「協力させて貰いたい」
対策を立てた訳でもなければ女王がどんな反応を返してくるかもわからない、行き当たりばったりな協力の提案。まさに賭けだった。
(だいたい、確実に治せる方法がある訳でもないし)
神の使いの命さえ奪ってしまう程の病なのだ。
(病を治す道具なんてモノは存在しなかったはずだからなぁ)
遙か未来でシャルロットの子孫が、宿のベッドで寝たきりになってしまう展開はあったが、あれは呪いだったと思う。
(そもそも同じ道具で何とかなるなら、この城で嘆いてるボビットやエルフのお姉さんが取りに行っているよね)
世界樹の葉、死者さえ蘇らせる不思議な葉は、今居る竜の女王の城から南東に広がる大森林で手に入れることが出来る。
(竜の女王だって、それ程離れていない世界樹のことなら知ってておかしくない訳だし)
ならば、存在するもののエルフのお姉さんとかではとうていどうにもならないか、存在しないかの二つに一つ。
(うっかり世界樹の葉のこと忘れてましたとか言うオチだったら、これから取りに行くのもありなんだけどなぁ)
世の中、そこまで甘くないだろう。
「そう言えば、ここから南東に行った場所に死者すら生き返らせる力を持つ樹があると聞いたが、その樹の葉ではどうだ?」
「残念ですが……」
「そうか」
確認の為話を向けてみたものの女王は頭を振り、俺は落胆と共に嘆息する。
(やっぱり駄目だったかぁ。これが行ければシャルロットに「次は世界樹へ行く」って他の皆への伝言と出発の準備を頼めたんだけど)
女王と二人だけで会話する為の、シャルロットに席を外して貰う方法も一つ消えたのだ。
「ならば、他に何かないか?」
ほこらの牢獄で検証した蘇生法も、病人には効果があるか微妙な上、あれは蘇生後のレベルアップを必要とする。
(神の使いって言うぐらいだし、灰色生き物を用意しても無理だろうな)
第一、蘇生の成功例があるとは言え、人間限定だ。神の使いという上位の存在に効果があるかと言うと別の問題になる。
(まぁ、何より息を引き取った女王の亡骸を運び出そうとしたら止められる、か)
穴があったと言うよりも何処に穴のない場所があると問いただされないのが不思議なくらいに穴だらけの対処法であるし、何よりシャルロットの居るこの場で口にするのも憚られた。
(それに、女王が自分から何も提示しないってことは)
「その通りです」
「な」
一瞬、口に出してしまっていたのかと疑い、顔を上げた瞬間、女王と目が合う。
「私は竜の女王、神の使いです」
「……成る程、考えていることまでお見通しという訳か」
いきなりひかりのたまの件を切り出してきたのも、俺の心を読んだからだとすれば、説明が付くのだ。
(……しくじったなぁ)
賭けがどうのと言う以前の大失敗だった。こちらの考えてることが筒抜けなら、隠していることまで竜の女王は知ってしまった可能性がある。
「勇者、勇者シャルロットと言いましたね?」
「あ、はい」
「私に少し、そなたの師を貸して下さい」
「えっ」
そして、可能性は目の前で行われたシャルロットと竜の女王のやりとりによって、確信に変わった。
「心配することはありません、少しお話しがあるだけです」
(こっちの望む展開になるようし向けてきた……ってことは、向こうも本当に話があると見ていいのかな)
ある意味で渡りに船ではあった。シャルロット抜きで話したいことはいろいろあったのだから。
「ご指名の様だな。シャルロット、一足先に皆の所に戻っていろ」
「お師匠様?」
「何、ただの話だ。そも、病人と長話をするわけにもいかん。話が終わればすぐそちらに行く」
こちらを窺うシャルロットに肩をすくめて見せると、俺は女王に向き直り。
「解りました」
「では、これを持って行きなさい」
女王が、こちらに返事をしたシャルロットへひかりのたまを渡すのを見届ける。
(これで、当初の目的は果たした)
話があると言っている以上、たまを渡してすぐ息絶えると言うことはないだろう。
「ありがとうございます。ええと、おししょうさま。……ボクはこれで」
「ああ。ひかりのたまについては戻ったら説明しよう」
その時詳しく説明したとしても、竜の女王から聞いたことに出来る。
「さて、すまんな。色々手間をかけた」
「いえ」
シャルロットが退出したのを見計らって女王へもう一度頭を下げた俺は、始めに聞く。
「時に、……心が読めるのだな?」
聞いたと言うよりも確認に近いかも知れないが。
「ええ、お察しの通りです。私にはあまり時間が残されていません。そして、このままこの世界が大魔王ゾーマの手に落ちることを望んでもいません」
「ならば、是非もない」
勝手に心を覗かれるのは不愉快であるし、なおかつ俺は隠していることをごっそり知られてしまった可能性があるものの、女王は女王で必死だったのだろう。自分に未来がなくともこれから産むであろう我が子には未来があるのだから。
責められるはずがない、責められるはずがなかった。
竜の女王は読心能力の持ち主であった。
色々ばれてしまったであろう主人公と竜の女王はいったい何を話すというのか。
次回、第二百五十九話「話をしよう」
あれは、何話目のことだったか……まあいい。