強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百七十八話「そして出立へ」

 

「ど」

 

「『どうしてここに』と言うところだろうが、それは今から説明しよう」

 

 エリザの言葉を制して俺は語り始めるが、やったことというと、勇者サイモン達と合流してすごろく場へ行き、そこから竜の女王の城まで行って光の玉を貰ってきただけである。

 

「と、実質的に手に入れた重要な品は『ひかりのたま』一つだけだな」

 

 何処かの集落の件については蛇足だし、すごろく場攻略はシャルロット達がやってくれたのだからその部分については、端折った。

 

「……それで、お前がバラモス城からイシスまで一緒に飛んだあのおろちと一緒に竜の女王の子を育てる親代わりになってくれないかと打診されてな。もちろん、俺はおろちの夫になるつもりはないのでどうしようかと頭を悩ませたところ、シャルロットからおろちに思い人が居ると聞いてな」

 

 ただ、イシスに居る理由についてはおろちの婿育成プロジェクトを説明しないとどうしようもないので、一緒に説明しておく。

 

「と言う訳で、候補は見つかったがまだ竜になる呪文を使えないのだ。流石にこれではおろちに引き合わせることも叶わん。そこで――」

 

 だから修行をする為の模擬戦相手をバラモス城へ確保しに行くこと、その為には一緒にいたスノードラゴンの協力を得たいことなども説明する。

 

(はぁ、こういう時「かくかくしかじか」で済んだら楽なんだけどなぁ)

 

 説明というのは、いざやってみようと思うと色々難しい。

 

「そ、それであたしを」

 

「ああ。はぐれメタルを数匹確保出来れば、マリクの修行についてはマリクの探してくれるコーチと魔物達任せで暫くは何とかなるだろう。その間に俺達は南東に進んでランシールの村に向かい、ランシールの神殿を経由して地球のへそへ挑む」

 

 移動だけならスノードラゴンを連れて行けば可能なのだが、魔物に乗って飛べる高さを行けば、空を飛ぶ魔物と出くわして戦闘になるのは避けられない。

 

「お前とスノードラゴン達だけなら魔物も敵と認識しづらいだろうが……」

 

 それもエリザがバラモスの軍勢から離反してまだ日が経っていないからでもある。

 

「敵に回ったことはいずれ知れ渡る。今の内に、言い方は悪いが別の移動手段も用意しておく必要がある訳だ」

 

 だからこそ、オーブは揃えておきたい。

 

「俺の記憶が確かなら、パープルオーブはおろちが所持し、地球のへそにはブルーオーブが眠っていたはず」

 

 そう言えばおろちからオーブ回収し忘れている気もするが、気のせいでないとしてもマリクを引き合わせる時に受け取ってくればいいので問題ない。

 

(町作りで手に入る方は商人派遣してるし、交易網側でも探してるからどっちかに引っかかる筈)

 

 残り二つの内一つはこれからバラモス城へ向かう途中で寄り道すれば回収出来る。

 

(後の一個はどこだったかなぁ……まぁ、ついでに取りに行ける場所じゃなければ後で思い出せばいいか)

 

 シャルロットが到着するまでの時間を思い出すのに使っても良いのだが、城に寄った以上は他にしておくことがある。

 

「さてと、とりあえず連絡は付けられたからな。俺は女王に謁見を申し込んでくる」

 

 交易網の作成で報酬を貰っている以上、国主と会ったら当然報告はせねばならない。

 

「あ、い、行ってらっしゃい」

 

「ああ。もし勇者シャルロットが入れ違いで来たら、謁見を申し込みに行ったと伝えてくれ」

 

 俺はエリザに伝言を頼むとあの忌まわしい部屋を後にし、謁見の間へ向かって歩き始めた。

 

(普通ならこんな短期間で報告する程成果は上がらないんだけどなぁ)

 

 この世界には移動呪文やキメラの翼という反則技がある。

 

(アリアハンの王様もちゃかりしているというか、何というか)

 

