強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第十八話「失念」

「あなた、あの娘の師匠になってから陛下の元を尋ねたことはあった?」

 

「……いや」

 

 ルイーダさんの部屋に入り、そこに腰掛けでだのとといったやりとりの後の第一声へ俺は首を横に振った。

 

「でしょ、私の方からも報告は入れてるけど王様からすれば生の情報も欲しいのよ」

 

「なるほどな」

 

 言われてみればもっともでもある。国をあげて勇者を支援しているのだから、国王としても勇者の状況は気にかかるのだろう。

 

(俺が深く考えすぎてただけだったのかなぁ……ん?)

 

 一瞬納得したものの、引っかかりを覚えて、俺は問う。

 

「だが、報告を求めたなら何故勇者ではなく俺を呼ぶ?」

 

「客観的な観点からの報告の方が良いと思ったのよ、主観で偏ってしまうことがないようにね」

 

 報告は俺を引っ張り出すダシではないかと思ったわけだが、ルイーダさんは即座に反論してきた。ただし、これには俺も反論がある。

 

「第三者視点の報告ならそちらで出しているだろう?」

 

「すぐ側で勇者の面倒を見てるあなたと影でこっそり見てる護衛では得られる情報量が月とすっぽんなのよ」

 

「ふむ」

 

「しかも、あなたが黙っててくれれば勇者に内緒で近況が確認出来るでしょ? あの娘、危うく命を落とすところだったり、それによってトラウマを抱えたりしちゃってるから、呼んでも報告に来辛いと思うのよ」

 

「確かに」

 

 ルイーダさんの言葉には、説得力があった。大人の女性に論戦を挑んだ時点で勝ち目など無かったのかも知れないが。

 

(言ってることはもっともなんだけど、これがただの口実ってことは充分考えられるし)

 

 後は此方から質問して情報を仕入れ、自分で考えるしか無いのかも知れない。

 

(カマかけても引っかかってくれるか妖しいし、藪蛇になったら元も子もないもんな)

 

 俺の強みはうろ覚えの原作知識だけだが、情報の出所は言えない上に行っても信じて貰えないものだ。

 

「ならば、王の用件はそれだけなのだな?」

 

「ええ、私が知っているのはだけどね」

 

「っ、ならば別のことを聞かせて貰おう――」

 

 せめてもの抵抗とばかりに確認した後、幾つか質問し、そして俺はルイーダの酒場を後にした訳だが。

 

「よくぞ来た我がアリアハンの勇敢な若者よ!」

 

 王の第一声がベタすぎるくらベタな言葉から始まったことに、俺は何とも言えない気持ちでいっぱいだった。

 

(いや、わかっていたけど……少しぐらいはあるんじゃないかと思っていたけどね)

 

 ルイーダさんについていった俺は、あの後幾つかの情報を得ていた。だからこそ、少しは心の準備も出来て居たし、「こう来られたらこう返す」と言った対応も考えては居たのだが。

 

(いきなり「じょうだんで、こうほにいれていたもの」からきりだしましたよ、このおうさま)

 

 まさかゲーム通りの対応からはいるとか誰に予測出来ようか。

 

(挨拶もそこそこに本題切り出してくるとか考えてたのに……)

 

 老獪な国王相手の息詰まる心理戦とかあるんじゃないかとビクビクしていた俺は、密かに脱力し。

 

「お主が次のレベルになるには」

 

(あっ)

 

 盛大な地雷を失念していたことに気付き、固まった。

 

「なっ」

 

 そして、王様も固まった。

 

(うあああああああああああああああああああ、しまったぁぁぁ)

 

 ゲームでの王様は勇者達があとどれくらいの経験値で次のレベルに上がるのかを教えてくれるのだが、次のレベルに上がるまでの必要経験値はレベルが高いほど多い。

 

 レベルアップの後に経験値が貯まってれば、必要経験値も少なくなるので誤魔化すことも出来たかも知れないのだが。

 

「皆の者、少し下がれ。わしはこの者と話がある」

 

「な、何と?! ですが、王様このような得体の知れぬ盗賊と二人とは」

 

「そうです、王様。せめて護衛をお許しください」

 

 何やら兵士や大臣が抗議を始めていたが、そんなもの俺の耳には届かなかった。

 

(そう言えばここゲームの世界だもんな)

 

 お城も街も外の広さもゲームの時とは比べものにならないし、人々の反応も決められた台詞を話すだけでないので、忘れていた。

 

「不用じゃ、下がれ」

 

(うわーい、これはかんぜんにばれてますよ)

 

 王が何もないのにわざわざ臣下へこんな対応をとるだろうか。つまり、俺の正体の一部を察したのだ。

 

(ははははは)

 

 このキャラは「しあわせのくつ」を集める為に倒すと膨大な経験値を獲得出来る「はぐれメタル」というモンスターをひたすら狩りまくっていた訳だが、盗賊は攻撃した時相手の持ち物を盗むことがあり、その成功率はレベルに依存する。

 

(そう、実は俺はレベル99だったのさっ)

 

 所謂カンストである、次のレベルまでの必要経験値などあるはずもないし、成長限界に達していたことは一発で気づいただろう。

 

「さて、待たせたな勇者の師よ」

 

(これは、あれかな? お前がバラモス倒しに行けって言われる流れかな)

 

 自分がアリアハンの国王で、此方の事情を知らなかったら100%そう言っていただろう。

 

(逃げる……って、そんなことしたら勇者達が責任を負わされるし、って言うか俺が行かされるならそもそも勇者達がお役後免に、あれ?)

 

「ご無礼を致しました」

 

 見事に混乱している俺の前で、アリアハン国王はいきなり跪いた。

 

(は?)

 

「その強さ、わしにとてわかります。人とは思えぬ……いえ、本当に人では無いのではありませんかな?」

 

 展開に頭のついて行けてない俺が国王のとんでもない発言の意味を理解したのは、その後国王に二度ほど声をかけられた後のことであった。

 

 




強さ故に人外認定されてしまった主人公。

盗みの成功率と他のメンバーが転職してしまったことで戦力ががくんと下がるのを避ける為、一人だけレベルカンストのままだったことが災いしたのだ。

そんな主人公を前にして、王様は何を言い出すというのか。

次回「ルビスの使い」にご期待下さい。

とんでもない展開になったと思ったのは、きっと闇谷もだ。

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