強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百五十話「ただいま、シャルロット。いい子にしてたか?」

(ふぅ、そりゃばくだんいわに追われてれば冷静じゃいられないよな)

 

 結論だけ先に言うなら、そこからは半ば作業だったと思う。後続が縛られて脱落したことに気づかない逃亡者達へと再びラリホーの呪文を唱え、一緒にいた女性や子供がバタバタと倒れて行くのに狼狽した変態の隙をつき、捕縛するだけの繰り返しだ。

 

「ん゛んぅ」

 

「ん゛ー」

 

(こんなことこかな、さて)

 

 叫ばれてまだ接触していない者達に気づかれては困るので、当然の様に口へ布を噛ませると、無言のまま左右の茂みを見て、手の甲をそちらに向け指で招く。

 

「ん゛?!」

 

「ん゛んっ」

 

 口を塞がれた虜囚が何を言ってるかは不明だが、左右の茂みから現れたのがばくだんいわである時点で、おおよその想像は付く。

 

(これで、残りは先頭だけか)

 

 魔物と遭遇する可能性が一番高く、一番戦力を必要とする場所だけにおそらくラリホーの呪文だけで制圧出来るとは、思わない。

 

 

 

「……と、俺もスレッジも思っていた訳なんだがな?」

 

「違ったんですか?」

 

「まぁ、な」

 

 話に食いついてきたシャルロットへ、俺は肩をすくめて見せた。すごろく場に戻ってきたのは、つい今し方のこと。ゲームと違って、何日かかけてすごろくに挑戦する客の為の宿屋がすごろくのマスとは別に存在し、シャルロット達を探してそちらへ足を運んだ俺は、ただいまを言うなり話をせがまれたのだ。ただ、俺一人では話の整合性に困る部分があったので、土産話上ではたまたま同じ目的で竜の女王の城を目指していたスレッジと再会し、呪文関連は全部スレッジがやってくれたことにしたのだけれど。

 

「包囲してくれていたばくだんいわ達が俺の姿を見るなり一斉に現れてな」

 

 後ろから現れた見知らぬ男の登場に気をとられた変態達がばくだんいわに包囲されていることに気づいた時には、もはや逃げ場は俺の立っている場所しかなかった。

 

「そこで、俺に警告でもしたなら情状酌量の余地はあったんだが」

 

 追いつめられた変態は、怒声とともに突っ込んできた。

 

「『邪魔だ、どけ』とな」

 

 ロープを使わない変態達の無力化は、ばくだんいわと出会った場所でもやったことだ。そう難しいことでもない。

 

「他の連中より痛い思いはしただろうが、自業自得だな。そもそも奴らが、ばくだんいわを使って他の集落を滅ぼそうなどと考えなければ、集落が襲われることもなかった」

 

 後はのした変態達を縛り上げ、トーカ君達へ向けて狼煙を上げ、集落の住民の引き渡しを終えたところで俺はシャルロット達の所に戻るべく、陸路でこのすごろく場へと引き返し。

 

「スレッジはルーラで何処かに去っていった。まぁ、俺達が竜の女王の城を目指すなら、自分が行くまでもないと思ったのだろうな。集落に入ったり魔物や集落の民との接触も俺一人に任せていたし、目撃者を出してバラモスに居場所を特定されることを嫌ったのだと思うが」

 

 流石に一人二役は出来ないし、こちらが向かった時にスレッジが竜の女王を訪れていないと辻褄が合わなくなるので、シャルロットが集落の人間と出会った時のことも視野に入れて、そうでっち上げておく。

 

(腹話術死作戦も、まほうおばばが俺に呪文を使わさせられていたと言うことにすれば、矛盾はないはずだし)

 

 しかし、あの腹話術死作戦は本当に便利だったと思う。

 

(いっそのこと、人形を用意して、意志を持った人形の魔物とかでっち上げつつ携帯してみるのも手かも知れないなぁ)

 

 小脇に常に人形を抱えた、盗賊男。どういう種の人形であるかによっては、俺まで変態さんの仲間入りをしそうではあるが、一行の価値はあると思う。

 

(いや、人形にする必要もないか。しゃべる魔剣とか、意志を持つ魔剣なんてファンタジーにはよくあるもんなぁ)

 

 鎧ならシャルロットが連れているし。

 

(問題があるとすれば、商人に鑑定されると嘘がばれること。一般に流通しているモノででっち上げるのは厳しいことくらいかな)

 

 一から武器を作るとなると、武器作りの知識や経験、もしくは口が堅くシャルロット達と接触しない鍛冶職人のどちらかが必要になってくる。

 

(うーむ、ジパングで刀鍛冶に預けた素材で何か作ってもらって、使っている内に自我が芽生えたという展開に……もできないな)

 

 その場合、商人であれば、絶対興味を持ちそうだ。調べられたら一発でアウトである。

 

「お師匠様?」

 

「ん? すまん、考え事を少しな。そう言えば、お前達の方はどうだった、収穫はあったのか?」

 

 余程長いこと考え込んでいたらしい、怪訝そうなシャルロットの声で我に返った俺は、軽く謝罪すると、誤魔化す様に話題を転じた。

 

「あ、そうそう。お師匠様、実はこんな本を見つけて――」

 

「本、だと?」

 

 勿論、口実だけではなく興味もあってのことであり、期待と不安がない交ぜであったのだが、その単語に顔を引きつらせてしまったのは、女戦士とかおろちとかの性格を変えてしまったアレを真っ先に思い浮かべてしまったからだと思う。

 

「え? そう、本。悟りの書って言うんだけど」

 

「……そうか。あの賢者に転職する為に必要と言われる書物か」

 

 自身の勘違いを少し恥じ、安堵したのは間違いない。同時に喜ばしいことでもあると思う。遊び人以外が賢者になれるというのは、大きい。

 

「でね、アランさんがダーマ神殿へ行ける様になったら、賢者になりたいって言っているんだけど」

 

「妥当だな。今の時点で転職すると、普通であれば僧侶でまだ会得出来るはずの呪文が会得出来なくなるが、賢者ならその恐れもない」

 

 バニーさんも賢者になれば、シャルロットと賢者二人で前衛も後衛もこなしていけるだろう。

 

「となると、竜の女王の城の後はダーマだな」

 

 ついでに世界樹に寄ったり、オルテガのお供をする予定だったホビットに会ったり、オルテガが滞在した過去のある町へ立ち寄るのも手ではあるが、ともあれ、方針が定まったのは良いことだと思う。

 

「なら、今日は俺もここに泊まらせて貰おう。出発は明日だ」

 

 サイモンとおばちゃんをどうすべきか少し迷ったが、サイモンは蘇生した人の世話で手が離せないであろうし、おばちゃんはもう少しそっとしておいた方が良い様な気もする。この日の晩、俺は引き続きシャルロット達と情報交換を行った後、たっぷりと睡眠をとったのだった。

 

 

 

 





次回、第二百五十一話「竜の女王の城へ」

ひねり無しですみませぬ。

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