強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百四十一話「そう言えばドラクエって味方側の武器としては弓あまり出てこないイメージだよね?」

「おいらはトーカって言います」

 

 ワンテンポ遅れてばくだんいわに驚いた弟さんは他の仲間を待つ間にそう名乗る。

 

(まさか兄より先に弟さんの方の名前を聞くことになるとはなぁ)

 

 よくよく考えると、その兄であるパンツ一丁男には自分も名乗っていないのだから仕方ないと言えば仕方ないのか。

 

「そうか、俺は――」

 

 名乗られたからには、名乗り帰すのが礼儀。

 

「おーい、トーカぁ」

 

「あ、みんな。こっちこっち」

 

「ほう、来たか。これであいつらを引きわ」

 

 簡単な自己紹介をする間に、弟さん以外の仲間もやって来たらしく、振り返った俺は斜面を登ってくるいくつもの人影を認め、硬直した。

 

「あれ、どうかしましたか?」

 

 弟さん改めトーカ君が聞いてくるが、どうかしたかも何も。

 

「何故全員パンツだけなんだ?」

 

 いや、聞くまでもないことだ。きっと、俺が縛った連中の仲間と間違えない様に自発的に覆面マントを脱いでから来てくれたのだろうと言うことは。

 

(けどさ、覆面マントって格好も結構酷いと思ってたけど、覆面マントを差し引いた格好も充分酷いな)

 

 厳密に言えば青い素肌の人間なんて居る訳無いだろうから、身体の線が見えるぴっちりとした全身タイツみたいなものを着込んでいてパンツ一丁は語弊があるのかもしれない。だが、このタイツ、下が透ける程薄いのだ。

 

(危ない水着を見た時はあれ以上危険な服は無いって思ってたけど)

 

 あったじゃねーか、もっと危険な代物が。

 

「ジーンがエリミネーターやデスストーカーじゃなかったことに感謝せねばな」

 

 一歩間違ったら、この裸とほぼ違わない全身タイツだけのシャルロットやおろちとエンカウントしていた可能性があるかと思うと、危険は身近過ぎるところに潜んでいたのだとつくづく実感させられる。

 

「ジーン?」

 

「あ、いやすまん。こっちの話だ。それより、人員が揃ったならあいつ等のことは任せて構わんな?」

 

 怪訝な顔をしたトーカ君に謝罪してから俺は話題を転じて確認をとり。

 

「あ、はい。そっちは大丈夫です。ニーサンに話を聞いて、他のみんなにも来て貰ってますし」

 

「となると、残りは大元の集落か」

 

 これがまた厄介でもあると思いつつ、吐かせた情報からあたりを付けた敵対集落の方角を見る。

 

「女子供も居ると言うのが厄介だな。あの連中の様に外道な真似をするつもりなどさらさらないが」

 

 だったら、どうするつもりだと問われると答えられない。

 

(一番無難なのは、トーカ君の集落に丸投げなんだろうけど)

 

 俺が連れて歩く訳にも行かず、身柄を預けられる様な場所は近くにない。とは言え、自分達を爆殺しようとした連中の身内だ、生かされたとしてどういう扱いを受けるかはあまり想像したくない。

 

(トーカ君の集落は割とマシな部類に入るとは思うけど、十中八九もめ事の種を抱えて貰う形になるわけだし)

 

 考えれば考える程自分が無責任な気がしてきて、何とも言えない気持ちになる。

 

「旅の途中の男一人、しかもやるべきことが他にあるとなれば、抱えられるモノなんて限られてることは今更だがな」

 

 余計なお世話だったとは思いたくない、あのまま立ち去ればトーカ君の兄や彼自身、集落がどうなっていたか解らないのだから。

 

(むしろ、この手のことを全て背負い込もうとすること自体が傲慢なのか。だいたい――)

 

 俺がすべきことはまず、シャルロットを補助してバラモスを倒すことなのだ。大魔王ゾーマまで倒さないことには、魔物の凶暴化は解けず、完全な平和にはほど遠いだろうが、それでもバラモスというこの世界を侵攻している旗印が無くなるだけでも随分違う。

 

(バラモスに呪いをかけられた人だっていた訳だしな)

 

 強いからと言って何でも出来る気になりすぎていたのだろうか。

 

(関わったのは、俺。そう言う意味で悪いのは俺だが、まだ取り返しは効く)

 

 いや、始まってすら居ないか。

 

(あの老婆を交えて、もめ事が起こった場合の事前対応策を考えておいて、暫くはトーカ君達に任せる。俺自身は役目を終えたら様子を見に来ればいいよね)

