強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百二十九話「オリビア岬」

「お師匠様お帰りなさい。準備、出来てますよ?」

 

「フシュアアアアッ」

 

 結局、おばちゃんにはあれ以上追求も出来ず話を終わらせた俺がシャルロットの元に帰ってくると、ご丁寧に鞍まで乗せられた水色の東洋ドラゴンが一緒に出迎えてくれた。

 

「すまん。しかし、鞍とは手間をかけたな」

 

「大人数で乗りますからな。一人なら角を両手で掴んで頭に乗ればよいのですが」

 

 ポツリと漏らしたら僧侶のオッサンが説明してくれたところによると、イシスに責めてきたディガス達はそんな風にして目の前のドラゴンを乗りこなしていたらしい。

 

「なるほどな」

 

 だが、今回はあくまで輸送目的。なら、乗り心地を良くする為にも鞍は必須だったという訳だ。

 

「ただ、一つ問題がありましてな」

 

「ん?」

 

「誰が何処に乗るかがまだ決まっておらんのです」

 

 僧侶のオッサンが続けた答えを聞くなり、即座に納得がいったのは俺達が男女混合のパーティーであるから。

 

「普通に考えるなら、攻撃呪文の使い手が頭で、残りが胴だな?」

 

「ええ。お二人の勇者様と――」

 

 サラ、そしておばちゃんがそれぞれ頭に乗るところまではいい。説明されなくても解る。

 

「残る胴ですが、あの鎧の魔物は勇者様の後ろを希望し、勇者様は『後ろにはお師匠様に居て欲しいでつ』とおっしゃいましてな」

 

「成る程、希望がかち合ったか」

 

「そう言うことです。ちなみにミリーさんも『ご主人様の後ろに』とのこ」

 

「ちょっと待て」

 

 シャルロットは予想出来た。だが、バニーさんが後ろと言うのは、拙い。

 

「この鞍の構造を見るに、三人目の者は前の者に掴まるしかないな」

 

「その様です」

 

 どう考えても胸を背中に押しつけられた状態で長時間過ごすことになると思うのですが、それは。

 

「男女でそれは拙かろう、お前とサラのような関係ならともかく」

 

 バニーさんが嫌いな訳ではない。

 

(むしろ、第一印象ならシャルロットより好みのタイプだっ……って、そうじゃなくて!)

 

 一難去ってまた一難とはこのことか。

 

「何にせよ、背に乗らなければ行けない場所に行くまでにはまだ距離がある。道すがら説得するしかないな」

 

 現状で想定しているルートは、まずドラゴンと一緒にバハラタへルーラで飛び、そこからドラゴンを連れて北上、陸路でオリビアの岬に到達するルートになる。

 

(最後の鍵があれば鉄格子の扉を開けられるから、ポルトガからロマリアの関所にある旅の扉を使うルートもあったんだけどなぁ)

 

 同行者がスレッジではなく俺なので、堂々と解錠呪文のアバカムが使えないのだ。これでは、途中で鉄格子が開けられなくて立ち往生することうけあいである。

 

「いくら盗賊の俺とて、可能と不可能があるからな」

 

 結局、鉄格子があって進めないからと言う理由でバハラタ経由のルートを通ることを説明し、シャルロットとおばちゃんが蘇生呪文の使用で疲弊していることを踏まえ、この日はバハラタの宿屋で一泊。

 

(上手くいけば、ダーマを探してる面々とバハラタで接触出来るかも知れないけど)

 

 何て思っていたが、ジパングに寄り道しているからか、一日前には既にバハラタを出ていたそうで。

 

「……それはそれとして、俺達は何とか岬までたどり着きはしたのだが」

 

 思わず口に出して解説してしまうのは、心の何処かで現実から逃げたいと思っているからかもしれない。

 

「お師匠様、ボクの後ろに」

 

「あ、ああ」

 

 とりあえず、頭に乗る予定のシャルロットは良いのだ。胴の鞍までは距離がある。

 

