強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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実は、ネタバレ防止にサブタイ端折っておりました。

最初に想定してたサブタイトルは「二人目のアークマージ」。

一人目はずんばらりんされましたけどね。



第二百十六話「ふたりめ」

「さて」

 

 現状をお復習いしてみようと思う。まず俺達は勇者サイモン一行と合流する為、この砂漠でポルトガに最寄りの海岸を目指し北東に進んだ。

 

(ピラミッドの近くへ来てしまったのは想定外だが、それでも許容範囲だよなぁ)

 

 ゲームではこちらの先頭キャラのレベルに準じた敵と言う正体を持つあやしいかげという魔物が出没するピラミッドだが、その厄介さを知っているからこそ迂回して進んでいた筈だった。

 

(だと言うのに、何故かそのあやしいかげだったっぽいアークマージが何故か行き倒れて砂に埋まっていたという謎)

 

 埋まっていたアークマージは女で、呼吸が止まっていた為、人工呼吸をして助けた。

 

(シャルロットからすると、アークマージに出会ったのはこれが始めてだもんなぁ)

 

 エビルマージやまほうつかいとは遭遇しているので、せめて魔物であるとは気づいて欲しいところだが、出てきたのは砂の中から、しかも呼吸が止まっていた。これでシャルロットへ警戒しろと言うのも難しい。俺が気づいて掘り出さなければまず間違いなく命を落としていたのだから。

 

「ふぅ……本当に生き返りました。見知らぬお方、水まで頂いてしまってどうお礼を申し上げたら良いやら」

 

「いや、助けようと主張したのは俺よりむしろ向こうの娘だからな」

 

「あらあら、ではお嬢さんの方にもお礼を言いませんとね」

 

 しかも穏やかと言うかおっとりした感じで、感謝こそすれ敵意の欠片すら向けてこないのだ。

 

(と言うか、毒気を抜かれてしまった感じだよな)

 

 何だかペースをあちらに持って行かれたようで、いささか拙い気もしてはいる。

 

「いや、それには及ばないと勝手に言ってしまうのも問題だろうが、その娘の方があの状況なのでな」

 

「お師匠様が……お師匠様が……」

 

 譫言のように繰り返し未だ正気に返らないシャルロットを示して気まずげに口元を引きつらせた俺は、まだその女アークマージとの距離も掴めずに居たのだ。敵か味方かと問われれば、魔物である時点で敵であるのは間違いない。

 

(とは言えレタイト達の例もあるわけで)

 

 敵に回すと厄介な魔物だが、蘇生呪文を使えるという一点だけでも仲間に出来ればメリットは大きい。

 

(うーむ、どう切り出すべきか)

 

 質問するなら、何故こんな所に倒れていたかと言った辺りだろうが。何も知らないふりをすれば、はぐらかされる可能性がある。

 

(だからって、こっちがゾーマやアレフガルドとか色々知ってることを端っこでも匂わせれば、嘘はつかれづらくなるだろうけど、警戒される。最悪いきなり襲いかかってくる可能性だってある訳で)

 

 一長一短だからこそ、迷う。そして、悩んだが、沈黙し続ける訳にも行かず。

 

「ぶしつけな質問ですまんが、何故こんな所に倒れていた?」

 

 口をついて出たのは、もっとも基本的な疑問だった。

 

「あらまぁ、やっぱりそれが気になりますわよね。わかりました、お話ししますわ」

 

 すんなりと女アークマージが頷いて語り始めたのは、こちらが恩人にあたるからか。

 

「まず、私の名はアン。見ての通りのおばちゃんですけれど、こう見えて一応、大魔王ゾーマ様にお仕えするアークマージの末席に身を置いてますの」

 

「な」

 

 ただ、いきなり包み隠さず自分の素性を明かし始めたのは、流石に想定外だった。

 

「まぁまぁ、そんなに驚かれることはないのよ。私が魔物と言うことは察してらしたでしょう? この耳は明らかに人間のものではないもの」

 

「あ、あぁ……だが、攻撃されるとは思わなかったのか?」

 

 こちらはどう切り出そうかで悩んでいたというのに、思い切りが良いというのか、警戒心はどうしたというのか。

 

「あらあら、そんな気遣いをして下さるの? そんな勿体ない」

 

 少し驚いた様子で口元を隠した自称おばちゃんは、口を隠すのに使わなかったもう一方の手を振ると、微笑を浮かべて俺に告げた。

 

