「さてと、それですごろく場なのだがな。俺の記憶が間違っていなければ、オリビアの岬の北西にも一つあったはずだ」
ただ、ここへ辿り着くには長い船旅が必要になって来るという欠点がある。
(カザーブまでルーラで飛べれば一緒に最寄りの水辺まで来た船を橋代わりにして行けたかも知れないけど、そのカザーブにもまだ辿り着いてないからなぁ)
おまけに、そのカザーブ周辺にはあやしいかげが出没した気がする。
(つまり、近寄りたくない場所ナンバーワンなんだよなぁ)
ぶっちゃけ、そう言う理由があるので、そちら方面には個人的に足を運びたくないのだ。おばちゃんに取りなして貰うと言うのも考えたが、同じあやしいかげをやってても、全ての魔物に面識がある筈もない。
(ピラミッド内なら、顔を合わせる機会もあったかも知れないけど明らかに場所が違うもんな)
と、まぁそんなこともあって、俺は色々考えた。
「そこで、まずはジパングに向かう」
「え、ジパングですか?」
「あぁ。そこに居るはずの元バラモス親衛隊の空を飛ぶドラゴンについてきて貰えば、背に乗って岬の反対側に渡して貰うことも可能だろう」
流石にほこらの牢獄へ行った時のように俺がモシャスで魔物に変身する訳にはいかない。となると、これが一番手っ取り早いのだ。
「ドラゴンに……そう言えば、ディガスもスノードラゴンに乗ってまちた」
「ああ、その応用だな」
何処かの不死鳥さんと違ってあのドラゴンは普通の魔物、故に同じ高さを飛べる他の魔物とエンカウントしてしまう可能性はあるが、こちらにはシャルロットや魔法使いのお姉さんが居る。
「戦闘になった時は、お前達の攻撃呪文が頼りだ」
「そっか、空での戦いに」
「そう言うことだ」
とりあえず、シャルロットも理解してくれたところで俺は後方に声をかける。
「そろそろ脱出するが、いいか?」
「はい」
「ええ、堪能させて頂きましたわ」
ピラミッドの頂上から返ってきたのは、魔法使いのお姉さんと僧侶のオッサンの応答。
「……というわけだ、そろそろ足止めも切り上げるぞ」
「「ゴガッ」」
「でやぁっ」
シャルロットに呼びかけつつ振るった鎖分銅で、ミイラおとこ達を薙ぎ払い、足下に転がる動かなくなったミイラを蹴り飛ばす。
「お師匠様」
「ああ、撤退だ」
出来れば奥の扉も閉めたいところだったが、扉の手前の小部屋には通路から死角になったことでチェーンクロスの届かないミイラ男達がかなり居る。流石に手間だと見切りを付け、シャルロットの声に応じた俺が、そのまま階段を駆け上った直後。
「揃いましたわね? 行きますわよ、ルーラっ!」
魔法使いのお姉さんの声を知覚するや否や、身体が宙へと浮かび上がる。
「ジパングか……」
ついたらおろちには連れて歩けない魔物の面倒を見て貰えるよう頼む必要もあるかもしれない。
「ピキー、ミンナ、会エル」
灰色生き物はジパングという単語で故郷に戻れると理解したのか、嬉しそうで。
「しかし、おろちか……」
ただ、俺の脳裏には、クシナタ隊のお姉さん達によって色々無惨なことになっていたおろちの姿が一瞬浮かんでしまう。
(……大丈夫だよな?)
今回、クシナタ隊のお姉さんは誰も連れていない。OSIOKIを思い出しておろちが取り乱すようなことは、きっと無いとは思う。
(なのに、何で胸騒ぎというか、嫌な予感しかしないのか)
きっと、おろちに振り回されて苦手意識を持ってしまったからとかではないか、とそんな感じで無理矢理納得させ、小さくなって行く足下のピラミッドへ目をやる。
「これで、当分イシスとはお別れだな」
ピラミッドの財宝に未練は殆どない。そも、シャルロットの前で墓荒らしめいた泥棒など働ける筈もなかったし、資金面では困っていないのだ。
(これも、商人のお姉さんがゴールドをひたすら集めてくれたお陰か)
バラモス城とジパングの洞窟でのハードワークは本当にすまなかった、と思う。
(ダーマが見つかったら、商人を増やした方が良いのかも知れないな)
金貨回収要員と言うだけではない。野生の商人を呼び寄せてお買い物の出来る『おおごえ』は状況次第で本当に有用なのだ。特にゲームでは最後に立ち寄ったのがすごろく場のお店だと同じ品揃えの商人がやってきて大いに助かった記憶がある。
(やはり「ダーマが見つかってから」しかやれないことも意外に多いかぁ)
ジパングに飛んだなら、ドラゴンで海を渡ってダーマを探すのも選択肢の一つではあった。
「お師匠様?」
「ん?」
「何かお考えですか?」
「ああ、この後の行程と予定に変更すべき場所がないかを少し、な。ジパングでドラゴンに手伝って貰えば海を越えて西に行くことも可能だろう? それで、ダーマを探しに行くことも出来るなと考えていたところだ」
一応声をかけてきたシャルロットには説明したが、流石に思いつきで予定を変更する気はない。
「転職予定の二人に別行動でダーマを目指して貰うなんてことも考えはしたが、流石に馬に蹴られる気はないからな」
「馬?」
「恋路を邪魔すると蹴られると聞いた。あれは何処の諺だったか」
きょとんとしたシャルロットに細くしつつ、意味ありげに俺は魔法使いのお姉さんと僧侶のオッサンを見る。
「あ、あぁ! そう言うことですか」
「一応、ダーマ側にサラを加えるのも手だが、そうすると」
「ミリーが居づらくなっちゃいますよね」
「そう言うことだ。一応、ルーラの呪文が使える者が分散した方が良いとも考えられはするのだがな」
その辺りはキメラの翼で応用が利くのだ、魔法使いのお姉さんに一緒に行って貰う理由には弱いし、バニーさんがダーマを目指さないと本末転倒になる。
「さて、無駄話はこれぐらいで良かろう」
距離的にはまだ移動時間もかかると思うが、ゲームと違って俯瞰で大地を見られない現状において、ルーラの時間はうろ覚えの地理を再確認出来る時間でもある。
(下にあるのが、アッサラームであれが、多分バハラタかな……流石にダーマはまだ見えないか)
イシスが日没だけあって足下は夜。
(まぁ、だいたい記憶通りだったな)
やがて町の明かりを頼りに行う空中での確認作業が終われば、着地の準備が待っている。
(弟子の前で着地失敗なんてできないからな)
慣れてきているとは言え万が一もある。俺は少しだけ気を引き締めた。
色々考えていたけれど、すごろく場はまだ遠く。
次回、第二百二十四話「続・すごろく場を目指して」
そう言いつつ、おそらくはジパング回。