強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百四十九話「だから君は卑怯者だって言うのさ」

「なんぐぇ」

 

 最後尾がまほうおばば達に襲われたことを知らされた変態は驚きの表情を浮かべたままロープをかけられ、変態的なポーズで縛られて、カエルが潰れた様な声を漏らす。

 

「くくく、他愛もない」

 

 逃がさないようにとあれこれ悩んでいたのが、馬鹿馬鹿しくなるようだった。

 

(まぁ、一度に縛れるのが最大二人という縛りがある以上、この後もこう上手くいくとは限らないんだけど)

 

 逃げられる恐れがある相手を優先して縛って行くなら状況次第では三人以上でも対処は出来る。

 

「ん゛」

 

「と、さるぐつわだけはしておかんと叫ばれて気づかれる可能性もある訳だが」

 

 最初に縛った少年はばくだんいわと言う監視がいるから良いとして、ここからは声も出させず無力化、捕縛して行くことが要求される。

 

「しかし、しまったな」

 

 こんなことなら、あの集落で変態装備を一式借りてくるべきだった。顔の隠せるあの覆面マントなら標的の油断が誘えたかも知れないと思うと、本当に失敗であったと思う。

 

(まぁ、変態はさておき、女子供ならラリホーの呪文も効くかもしれないし、ものはやりようか)

 

 モタモタしていてバシルーラで空の彼方へ吹っ飛ばした老婆達が戻ってきては面倒なことになる。

 

(聖水使えばまほうおばばの件はクリア出来るんだけど、その場合ばくだんいわまで近寄れなくなるからなぁ)

 

 取り逃した時のフォローが効かないのは、流石に拙い。

 

「ふぅ」

 

 とりあえず、縛った変態は放置して先に進む。

 

(そもそもあの集落の男手は半分以上が既に捕縛済みな訳だし)

 

 一人は狩人の少年とは言え、囮を含めて三人を追加で無力化したのだ。

 

(なら、そろそ……読み通りか)

 

 護衛を無力化して進めば、先にいるのは、護衛対象。つまり、戦闘力に乏しい女子供と言うことになる。

 

「これなら、試す価値はあるな。ラリホー、ラリホー」

 

「え、あ……」

 

「ちょっと、どうし……ぁ」

 

 歩みを止めて子供が崩れ落ち、心配して声をかけようとした女性がふらりと揺れて倒れ込む。

 

「な、これは呪文か?」

 

 唯一効果のなかった様子の変態装備の男が周囲を見回し、呟いたが答えてやる義理もない。

 

「ぬわっ、しま」

 

(と言うか、叫ばれたら困るからね。しかし、デスストーカーってラリホーは効かないのか)

 

 眠った女子供に気をとられたところを背後に回り込んで縛り上げつつ、厄介だなと思う。

 

(変態装備していない面々には効いてるところを見るに、あの覆面マント、耐性付き装備なのかもなぁ)

 

 顔を隠す為だけじゃなかったと感心するべきか少し迷うと同時に、マシュガイアー変装用に少しだけ欲しくなる。

 

(この連中を引き渡した時にトーカ君かその兄にでも頼んでみればいいかな)

 

 後になって報酬を要求するというのもせこい気はするが、流石に覆面マントは直接着用者の顔が触れるモノなのだ。いくらラリホーの呪文に耐性があろうと、中古しかも山賊のオッサンの使用してたモノなどご遠慮願いたい。

 

(しかし、この分だとひょっとしてあのエビルマージのローブとかにも特殊効果はあったかもしれないのか)

 

 デスストーカーと違って中身が人間でないことを加味すると、自前の可能性もあるとは思うけれど。

 

(まぁ、どちらにせよ後だな、後)

 

 とにかく今は、ラリホーの呪文が解けないうちに眠っている女性や子供を縛ってしまうべきだ。

 

(うん、解っていたつもりだけど、やってることは先入観無しで見られたら悪事だよなぁ)

 

 せめてこちらは変態的な縛り方をしない様にしようと試みる。

 

(っ……なんだろう、このやりにくさは)

 

 手慣れたやり方と勝手が違うからなのか、女性を縛るという状況に俺自身が抵抗を覚えているのか。

 

(おろちだったら、割と気兼ねなく縛れるんだけど)

 

 あれは、本性が多頭の爬虫類だし。

 

(いや、気兼ねなくと言うか、やられたことを思い出すと嬉々としてと言うか)

 

 いや、嬉々として縛ったらこっちが変態か。

 

(そうそう、こう、ぎゅっと食い込むよう……に?)

 

 しかし、回想なのに何故か感触がやけにリアリティに富んでいる様な気がして、俺は手を止める。

 

「ん゛っ、ん゛ん……」

 

 目を開くと、そこには変態的に縛られて悶える中年女性の姿が居て。

 

(さて、あと縛っていないのは)

 

 とりあえず、俺は見なかったことにすると周囲を見回した。

 

(一、二、三、四、五、六、七、八……十二人か)

 

 割と多い様にも見えるが、ルーラで行ける村の人口に比べれば微々たるものだ。

 

(しかし、油断はできないな、危うく目をやられるところだった)

 

 おのれ、おろちめ。

 

(ともあれ、山で遭遇した変態の人数を加味すると、まだこの先にも居るだろうな)

 

 非戦闘員を縛る作業など憂鬱でしかないが、だからこそさっさと終えてしまいたい。

 

(全員を確保するまでの辛抱だ)

 

 捕縛し終えれば後は狼煙を上げてトーカ君達を呼び、引き渡しが終わるまで捕虜を護り切れれば俺の役目は終わる。

 

(行こう、後方の異変を悟られる可能性もあるし)

 

 俺の罪を置き去りにして、俺は歩き出す。

 

(何て格好付けたら有耶無耶に出来るよね、きっと?)

 

 そう、全ては、現実逃避だった。

 

 




けどね、一番卑怯なのは視覚テロを挟み込んだ作者だと思うんだよね、僕は。

などという自己ツッコミをしてみる今日この頃。

言えない、言えやしないよ。本当はサービスシーンにしようかと思ったけど芸がない気がして変化球気味のデッドボールで勝負に出たなんて。

次回、第二百五十話「ただいま、シャルロット。いい子にしてたか?」

そろそろ山賊集落編を終わらせたい願望をサブタイトルへ



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