強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第百九十八話「リバースカードオープン、死者蘇生ッ! ……は、いいけどさ(閲覧注意)」

「むぅ」

 

 レタイトを無事蘇生出来たのは良い。

 

(蘇生呪文で生き返らせる条件は、魂を呼び戻す為の名前を知っていることと当人の遺体が一定以上存在するってところかなぁ)

 

 その上で同じ戦闘に参加しているとか、対象が仲間であったりすれば、蘇生呪文を行使出来ると言ったところか。

 

(そう言う訳なので、別に八つ当たりがしたくてバラモスに襲いかかった訳じゃないんだよ……って、誰に向かって弁解してるんだろう、俺)

 

「エロジジイ様?」

 

「あー、お前さんはとりあえず前を隠して貰えんかの、エロジジイ」

 

 ともあれ、とりあえず現実逃避とかをしてみた訳だが、レタイトが下半身丸出しという状況なのは変わらない。町中ならまず間違いなく衛兵さんとかに取り押さえられて牢屋へ直行するような格好である。

 

「……蘇生呪文じゃと?」

 

 今更ながらに、バラモスがかすれた声を出してるが、こちらはそれどころではない。親衛隊にも女性はいるし、エビルマージもどきになってるクシナタ隊のお姉さん達は全員女性。そんな場所に下半身丸出しのレタイトを連れて帰れるはずがなかった。「わいせつぶつ」と言う意味でも。

 

(クシナタ隊のお姉さん達は大丈夫だと思うけど、エピちゃん達の方は会って間もないからなぁ。あの腐った僧侶の少女みたいな思考パターンのエビルマージが居た日には――)

 

 まず間違いなくネタにされる。標的になる。餌食にされる。文章化もしくはイラスト化される。

 

(のぉぉぉぉぉっ)

 

 嫌だ、男同士は嫌だ。と言うか、妄想の具にされたりしようものなら、レタイトが下半身丸出しなのだって俺のせいと言うことにされかねない。

 

「おのれ、バラモス」

 

 だから、忌々しげに元凶の名を口にしたって仕方ないと思う。

 

「は? いきなり何だと言うのじゃ?」

 

 こんな時に限ってきっちり先方に聞かれていたりもするわけだけれど。

 

「決まっておろう、お前さんのせいでレタイトの下半身がすっぽんぽんなのじゃぞ、エロジジイ? しかも手持ちに着替えはない、エロジジイ」

 

 一体どうしてくれるというのか。

 

「はっ! まさかお前さん、実は男の裸を見るのが大好きであるとか……」

 

 それなら説明がつく。本当に薔薇モスだったなら。

 

「……本当なのですか?」

 

 俺の推測を耳にした元親衛隊長殿は、股間を隠しながら一歩後退し。

 

「そんな訳あるかぁぁぁぁぁっ!」

 

 俺とレタイトの視線に晒されたバラモスは叫んだ。

 

「なんとふざけた奴じゃ、この大魔王バラモスさまをこともあろうに男色の変態扱いとは……」

 

「それぐらいせんとこっちの腹がおさまらんのじゃがの、エロジジイ」

 

 一歩間違えばその風評被害こっちに降りかかるのだから。

 

「そもそも自分とてワシに良いように遊ばれた癖に部下にあたるとか、大魔王を名乗っておきながら恥ずかしくないのかの、エロジジイ?」

 

「うぐ」

 

 それで大魔王が務まるなら、俺にだって充分務まるだろう。元バラモス配下だった親衛隊の皆さんは取り込んだ訳だし、人材面での不足はない。このままバラモスを倒すなり追い出すなりしてしまえば、本拠地だって手に入る。もちろん、勇者の師匠と怪傑エロジジイだけでなく大魔王まで兼任するなんてハードな真似頼まれてもゴメンだけれど。

 

「ともあれ、今必要なのはレタイトの下半身を隠すモノじゃの、エロジジイ」

 

 シャルロットの師匠としての姿を明かしてしまっても良いなら、上から着込んでいる怪傑エロジジイのフード付きローブを脱いでレタイトに渡すという選択肢もあるが、当然却下だ。

 

「となれば、やはりローブを破いたモノに代価を支払って貰うべきだと思うのだがの、エロジジイ。ちょうど良い具合にマントをしてるようじゃし、エロジジイ」

 

「な、待て……それはどういう意味じゃ? まさかこのバラモスさまの身ぐるみを剥ご」

 

「そこまで察しているなら話が早い、エロジジイ」

 

 バラモスの言葉を途中で遮った俺は、小声でトラマナの呪文を唱えると、床を蹴った。攻撃の際、相手からアイテムを盗むのが盗賊である。

 

(だったら、このモヤモヤを一撃に乗せつつ、あのマントとか失敬してもいいよね?)

 

 口には出さない問い、よって答えは求めない。

 

「でやぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐふっ」

 

 鎖を巻いた拳による一撃を脇腹に叩き込む。

 

「おのれ」

 

「遅いっ」

 

 顔を歪めつつも叩き付けてきた腕を身体を左に傾けることでいなしつつ、再び小声でスカラの呪文を唱える。

 

「ぬおおっ、バラモス様をなめるで」

 

「だから遅いと言っておるのじゃ、エロジジイッ!」

 

「がべうっ」

 

 後ろ手にかざした左腕で背後に回ったバラモスが叩き付けてきた腕を受け止め、叩き込んだのはカウンター気味の回し蹴り。きっと本職の武闘家からすればへなちょこだろうとも、伊達に水色生き物を蹴ってきた訳ではない。

 

「うぐっ、何故じゃ……何故、ワシが、この大魔王バラモスさまが、そなたのような訳のわからぬ爺に……」

 

「解って居らんようじゃな、エロジジイ」

 

 呻きつつ身を起こそうとするバラモスを見て、俺は嘆息する。本当に解っていない。

 

「もし、お前さんが逆の立場じゃったらどうする、エロジジイ? もし、下半身丸出しの部下を連れて他の部下の元に姿を見せられるかの、エロジジイ?」

 

 良いか、社会的に死ぬかどうかの瀬戸際なんだぞ。

 

「だいたい、男の丸出しの下半身を見て喜ぶような者が何処に――あ」

 

 そこまで言いかけて、ふと思い出したのはせくしーぎゃるっていたやまたのおろち。

 

「くっ、そうか……バラモス率いる魔王軍ではこれはただのご褒美じゃったか、エロジジイ」

 

「は?」

 

 迂闊だった。

 

「ちょっと待」

 

「となると、下半身を狙ったのも最初からレタイトの下半身を露出させるのが目的で――」

 

 ついつい勢い余って胴体を両断してしまったと言うことだったのか。何と言うことだ。思い返せば、地獄の騎士も兜と肩パットこそしていたものの、鎧らしきモノは身につけていなかった。

 

「不始末をしでかすと罰として服を脱がされる、かエロジジイ。恐るべし、バラモス軍」

 

 そう言えば、全裸のモンスターとかも結構居た気がするが、あれはこの罰則システムの結果の姿だったのだ。

 

 




おそるべし、バラモス軍。

と、そんな感じでバラモスは今回も玩具なのでした。

それはさておき、このままでは仲間の元に戻れない主人公達。そんな中、バラモスが纏っているのはちょうど腰に巻くと下半身の隠せそうなゆったり目のマントで。

次回、第百九十九話「なにをするきさまらー」


そう、かんけいないね  ニア もてあんでも、うばいとる

こんな選択肢なんて無かった。

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