 俺がジパングの洞窟で育成した三人はお仕事ついでに商人を荷物ごと運んだりしてそれなりに収益を上げているそうで、得た利益を使ってルーラの呪文が使える魔法使いをスカウトまでしていたのだ。そして、集めた人材を他の国にレンタルして、借りた国も商人と商品を運んで利益を得る。

 

(結果として、俺も軍資金を貰える訳だけど……どう考えても一番得をしてるのはあの王様で)

 

 人材を育てたのもあちこちの国に繋ぎを作ったのも、俺。何だか割に合わない気がしてしまうのは、きっと気のせいだと思いたい。

 

(くっ、あの時あの女戦士さえ出てこなかったらっ)

 

 やはり、警戒すべきはせくしーぎゃると言うことなのだろう。

 

(で、そんなことを考えつつ謁見の間に向かう最中ふと思う訳ですよ。「そう言えばここの国主は女性だったな」って)

 

 流石にここでせくしーぎゃるっているということも無いと思うが、マリクの屋敷のトラップを考えると警戒しておくに越したことはない。

 

「……と、思っていたんだがな。やはり、考え過ぎだったか」

 

「あ、お師匠様ぁ」

 

 無事、謁見にこぎ着けて報告を終えた俺が虚脱感と共に女王との得件を終えた直後だった。

 

「ん? シャルロット、どう」

 

 声に弾かれた様に我へ返り、空を見上げる竜の彫像に支えられた緑の宝珠を抱え、手を振る姿を見つけて俺が絶句したのは。

 

(ああ、なにか わすれてる と おもったら えりざ に しゅび を きいて なかったね)

 

 うろ覚えの原作知識で目的地であったテドンにもオーブがあることは伝えておいたので、その知識を活かしてくれたのだろう。よく見ればシャルロットの後ろにはエリザの姿もある。

 

「お師匠様、これエリザさんが見つけたそうですよ」

 

「そ、そうか」

 

 言わなくても解ります、とは流石に言えない。

 

「あと」

 

「え」

 

 そう言ってシャルロットが後ろを振り返った時には、思わず素の声が出てしまったが。

 

「お仕事ご苦労様であります」

 

 シャルロットの抱えたモノと色違い、赤いオーブを抱えて敬礼するのは、俺がジパングの洞窟で育成した魔法使い三人組の一人、軍人口調の女魔法使いのお姉さんだった。

 

「そ、それは……?」

 

「お探しになっていた品であります。いやぁ、間一髪でありました。この品を売りに来た商人の船が帰路で海賊の襲撃を受けたそうで、接触があと少し遅かったら、海賊に持ち去られていたところでありますよ」

 

 想定外にも程があるというか、狙っていたのと別のが来ちゃったと言うべきか。

 

(ああそう言えば赤は女海賊のアジトで手に入れるんだっけ)

 

 呆然としている俺に向かって、魔法使いのお姉さんは言う。

 

「陛下から伝言でありますが、『このオーブの購入費用は報酬から天引きさせて貰う』とのこと」

 

「そ、そうか」

 

「はっ、では自分も女王陛下に報告せねばなりませんので、これで。では、シャルロット殿、これを」

 

「えっと、ありがとうございます?」

 

 返事をしつつも俺がまだ固まっていたからか、軍人口調の女魔法使いは敬礼するなりシャルロットにレッドオーブを渡して去っていった。

 

「お師匠様、これで二つですね」

 

「そ、そうだな」

 

 謎の脱力感に見舞われつつこの後イシスの城を出た俺は、入り口で熱さにバテかけていたスノードラゴン達と合流すると、シャルロットのルーラの呪文によってバラモス城へと飛ぶこととなる。

 

(と言うか、なんだこれ。マリクの件と言いうまく行きすぎだよね? 悪いことが無いといいんだけど)

 

 ただ、一気にオーブを二つ手に入れた幸運の反動が来るのではと顔には出さず微妙にびくついたままで。

 

 




 わざわざテドン方面に行って貰ったので、回収していないはずがないという言い訳をしてみる。

 次回、第百七十九話「ネクロゴンドの洞窟曰く『解せぬ』」

「一番そう言いたいのは、ラーミアじゃね?」というツッコミはなしでお願いします。



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