「おはよ、ちょっといいかい?」
朝一番、ドアを開けたら昨日の女戦士が立っていたときの俺の気持ちがわかるだろうか。
(ここでドア締めちゃっても、失礼じゃないよね)
人目があるところで昨日のような妄想を垂れ流されたら、社会的にこっちも死ぬ。
「ちょっ、な、なんだいその顔は。あたいだって昨日の今日で恥ずかしいんだよ? ま、まぁその恥ずかしいのも、こう……ふぅ」
(はぁ)
関わり合いになりたくないというか、さっさと別の性格になって頂きたいと俺は切に思う。
「用件は何だ」
言葉に刺が混じるが、たぶんこの女にはご褒美でしかないのだろうと思うとやりきれない。
「はぁはぁ……って、そうだよ。実はあんたに会いたいって王様が仰ってるらしくてね」
「は?」
おまけに、とんでもない爆弾まで投げ込んできたのだ。
「王というと」
「ロマリアまでの道は閉ざされてんだ、ならわかるだろ?」
「それは、な」
アリアハンを治める国王が、わざわざ自分を呼んでいるらしい。
(勇者の師匠ってポジションになってるもんなぁ)
国をあげて送り出そうとしている勇者と関わっていると言う点で、国王が興味を持つのも頷ける。
(師とはいえ一介の盗賊を呼びつけるというのがどういう用件なのかは気になるけど、王が現在得てる情報はルイーダさん経由だよな)
勇者を護衛している「腕利き」達のことをルイーダさんがわざわざこっちにバラしたのが「ただの大ポカでした」と言われて信じるかと聞かれたなら、答えはNOだ。
(後ろに王様が、国が居ると臭わせて――)
こっちを牽制しようとしたのか、それとも。
(一般人に、駆け引きとか謀略とか心理戦とか要求しないで欲しい)
何にしても嫌な予感がビシバシする。
(とはいえ、伝えられちゃった以上、「聞いてませんでした」とは言えないし)
呼び出しから逃げるにしてもアリアハンから出る手段は、昨晩どこに行くかの候補に入れた「旅の扉」のみ。
(どこに出るか覚えてない上、そもそも逃げるってのも面倒なことになりそうなんだよなぁ。俺が逃亡した責任を勇者が負うことになりでもした日には、後悔すること請け合い)
判断を下すには情報が少なすぎるのも、痛い。
「呼んでいる、と言うところまでは理解したが、用件は? なぜ俺を呼ぶ?」
「生憎とあたいはそこまで知らされて無くてね。……はっ、まさかあたいを拷問にか」
「ルイーダに聞くしかなさそうだな」
問いかけては見たが、相手が悪すぎた。
(ここまでわかっててメッセンジャーに選んだとしたら、侮れないな)
侮れないというか、どっちかって言うと凄く嫌って感じだが、それはそれ。
「アリアハンへ」
女戦士を放置&無視して宿屋のカウンターでチェックアウトを済ませた俺は、宿の外に出るなりキメラの翼を放り投げた。
(うわっ、未だに慣れないわこれ)
予定にあったのとは別の短い空の旅。現実のジェットコースターを思わせる感覚に顔を引きつらせながらも、身体はアリアハンへと飛んで行く。
「あら、お早いお着きね?」
「……もう少しゆっくりならば、景色を楽しむ時間もあるのだがな」
声がかけられたのは、着地した直後のこと。余裕ぶって答えた俺は逆に問うた。
「しかし、良いのか? ルイーダがルイーダの酒場に居なくても」
「朝だもの、お客も少ないのよ。それに、暫く此処にいて来ないようなら戻るつもりだったから問題ないわ」
「ほぅ」
「待ってたのもほんの気まぐれよ。どうせ寄っていったでしょ?」
「まぁな」
確かにその通りだった。メッセンジャーの女戦士が詳しいことを知らされていなかった時点で、情報源になりそうな人物は限られる。
(憑依して日も浅く、コネもツテもない。俺が頼ってくるのは織り込み済みだったってことか)
「一応聞いてみるが、何も考えず直接お城に直行するとは考えなかったのか?」
「無いわね。仕事柄、人を見る目はそれなりにあるつもりよ」
「成る程、愚問だったな」
どこまで見抜かれているのか、不安ではある。
(とは言え、情報0の上に無策で王様と会うよりマシか)
呼ばれた理由さえわからない状況では対策の立てようも無いのだから。
「ならば、俺が何を聞こうとしているかもわかるか?」
「そうね、まず呼ばれた理由は何かっていったところかしら? 後は陛下が何をお考えかとか?」
「だいたいそんなところだ」
女戦士に内容を知らせなかったこともある、満足の行く答えは貰えないかも知れないが、そう確認して来るからになにがしらは答えるつもりがあると俺は見た。
「そう。それじゃ、話は私の部屋でしましょ。少なくとも立ち話で話すような内容じゃないもの。陛下には私の方から連絡しておくわ、あなたが少し寄り道してから行くとね」
「ふむ、ここは礼を言っておくべきか?」
「要らないわ。貴方には勇者を救ってくれた上立ち上がらせてくれたって言う意味で、大きな恩があるもの」
(恩、ねぇ)
俺はただ、一人の少女が見ていられなくて、自己保身込みで手を貸しただけなのだ。
(好意と感謝、疑いたくはないけれど)
ルイーダさんには国王の息がかかっていると見ている。
(問題は国王が何を思っているか、かな。下手すれば足下すくわれるかも知れないし)
「ついてきて」
「あぁ」
結局の所、何もわからない内から警戒してしまうほどに俺は小心者で、反射的に頷くと背を向けたルイーダさんの背中を追い始めていた。
まさかでもないタイトル詐欺。
アリアハン国王に呼び出された主人公。
疑心暗鬼と警戒の中、ルイーダは何を語るのか。
次回、……といつもの様に予告したい所なのですが、ひょっとしたら番外編2の方が先に上がるかもしれませんので今回は明言せず「次回につづく?」とさせて頂こうかと思っております。
さぁ、次は十八話か番外編かそれは闇谷にもまだわからない。