強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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番外編14「イシス攻防戦1(勇者視点)」

 

「一時はどうなることかと思ったよ」

 

 バラモス城で会った怪傑え、エロジジイさんからお願いされて伝言役としてイシスに到着した直後のことを思い出してボクはため息を洩らした。

 

「ぬぅ、全てわらわのせいだと言うのかえ?」

 

「……す、全てとは言いませんけど、やっぱり裸は駄目だと思います」

 

 唸ったおろちちゃんにエリザさんが言うとおり、裸だったのは拙かったと思う。そもそもボク達が飛んできた方角はバラモスの城がある方向だし、一歩間違えばこのイシスを襲うために近づきつつある魔物の仲間と思われても不思議はなかったのだから。

 

(だいたいおろちちゃんは本当に魔物だもん)

 

 魔物の姿で現地到着なんてことになるよりはマシだったと思うけど、案の定大きな騒ぎになった。城下町を守ってるのだと思われる戦士さんとかが異変を察知してやって来たんだけど、視線の大半はおろちちゃんに行って、ボクが慌ててマントでおろちちゃんを隠そうとしたら嫌らしい視線がこっちにも。

 

「あの時、エリザさんの知り合いの人達が止めに入ってくれなかったら、ボク達今頃……」

 

 あの無遠慮な視線に舐めるように体中をくまなく見つめられながら、町の入り口で事情を聞かされていたことだろう。きっとすごく興奮したと思うけど、それじゃ話が進まないし、穴が空くほど見つめられるならお師匠様に見て欲しい。

 

「し、しかし、あの男がこちらにも居ないとは意外じゃったのぅ。どちらかには居ると思うておったが」

 

「んー、だよね。まさか入れ違いとか?」

 

 もしくは、お師匠様のことだから、バラモスや魔物に悟られないように隠密行動をしているか辺りなんじゃないかとボクは踏んでるけど。

 

「どっちにしても、ボク達ここに着いてからまだ間もないし、何より今はまず格闘場の方の対策をしないと」

 

 同じ手を二度使ってくることに引っかかりは覚えるけど、前はサマンオサ。国が違う上、格闘場からバラモスの配下が侵入したことは、ロディお師匠様が話してくれなかったらボクだって知らなかった。

 

「秘密を知っていたロディお師匠様も助け出されるまで幽閉されてたらしいから、バラモス達がそのからくりについて人間達にはまだ気づかれていないと思っていたとしても不思議はないと思うんだ。だったら、前回に味を占めて同じ事を企んだとしても……」

 

「成る程の」

 

「だからおろちちゃんと一緒に格闘場に行こうと思うんだ」

 

 もし、バラモスの手先が潜入してるなら、そこへおろちちゃんが現れたらどう動くだろうか。

 

「むぅ、わらわを餌に接触してくるよう働きかける気かえ?」

 

「うん、おろちちゃんが味方になってくれたことを向こうはまだ知らないと思うから」

 

「しかしのぅ、わらわは極東方面の担当、イシスはバラモスさ……バラモスが直接担当して居る地域、面識は無いに等しいぞえ?」

 

 声を潜めたおろちちゃんの言う事は尤もだ。ジパングとイシスがかなり離れていることは、キメラの翼で飛んだから解っている。

 

「けど、他に手段もないし」

 

 真っ正面から乗り込むよりは可能性があると思うのだ。

 

「そもそもね、おろちちゃんがジパングの女王様に成り代わってるおろちちゃんじゃなきゃ、良いと思うんだよ」

 

「それはどういう」

 

「ホラ、ボクも魔物使いでしょ? バラモスがやったことと同じ事をしちゃえば良いかなって、メタリンも居るし」

 

「ピキー? シャ、呼ンダ?」

 

 名前を口に出したからか、ボクの着替えを入れた袋がモゾモゾ動いて。

 

「ええと、シャじゃなくてボクの名前はシャルロッ……」 

 

 顔を出したメタリンと目があったボクは固まった。

 

「ちょ、ちょっと、メタリン、ボクのパンツ被っちゃ駄目ぇっ!」

 

「ピィ? コノ白布、引ッカカリタ」

 

 引っかかりたじゃなくて引っかかっただけど、よりによって何でそれなの。お師匠様にも被って貰ったこと無いのに。

 

「って、お師匠様がそんなことする訳……あ、してくれても全然構わないけどってそうじゃなくてぇ!」

 

 人目についたら拙いからって、なんでボクあんな場所にメタリン隠しちゃったんだろう。

 

「返して、メタリンそれ返してぇっ」

 

「ピキー! 追イカケッコー!」

 

「追いかけっこじゃないからぁっ!」

 

「やれやれ、たかだか布きれ一枚で騒がしい女子じゃのぅ。わらわなど裸でも興奮するだけで動じぬと言うのに」

 

「あの、そ、それは色々と拙いと思います」

 

 おろちちゃんは何だか好き勝手言っていたけれど、構っている余裕何て無かった。

 

「シャ、オ揃イ。楽シイ」

 

「違うよぉ! ボクのは覆面っ! パンツじゃないんだから、返してぇっ!」

 

 こういう時言うことをきいてくれないのは、まだ触れ合いが足りないんだろうか、それとも。

 

(ううっ、ベッドの下に潜るとか体格差をこうも利用してくるなんて。ええと、何か良い方法は……そうだ)

 

 暫く追いかけ回した後、埒があかないと思い始めたボクは咄嗟の思いつきを口にする。

 

「メタリン、返してくれないとおやつ抜き」

 

「ピッ?! 解ッタ、返ス」

 

「っ、こんな簡単なことで……」

 

 ただ、効果がてきめんすぎて今までの努力は何だったのかと結構凹んだんだけど。

 

「ふふふふふふ、ともあれ善は急げだよね」

 

 多分、もっと早く行動に移していれば良かったんだ。モンスター格闘場の厩舎の中ならボクのパンツなんてないんだから。もっと早く格闘場に行って預けてくるべきだったんだ。

 

「エリザさんはあの人達に伝言お願い出来るかな? 格闘場に潜入してるバラモスの手先をあぶり出すから、万が一に備えて控えておいて欲しいとも」

 

「は、はい。解りました」

 

 ここからはイシスの町を守る戦いだ。決して八つ当たりとかじゃない。

 

(そうですよね、お師匠様)

 

 見上げた宿の天井に浮かんだお師匠様は、優しく頷いてくれて。

 

「バラモス城じゃ試す機会はなかったけど……修行の成果、ようやく実感出来るんだ」

 

 エリザさんが出ていった部屋のドアを見つめ、ボクは呟いた。

 




あの師匠にしてこの弟子あり。

次回、番外編14「イシス攻防戦2(勇者視点)」

たぶん格闘場で前哨戦。

なお、しゃるろっとはあんていのせくしーぎゃるです。

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