使えそうだから、と言うことにしておいて貰いたい。

 

「ロープにロウソク、鍋に針ね……はいよ、お客さん」

 

「ああ、確かに。ゴールドはここに置くぞ?」

 

「毎度ありっ」

 

 品物を確認し、代金を支払い買い物を終えた俺は、その足で格闘場へ向かう。

 

(ふふふ、楽しみだなぁ)

 

 男子三日会わざれば刮目して見よと言う。シャルロットは女の子だけど。

 

(え? オシオキ ガ タノシミダ ト デモ オモイ マシタカ?)

 

 そんなこと あるわけ ないじゃない ですか、やだー。

 

 




いかん、寝オチしかけて謎テンションのまま書いたら主人公ががが。

次回、第二百九十五話「再会」


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