強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百二十四話「続・すごろく場を目指して」

「おお、そなたらか。実はヒミコさまが女性恐怖症になられてしまったようでのう。女子に近寄られると酷く怯えられるのだ」

 

 それを嫌な予感の的中と言って良いのか、ジパングに足を踏み入れた俺が出会ったのは、さも心配そうにヒミコのことを案じるジパング人だった。

 

(うわぁい)

 

 やっぱりと言うか、クシナタさん達のOSIOKIはおろちに効果覿面すぎたらしい。

 

「見慣れぬ魔物が現れた時は皆驚いたが、ヒミコさまが調伏し僕となされたと聞いて流石ヒミコ様とみな感服しておったのだがのう」

 

「そうか、それは難儀だな」

 

 とりあえず元親衛隊の面々はどうやらジパングの人達に受け入れて貰えたようだが、まぁそうでなくてはこんなのんびりはしていないだろう。入り口の両脇にバラモス城辺りで見た覚えのある石像がいかにも門番ですと言った感じで立っていたりするのだから。

 

「しかし、ここも随分変わったものだな」

 

 交易を始めたからか、店が出来、商人目当ての宿屋も出来て、ぶっちゃけジパングの面影がなくなりつつあったところへ、トドメとばかりに魔物がやって来たのだ。とりあえず、田んぼのど真ん中にも案山子代わりなのか片足立ちしていた動く石像は見なかったことにしたい。

 

「うむ、これも半分はそなたのおかげだ。外国から物と人が入ってきたことで、我が国も豊かになった。ヒミコ様のお陰で怪物に怯えることもなくなった。ジパングの未来は明るいと思うておったのだが……」

 

「そこで、女王の女性恐怖症が発覚した訳か」

 

「……お師匠様、どうされたんでしょうね? 前にあった時は、そんなこと全然なかった様子でしたけど」

 

 シャルロットが問いかけてくるも、ここで馬鹿正直に「クシナタ隊のみんながとても口に出来ないような酷いことをしたんだ」などと言える筈がない。

 

「さてな、気になるなら会いに行くか……と言いたいところだが、女性に怯えるというならお前が尋ねて行くのは逆効果になりかねん」

 

 故に俺に出来たのは、はぐらかしつつシャルロットがヒミコを尋ねていかないように釘を刺すことぐらいだった。

 

「ですけど、お師匠様。女王様に会わないで、ドラゴンを借りられるでしょうか?」

 

「それなら問題ない、俺だけか俺とアランのみで女王に会いに行けば問題なかろう?」

 

「あ、そっか」

 

 続けた質問に答えることでシャルロットを納得させ。

 

「時間はそんなにかかるまい。ここも随分様変わりしたようだし、お前達は買い物でもして待っていれば良かろう」

 

「買い物かぁ……あ」

 

 気を利かせたつもりで付け加えたのが失敗だったかも知れない。

 

「お師匠様、確か前に刀鍛冶の人に水着とか預けたんでしたよね?」

 

「え? あ」

 

 墓穴を掘ったことに気づいて俺は固まった。

 

「あれって結局誰に――」

 

「そ、そ、そ、それはだな……」

 

 ピンチだった。大ピンチだった。せくしーぎゃる騒動で嫌な事件を経験したからか

 

「ボクが着たいです」なんて全力で主張してくることがなかったのはせめてもの救いだが、鍛冶屋の人には誰かに着せるつもりだが当人を連れてきていないとか言ったような気がする。

 

(やばい、一度レプリカを着てるシャルロットにはすっとぼけた所で意味はないし)

 

 持ってたら社会的に死ぬから、架空の着用者をでっち上げて押しつけたと正直に言うのもNGだ。この場合、着せる相手が居ないなら欲しいと言い出しそうな変態に心当たりがある、主にこの国の偽女王的な何かと言う心当たりが。

 

(かといって誰かの名前を挙げたら、今度は俺が社会的に終了してしまう)

 

 嫌な予感の正体はこれか、死地はこのジパングにあったのだぁっ、うわぁい。

 

「それは?」

 

 脳内でおふざけし現実逃避しようとしても、シャルロットは逃がしてくれない。

 

「あ、あのご主人様……わ、私」

 

 ちょ、バニーさん何を言うつもりなんですか。

 

(詰んだ、もうおしまいだ……)

 

 酷い状況だった。一瞬、ジーンに着せるとか、俺が着るとかそんな選択肢さえ思い浮かべてしまうほどに逃げ場のない状況。

 

(穴があったら入りたいとはこのこ……ん?)

 

 シャルロットから逸らすつもりで横に流した視線が捉えたのは、井戸。

 

「そうか、確かめてみても損はないな」

 

「お師匠様?」

 

 徐に近寄った俺は、シャルロットの言葉をスルーして井戸の中に飛び降りた。

 

「……いや、解ってたがな」

 

 ジパングの井戸の中は、後にすごろく場が出現する場所なのだが、この時点では条件を満たしていない。当然の如く、降り立った先はただの井戸の底だった。

 

(しかし、ここでレムオルを使って透明になってから抜け出せば……って、一時しのぎにしかならないか)

 

 井戸に飛び込んだことについては、「何処かの井戸の中にすごろく場があるという噂を聞いたのを思いだした」とでも弁解すれば、言い訳にはなる。

 

(そう。だから――)

 

 今俺がすべきことは、井戸に飛び込んで稼いだ時間を使って、シャルロット達を納得させつつ自分も社会的に終了しない言い訳を考え出すことだった。

 

 死中に活路を見いだすべく。

 




危うく忘れるところだったオリジナルの水着とガーターベルト。

主人公的には忘れて良かったそれが、このタイミングで牙を剥く。

次回、第二百二十五話「死中に活路を」

もう、バラモスに着せるつもりって要っておけば良いじゃない、主人公。


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