 

「ええと、あの……準備が終わりました」

 

「ん、そうか」

 

 自己完結に至るまでにそれなりの時間がかかっていたらしい。俺はトーカ君の声に顔を上げると周囲を見回してちょうど連行されて行こうとしている変態達とややパン一集団へと目を留め。

 

「では、あの人達を連れ」

 

 トーカ君が出発を伝えようとした時だった。さっきまで俺が向いていた方から、凄まじい轟音がしたのは。

 

「な」

 

「あ」

 

 覆面の有無など関係なかった。全員が一斉に音の方を見て知る。

 

「あれは」

 

「あの爆発は」

 

 そう、音の正体は爆発で、ただし俺が幾度となくぶっ放した爆発呪文のもたらしたモノとはまるで違っていた。

 

「ばくだんいわだ。ばくだんいわが爆発した時、あんな風に」

 

「「ばくだんいわ?」」

 

 幾人かの視線が俺の足下に集まったのは無理からぬこと。だが、逆にその場所に先程のばくだんいわがじっとしていたからこそ、爆発の原因は別の個体で。

 

「待てよ、それどころじゃねぇ! あそこは俺達の集落の」

 

 集まった視線が再び爆発の方へと向いたのは、覆面をした変態の一人が叫んだからだった。

 

「おい、う、嘘だろ……?」

 

「なんで、なんでだよ?」

 

 何人かの変態達が狼狽し取り乱すが、勝手な言い分だろう。

 

「さっきから見ていたが、こいつは人の言葉を理解するぐらいの知能があった。その上で、仲間が掠われて行くのを見たら、どう動くかと言うことだな」

 

 気づけば、俺は口を開いていた。

 

「何だそりゃ、だったら掠われるのを止めれば良いだろ!」

 

「どうやってだ? こいつ等の攻撃手段は知る限り自爆しかない。自爆をしようものなら、それは助けようとした仲間まで巻き込むことになる」

 

 では、掠われた側が自爆すれば良かったかというと、それも出来なかった。掠われたばくだんいわは二体いたのだから。俺がイオナズンで吹き飛ばしてしまった者と懐いてきた者で二体。

 

「その後、二体は別々にされたが、こいつはただ凹みに置かれただけで何もされなかった。だから自爆しようとは思わなかった訳だ」

 

 もう一体がどうなったのかを知ることもおそらくは出来なかった。メガンテの呪文ではなくイオナズンの呪文で消し飛んだ為、仲間が自爆したとする材料にならなかったのだ。ただし、ある程度近くにいて違いを理解出来た足下の個体の方だけは。離れた場所で仲間の掠われる光景と何処かで爆発が起きたことだけを知っていた別のばくだんいわは、仲間を掠った連中への復讐を考えた。

 

「普段は様子を見てるだけで何もしない。便利な武器扱い出来ると思っての浅知恵が裏目に出た、そう言うことだ」

 

 結果、ばくだんいわに逆襲され、どうなったかは言うまでもない。

 

「そんな」

 

「うおおおっ、ちくしょうっ、ちくしょおおおっ」

 

 へたり込む者、不自由な身で地面に当たろうとする者、様々だったが、因果応報でもある。

 

「とは言え、放っておく訳にもいかんか。悪いが一緒に来てくれるか? 俺がお前達の仇ではないと言う説明を頼みたい」

 

「へ?」

 

 変態の一人が声を上げるが、声をかけたのは当然変態ではなく足下のばくだんいわにだ。マホカンタで自爆は防げると思うが、自爆をさせてしまうと言うことはこいつの仲間を殺してしまうと同異義語だし、集落に生き残りが居た場合、巻き込んでしまう。

 

「もう少し話をしたかったところだが、ここまでだな」

 

「えっ」

 

 トーカ君には何故弓を背負っているのかとか変態衣装じゃないのかとか聞いてみたいことが色々あったが是非もない。殺気立ったばくだんいわの居るかも知れない場所には同行させられなかったのだから。

 

「ではな、生きていたらもう一度そちらの集落には寄ろう」

 

 俺は敵と味方の変態達に別れを告げると、爆発の起きた方角向けて歩き出すのだった。ばくだんいわ一体をお供として。

 




集落の後始末かと思いきや、起こった爆発。

それはばくだんいわによる反撃ののろしであった。

危険を承知で主人公は爆発のあった場所へ向かう。

そして、そこで見たモノとは。

次回、第二百四十二話「さびしいむらだな」

ロマサガやってないとわからないよね、このネタ。(うろ覚え)

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