「あ、あの……ご主人様、宜しくお願いしますね。こ、こういうの初めてで――」

 

 問題はこちら、と言うかバニーさんである。

 

(これでも色々説得したんだけどなぁ)

 

 バニーさんの説得はご覧の通り、失敗した訳だが、ドラゴンたちを借りてきてくれたキラーアーマーに関しては、おばちゃんと同乗する方向で納得して貰ったのだ。

 

(一番肝心の所が失敗しちゃ話にならないよな、うん)

 

 俺としてはいっそのこと勇者サイモンの後ろに乗って、シャルロットとバニーさんの組み合わせで乗って貰うと言う案も考えていたのだが、どうしてこうなったのやら。

 

「まぁ、人間誰しも始めてはあるものだ。そも、ドラゴンに乗って移動したり戦った経験のある人間の方が少なかろう」

 

 俺が知る限りでは、シャルロットとスミレさんくらいだ。後者についてはドラゴラムで俺が変身した龍なのでカウントに入れていいモノか、微妙でもあるし。

 

「念のため、キメラの翼はすぐ使える様にしておけ。シャルロット、お前もな」

 

「は、はい」

 

「さてと、お前も宜しく頼むな」

 

 ここまで来てしまっては仕方ないと半ば諦めモードで安全の為の忠告だけし、ドラゴンに声をかけると鞍へと飛び乗る。

 

「フシュオァァッ」

 

 素の自分だったら思わずビビってしまいそうな咆吼で水色のドラゴンは応じ。

 

「全員乗ったか?」

 

 確認の声をかけ、十数秒間どこからも「まだ」とか「待って下さい」何て声が上がらないのを確認してから、俺は前に向き直った。

 

「良いぞシャルロット、出してくれ」

 

「はいっ。いくよ、みんな」

 

「「フシュアアアァッ」」

 

 シャルロットの声に寝そべっていたスノードラゴン達はゆっくりと身体を浮き上がらせ。

 

「しかし、ここまで来て岬の呪いが解けないとはな」

 

 岬を見つめて、俺は零した。岬の呪いを解くアイテムはサイモン達が幽霊船で見つけたそうなのだが、解呪にはまずこの岬に身を投げたオリビアへこちらの存在を知覚させる必要がある。

 

「船が無くては、どうしようもない、か」

 

 そもそもこの岬の呪いは通りかかる船を恋人の乗った船と勘違いしたオリビアが行かせまいと引き戻すというモノ。逆に言えば、岬を通り抜けようとする船だからこそオリビアは反応するのだ。当然、空を行く俺達には何の反応も示さなかった。

 

(いっそのこと、船っぽく見える丸太の固まりでも近くで作ってみるべきかなぁ)

 

 眼下に見える岬は、船を持って来ようにも、大きく回り込まなければいけない所にあり、船で来るぐらいなら、ホンの一時オリビアを騙す疑似船舶を造った方が早い気がしてしまう。

 

「だが、その前にすごろく場、か」

 

 まだ流石に見えてこないが、それはあくまで普通に探せば。

 

「二人とも俺の身体を少し頼む」

 

 シャルロットとバニーさんに頼むと、俺は自身のまなざしをタカの目に変えて更に空高くから周囲を見渡したのだった。

 




NGシーン
「大人数で乗りますからな。一人なら角を両手で掴んで頭に乗ればよいのですが」
 ポツリと漏らしたら僧侶のオッサンが説明してくれたところによると、イシスに責めてきたディガス達はそんな風に面白格好良く目の前のドラゴンを乗りこなしていたらしい。
「龍○丸とは懐かしいな」
 やはり剣を両手持ちして頭上から振り下ろす一撃でトドメを刺すのだろうか。思わずそんなことを考えてしまう。


次回、魔神英ゆ……じゃなかった、強くて逃亡者第二百三十話「すごろく場に挑む者」

まぁ、想像はつきますよね?

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