強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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前回から引っ張ってるので、閲覧注意はこのままつけっぱなしで行きます。

主人公一行の問題が何らかの方法で解決するまでは。


第百八十七話「ダンジョンって嫌い! おトイレ遠いんだもん!(閲覧注意)」

「ん、外かエロジジイ」

 

 階段を上ると、辿り着いたのは屋上。

 

(うーむ、ここってどのあたりだっけ?)

 

 ゲームでは必要なかったおそらく魔物用の居住空間やら何やらが増設されていて、奥に行けば行くほど原作知識のバラモス城マップが役に立たないせいで、本当にエビルマージの道案内だけが便りだった俺には周囲の見渡せる高所はありがたい。

 

「所で、ここにフック付きのロープがあるんじゃが、エロジジイ」

 

 そして、この身体が盗賊であったことも。

 

「壁づたいに降りたらトイレまでの近道は可能かの、エロジジイ?」

 

「ん゛ぅ」

 

 確認すれば、エビルマージは頷くと顎をしゃくって一方を示し、俺は即座に近くの水色生き物みたいな形状をした屋根の突起にフックをかけると壁を乗り越え、ロープを伝って滑り降りた。

 

「……とりあえず周囲に魔物は居らんようじゃの、エロジジイ」

 

 縛られたエビルマージもロープを使えば安全に下ろせると思う。問題は、ゲームのような俯瞰図を眺めつつ攻略している訳でないので、今の俺には北がどちらか解らない点だ。うろ覚えの記憶ではバラモスが居たのは、北東の地下だった気がするので、そこに近寄るのは避けたい。

 

「エロジジイ様」

 

「む?」

 

 ただ、記憶を漁ったのは一瞬のつもりだったが、思ったより長く自分の記憶に埋まっていたらしい。

 

「エロジジイ様、エビちゃん下ろし終わったよー?」

 

「すまんの……」

 

 スミレさんの声に俺は軽く感謝を示し。

 

「って、エビちゃんって何じゃ、エロジジイ?!」

 

 さらりと流しかけたことにツッコんだ。

 

「エビルマージだから、エビちゃん」

 

「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくての、エロジジイ」

 

 幾ら何でも安直だと思うのだ。音だけ聞くと海産物っぽいし。

 

「ん゛ぅーっ」

 

「エロジジイ様、気持ちはわかりますけど今は時間が」

 

「そ、そうじゃったエロジジイ」

 

 脱線してる暇など無いのだった。

 

「次はどっちじゃ、エロジジイ?」

 

「んぅ」

 

 問いかければ、エビルマージは池の中央にある人工的な小島を指し示す。

 

「ったく、いくら侵入者対策とは言え居城に踏み込んだ者を傷つける力場を設けるとか信じられんわ、エロジジイ!」

 

 そちらを見れば、島の表面はいかにも痛そうなバリアで覆われていて、口からは愚痴がこぼれた。

 

「ああ、めんどくさいエロジジイ」

 

 踏むとダメージを受けるゲームで言うところのダメージ床は、急いでいるこっちからすると忌々しいことこの上ない。石畳の一本道を通って島に至れば、声に出さず詠唱していた呪文を唱え。

 

「トラマナっ、エロジジイ」

 

 一応ダメージを受けずに済む様になった訳だが、消費する精神力もエビルマージから吸えば回復出来るものの、気はちっとも楽にならなかった。

 

「呪文の効果が切れる前に降りるぞ、エロジジイ」

 

「あ、はいっ」

 

 いくら原作知識がうろ覚えだからと言っても、馬鹿でもなければわかる。

 

「ひょっひょっひょっひょっひょ、エロジジイ」

 

 俺は笑った。

 

 階段を下りるなり、聞こえ始めた地鳴りのような音。漏れ出る何かに巻き上げられるように砕けた床の欠片か何かが宙へ浮かび上がる。常識的に考えるなら、そりゃここにはトイレだってあるだろう。

 

「え、エロジジイ様」

 

「うむ、何も言うなてエロジジイ」

 

 視線を右に向ければ、いくらか高くなった祭壇のような場所にそは立っていた。プテラノドンか何かを思わせるような後頭部の突起に嘴のように突き出た口、黄緑の衣と朱色に裏打ちされた紫のマント。

 

「エロジジイ様、あれはひょっとして」

 

「うむ、あれがバラモスじゃエロジジイ」

 

 そう、何を隠そうここはバラモスの部屋である。ゲームではここで待ちかまえていたのだからトイレぐらい会って当然だろう。多分、寝室とかも完備に違いない。

 

「一応聞いておくが、お前さんアレにワシらを始末させる為ここに案内した訳ではあるまいな、エロジジイ?」

 

「ん゛ぅぅ」

 

 バリアがあった時点でうすうす察してはいた。ただ、かといって引き返したりする時間的余裕は無いと踏んだのだ。だから、バラモスに気づかれないようにしつつ魔王専用トイレをお借りしてしまおうと思った訳で。

 

(問題は一つ、ゲームじゃ話しかけるか近寄らなければ戦闘にならなかったような気がするけど、流石にこっちじゃそれはないって点だよなぁ)

 

 気づかれれば、戦闘になる可能性は充分にある。

 

「この大魔王バラモス様の城に侵入し、僕共を殺して回ったあげくノコノコとワシの前に現れるとは身の程をわきまえぬ者達じゃな」

 

 とか話し出したら、アウトだ。ぶっちゃけ、一人でもたぶん勝てるとは思うが、勝手にバラモスを倒しちゃったら、シャルロットの立つ瀬がないし、まだバラモスの後ろに控えてるはずの大魔王ゾーマに対処する準備が出来ていない今、バラモスにはもう少し長生きしていて貰う必要がある。

 

「ここからはより慎重に行くぞエロジジイ」

 

 忍び足はもとより、レムオルの呪文での透明化も念のためにしておいた方が良いだろう。こうなると、お姉さん達がエビルマージの格好のままなのは正解だったと思うべきか。

 

「レムオルじゃ、エロジジイ」

 

 俺は、呪文を唱え。そして始まる。大魔王のトイレちょっとだけ借りちゃおう大作戦が。

 




祝:バラモス初登場。

こんな登場でごめんなさい。

次回、第百八十八話「バラモス」

果たして一行は無事エビちゃんをトイレに連れて行けるのか。


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