「もし、貴方に斬られるなら、その時はその時、運命だと思って逝きますわ」

 

「は?」

 

「私には大好きな方がいましたのよ」

 

 ぶっ飛んだ発言に、思わず耳を疑う中、おばちゃんは続ける。自分には夫が居たと。

 

「ふふ、毎日がとても楽しくて。あの人と一緒ならば、危険な任務も全然辛くなかったの。だけど、駄目ね。だからこそ、あの日で私の幸せな時間は止まってしまった――」

 

「えーと」

 

 俺は一体何故こんな話を聞いて居るんだろう。要約すると、このおばちゃんは未亡人で、夫を失った悲しみから生きた屍の様になってしまい、見かねた息子や娘に勧められる形で、あやしいかげとしてピラミッドに派遣されたらしい。

 

「あの子達からすると、おばちゃんはあの人の元に行く為に死に場所を求めていたように見えたのね」

 

「いや、見えたというか現に死にかけて居ただろうに」

 

 多分ここだけはツッコんで置かないといけないように思えて、思わず口を挟んだ。

 

「あら、ふふふ、これはおばちゃん一本とられちゃったわ」

 

「そう言う問だ……すまん、話の腰を折ったな。続けてくれ」

 

 ツッコんだ筈が穏やかに笑われて、気力が萎えつつも俺は話の先を促す。

 

「そう? それでね、暫くは穏やかな日々が続いたの。時々盗掘者がやってくることもあったけど、おばちゃんの出番なんてなくて、ただただ、無為に時間を過ごす日々。だけどね……」

 

 そんな穏やかな日々は、突如終わりを迎えたとおばちゃんは言う。

 

「ピラミッドのミイラやマミーがおばちゃん達を急に襲いだしたの」

 

「っ、ミイラが?」

 

「ええ」

 

 その変化、もの凄く身に覚えがあります。おそらくは、イシスのお城の地下で会った幽霊さんが出した追加命令によるものだろう。

 

「それでおばちゃんはね、ピラミッドから脱出することにした仲間を守りながら外に出て、襲ってくるミイラと戦ったのよ」

 

「成る程な、しかし見たところミイラに倒される程弱いようには見えないが?」

 

「まぁ、ありがとう。最初はそうだったのだけどね、精神力が底を尽きちゃうとおばちゃんの力じゃミイラの数が脅威だったのよ」

 

 元々ミイラ達の拠点であるピラミッドの側で戦っていたおばちゃんはやがて続々湧いてくるミイラおとこを倒しきれなくなったらしい。

 

「そこで、主人の元に行くのも良いかと思ったんだけどね」

 

 倒しきれなかったミイラおとこ達が脇を抜けて仲間達を追いかけようとした為、おばちゃんは囮になる為別方向に逃げたらしい。

 

「それで、逃げてる途中で、迷っちゃったの。しかも、そこを砂嵐に襲われて」

 

「砂に埋まってしまった後に俺達がやって来た訳か」

 

 とりあえず、このおばちゃんの性格はせくしーぎゃるがあれだったことを踏まえると「いのちしらず」辺りだろうか。

 

(しかし、未亡人とは言え相手が居た過去があってくれて良かった)

 

 これなら、人工呼吸を妙な方向へ勘違いされて言い寄られるなんて流れは無いだろう。

 

「話はわかったが、この後はどうする気だ?」

 

 語った素性から普通に考えれば、逃げた仲間に合流するか、報告の為ゾーマなりバラモスなりの元に行くという所だと思う。

 

(ここで見送っちゃえば、敵戦力の中へ微妙に倒しづらい戦力がいることが判明してしまうだけに終わる結果だけどなぁ)

 

 助けた相手だけに気にはなってしまうが、引き留めるのも何か違うように思えて、口に出来たのは問いかけのみ。

 

「そうねぇ、あなた達についていきましょうか」

 

「は?」

 

 ただ、この流れでまさかそう返されるとはちょっと予想外だった。

 




と言う訳で、今回のアークマージは「未亡人+むちむち+美女+熟女+いのちしらず」ポジションのおっとり系おばちゃんでした。

さて、と言う訳で女アークマージのおばちゃんが加わりそうな主人公一行。

ついて行くと言いだしたおばちゃんの真意とは。

次回、第二百十七話「もう一つの説明」


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