「フシャァァァ」
「あ、おろちちゃん。えへへ、ゴメンね?」
どうやらやまたのおろちと会話しているようだというのは解った。
「もうちょっとボクに慣れてくれたと思ったのになぁ」
「ピキー?」
灰色生き物を抱えてブツブツ呟いているところを見るに、信じられないことだが、たぶんシャルロットはあの灰色生き物を仲間にしたのだと思う。
「しかし、お前さんよく魔物をてなづけることなど出来たのぅ、エロジジイ」
ましてや、勇者一行の新しい仲間は、倒しづらいと定評のある歩く経験値ことメタルスライムだ。仲間モンスターシステムのある作品でも仲間にするには一度倒す必要があった上、倒せば確実に仲間になる訳ではないと記憶している。
(灰色生き物だけなら俺も結構な数を狩ってるんだけどなぁ)
起きあがってきた個体は居なかった。となると、仲間にするには何らかの手順がいるのか。
(もしくは、あの『おろち』が何かしたかかな)
灰色生き物はおろちの居たジパングの洞窟に棲息していたはず。見たところ、シャルロットはおろちとも仲が良さそうだし、おろちから配下のモンスターを譲り受けたって可能性だってある。まぁ、推測するよりお師匠様になって聞き出した方が早い気もするけど。
「うん、あれは本当にきつかったよ……」
「嬢ちゃん?」
何故だかシャルロットの目が何処か遠くを見ていて、呼びかけにも返事が帰ってこなくて、うっかり語尾をつけ忘れた。
「うむぅ、これは何というか回想モードじゃな、エロジジイ」
考え事の最中に思考が逸れて俺もたまにやるので、シャルロットを責める資格はないのだが、この状況で放置されるのは流石に困る。
「揺り起こしてでも正気にもどすか、それともあっちに聞いてみるべきか、エロジジイ」
ガーターベルト着用でせくしーぎゃるになっていらっしゃるシャルロットに直接触れるなんて目に見えた地雷を踏み抜きたくはないが、魔物形態のやまたのおろちとスレッジは面識が無かった筈で、話を微妙に切り出しにくい。そも、今はスレッジじゃなくて怪傑エロジジイだし。
(ただ、なぁ‥‥)
かといってクシナタ隊のお姉さん達はシャルロットと引き合わせられず。
「ああ、のんびりしておれんというのに、エロジジイ」
どうしろというのか。いや、解ってはいるのだ。
「もしもーし、嬢ちゃん聞こえとるかのー、エロジジイ?」
とりあえず、気力を振り絞ってもう一度シャルロットに声をかけた直後だった。
「裸で寝るのも気持」
「は?」
何だかとんでも無いこと口走り始めましたよ、この子。
「ちょっ、ちょ」
流石にこれは人様に聞かせられない。だが、近寄ってシャルロットがせくしーぎゃるしてしまったら――。
「お、おいそこの五つ頭、お主の騎乗主じゃろ、エロジジイ? 何とかせぬか、エロジジイ!」
俺は追いつめられてとっさにそんなことを言ってしまい。
「仕方ないのぅ」
「むぐっ」
「え」
素っ裸のヒミコに姿を変えたおろちがシャルロットに後ろから組み付いて覆面の上から口を押さえる姿を見て、固まった。
「どうかしたかえ? 竜の身体で口は押さえられぬ、何とかしろと言うたのはお前じゃろ?」
確かにそうですが、何故裸なんですかご馳走様です。じゃなくて、何故裸なのだ。
(せくしーぎゃるは治った筈だよなぁ)
だいたい、おろちの狙いはスレッジではなくスーさんだった筈。
「ピキー?」
「教えてくれぬか、何があったのじゃエロジジイ?」
どうしようもなくなった俺はこともあろうに、シャルロットが後ろから抱きすくめられた弾みで逃げ出した灰色生き物へ訊ねていた。
「ワカラナイ」
「しゃべったぁぁぁぁ?!」
ただ、聞いておいて何だがメタルスライムが答えてくれるとか想定外で。あ、語尾忘れた。
「し、しかし……まさか喋れるとはのぅ、エロジジイ」
確かランシールと言う村の神殿に人語を話すスライムが居たような気がするから、理論上存在しても不思議はないのだが、流石に驚いた。
「ピキー、チョット……ダケ」
「むぅ、なるほどのぅ、エロジジイ」
改めて聞いてみれば、確かに若干片言っぽい気もする。となると、複雑な言い回しや詳細説明みたいなモノは無理か。
「ともあれ、流石にあそこまでされれば我に返ったじゃろ、エロジジイ」
灰色生き物を観察しつつ現実逃避する時間はもう終わりだ。
「それで、何故こやつはお前さんになついてるのじゃ、エロジジイ?」
俺はシャルロットへ再び訊ね、答えを待つ。期待と不安が半々にない混ぜな気持ちで。
短くてごめんなさい。ぐぎぎ。
ともあれ、回想シーンから何とか戻ってきたっぽいシャルロット。
せくしーぎゃるであるが故に一歩間違えば大ピンチの状況は終わらない。
次回、第百八十三話「看過出来ぬモノ」
シャルロットの話に、主人公は――。