「この国の守りも必要だからな。最低でも半数は残って貰う」
一度空から来る魔物の群れを襲撃したが、あの編成であれば脅威になるのはブレス攻撃と範囲魔法による一斉攻撃だと思う。だから、マホカンタの使える魔法使いのお姉さんには持てるだけ薬草を持って残って貰う。
「攻撃面に関しては、イオ系呪文かヒャド系呪文のどちらかは効く相手だ。雲と細長いドラゴン以外ならヒャド系呪文が有効と見て良いか」
「イオとヒャドでありまするな?」
「ああ。勇者のみが使えるというディン系の呪文なら双方に効くと思うが、勇者サイモンが襲撃の前にたどり着けるかどうか微妙だからな。こちら側の主な対処手段は魔法使いの呪文攻撃になるだろう」
一応、僧侶も攻撃呪文は使えるのだが、僧侶のお姉さんには回復と補助を担って貰う必要があるのだ。
「まず、呪文の有効射程に敵が侵入する前にピオリムの呪文で味方全体の素早さをあげ、先制攻撃の確率をあげる」
形として呪文の撃ち合いになることが予想される為、素早さは重要。先制の範囲攻撃呪文を重ねられれば、無傷で相手を一方的に殲滅することだって不可能ではない。
「まあ運の要素もあるし、精神力が続けばだがな」
「なるほど、参考になりまする」
とりあえず、こうして戦って得たデータは対応策付きでクシナタさんに披露し、準備を整えた上で俺は迎える。
「では、後は任せる」
「はい」
そう、出発の時を。嫌がらせ組の編成は、盗賊1商人1遊び人1僧侶2に魔法使いが1とエリザさん、それに俺だ。魔法使いはエリザさんが居るので一人削った。
「計八人か」
最初は三人で行くつもりだったのに三倍近い人数に膨れ上がっている。結果として継続戦闘能力も高くなった。
「後はシャルロットの持ってる袋があれば言うことないのだがな」
無限にアイテムが入っておそらく重さも無視出来るあのチート収拾があれば、戦利品が持ちきれない何てオチになることもない。
「まあ贅沢が過ぎるか」
そもそもシャルロットを連れずにバラモスの城へ行くこと自体当初の予定にはなかったのだ。
「しかし、シュールな眺めだな」
「スー様、それは言っちゃ駄目だと思う」
スミレさんに窘められてしまったが、そのスミレさんも今では黄緑色の覆面ローブ姿で声がなければ誰だか解らない。
「ああ、すまん。まぁ、ルーラで人間が飛んできたら警戒されるだろうから是非もない訳だが」
バラモス城に出没する魔物、エビルマージに扮しているせいで何とも言えない出発シーンになってしまったものの、これもルーラで飛んできたこっちを見て魔物達へ迎撃体勢をとらせない為の苦肉の策である。
「変化の杖があればな。こんな仮装に時間をとられることもなかったものを」
自分達の姿を変化させ、本来ならほこらの牢獄へ向かう為間接的に必要になる杖も泳いでほこらの牢獄にたどり着いてしまった俺には不要の品。スルーしたのがこんな所で祟るとは思っていなかった。
「まぁ、今となっては後の祭りか」
今更サマンオサまでルーラで寄り道する時間はない。そもそも、今更愚痴を言ってどうにかなるモノでもないのだ。
「まぁ、遠目にばれなければいいのだからな」
到着して、その場しのぎの変装に魔物達が気づいたとしても倒してしまえばいい。
「念のために二つ渡しておく、一つは緊急時ここに戻ってくる時に使ってくれ。バラモス城まで宜しく頼むぞ?」
「は、はい」
キメラの翼を渡すと、俺はエリザを促し。
「いっ、行きます!」
翼は放り投げられた。
「行ってらっしゃい」
「気をつけてね」
「抜け駆けしちゃ駄目ですよ?」
その背に声を投げられて俺達は――って、抜け駆けってなんですか。
「……一部コメントに困る言葉があったな」
「そ、そうね」
何とも言えない表情で覆面をしたお姉さんの誰かと視線を交わした俺の身体は空高く運ばれて行く。
「スー様、あれを」
「っ、南に居た魔物の群れか」
直後、お姉さんの一人に呼ばれて指し示す方を見れば、もやのように進行方向へ群れる魔物達が見える。
「想定より進軍が遅いな」
おそらくは俺が襲撃をかけたせいだろうが。
「多分そうね。スー様に被害を受けた分、再編成とかに時間をとられたんだと思うわ」
肯定するお姉さんの言葉を聞きつつ、身体は飛翔を続ける。
「なら、その分の時間も有効に使わせて貰おうか」
向かう先は、バラモス城。嫌がらせタイムは刻一刻と近づいていた。
次回、第百七十九話「空からやって来た者」