強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百六十一話「俺、途方に暮れます」

「はぁ……」

 

 実際の距離以上に遠く感じる宿屋までの道で、思わずため息が漏れた。

 

(間違いなく聞いてくるよなぁ「おろちは何て言ってたか」って)

 

 相手がスレッジでしたと明かし、老人では父親代わりも厳しいことまで説明すると、じゃあ俺がおろちの婿になるのかと問われることになるだろう。

 

(「俺もそれはゴメンだから、スレッジの偽物をでっち上げる為に協力して欲しい」って話に持って行くことは出来ると思う。出来るとは思うんだけど)

 

 今は原作になかったバラモスのイシス侵攻により、のんびり構えていられなくなった状況下にある。

 

(そして、おろち協力のレベル上げは出来ない)

 

 シャルロットがおろちの協力を得て行った灰色生き物ことメタルスライムとの模擬戦は、俺の常識を木っ端微塵にする程画期的かつ効率的な修行方法であったのだが、それを封印された状況下で、スレッジの替え玉を作り出すというのは、相当手間がかかる。

 

(まず、相応に若い魔法使いの呪文を会得出来る人材を確保しないといけない訳だけど)

 

 男の魔法使いは殆どが老人である。これは、老化による身体能力の低下が他の職業よりも妨げにならなかったことが起因する。

 

(遠巻きに呪文唱えてれば良いなら、そりゃ戦士や武闘家、商人なんかが駄目な者にも務まりそうだから、か)

 

 結果、老齢にもかかわらず、戦いたいとか働きたいと思う老人が流れ込むことで「男魔法使いは爺さん」という認識が広まってしまったらしい。

 

(そして、魔法使いは老人がなる者と認識されたせいで若い志望者は殆ど現れない、と)

 

 一応、少年魔法使いというのも存在はするらしいのだ、ただし数は極めて少ない。登録所で探して貰って、まず見つかるかという点で壁にぶち当たる。

 

(かと言って、遊び人を鍛えて転職させた上賢者にして育てるのは更に何倍もの手間と労力がかかる訳で)

 

 こうなってくると、それこそ元親衛隊のエビルマージの中からこれはと言う男を選んでダーマ神殿へ連れて行き、魔法使いに転職させることさえ考えてしまう。

 

(けど、魔物の転職が可能かがまだ不確定なんだよなぁ)

 

 僅かに可能性は残されている、だが当たってみて不可能だとした時、残されるのは時間をロスしたという事実と絶望だけだ。

 

(やっぱり、ここはシャルロット達にある程度話して協力を仰ぐべきか)

 

 思考は結局一回りし、スレッジの偽物作成を依頼するところへ戻ってきたが、勇者であるシャルロットが他者を騙すことに賛同してくれるものやら。

 

(あぁ、展開が衝撃的すぎて思考がどんどんネガティブになってる気がする)

 

 ここまで数多のピンチを乗り越えてきた身、どうにかなると思いたい。思いたいのに、考えつく案には何処かに落とし穴がある気がしてしまうのだ。

 

(いや、ウジウジしてるのが一番拙いんだろうけどさ)

 

 こうしている間にも、竜の女王が生きられる時間は短くなっている。タイムリミットは近づいているのだから。

 

(どうしよう)

 

 決断して進めば、後戻りは出来ない。発言は撤回出来ない。シャルロット達に協力を求めるなら、最低でも代役をでっち上げる理由までは話してしまう必要がある。

 

(シャルロットと行動を共にしている現状、単独でドラゴラムの使える若い男を用意するのは無理だもんな)

 

 夜中、寝ている勇者一行から抜け出してこっそり、では出来ることもたかが知れている。

 

(一人で考えるには限界があるのはわかっていたんだけど)

 

 ここで、クシナタさん達が居てくれたならなどと零すのは、身勝手が過ぎるだろう。別行動してくれる様に指示したのは、他ならぬ俺なのだ。

 

(そもそも、クシナタさん達に協力を頼めたとしても現状でレベル上げに使えそうな場所はバラモス城くらい。俺抜きでは危険すぎて頼むことさえ憚られるし)

 

 前回の襲撃でバラモスも城の警備を強化していると思う。そんなところへ俺の失敗の尻ぬぐいに行ってくれなどとどうして言えるか。

 

「俺が動くしかないなら、結局の所シャルロットの協力もしくは承認が不可欠。……最初から決まっていたのやもしれんな」

 

 悩みに悩んで出た結論がこれとは情けないにも程があるが、解決策も思い浮かばない。

 

「さて、と」

 

 やがて辿り着いた宿屋の入り口。

 

「あ、お師匠様お帰りなさい。どうでした?」

 

「っ」

 

 鉢合わせたシャルロットの顔に、話を切り出す難易度を上げられたが、黙っている訳にもゆかず。

 

「皆を集めて貰えるか? 相談がある」

 

 気力を振り絞った俺は、なんとかそう口にしたのだった。

 




と言う訳で、男魔法使いが老人グラフィックなのの説明回。

一応少数ながらこの世界には、ダイの大冒険のポップよろしい少年魔法使いも存在はするという設定。

ただし、希少レベルの少数派なので、魔王討伐に赴く勇者一行に加わる命知らずは居らず、ゲームでは仲間に出来ない仕様。

結局自力の解決は無理と判断、協力を仰ぐことにした主人公。

次回、第二百六十二話「だったら、相談してみるしかないじゃないか」

ここまで手詰まりだと、相談も仕方ないと言いたい。

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