強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第十六話「おれのそうぞうした●●と違う(性的描写注意)」

「持ち主に返してやろうと思って名前が書いてないか表紙をめくってみたのが失敗の始まりさ」

 

 見るからにいかがわしい本だったので一時は捨てようかとも思ったらしいが、持ち主を捜そうとした辺りこの女戦士も根は善人だったのだろう。

 

(そう言えば誤解とはいえ勝負を挑んだのだって勇者達を助ける為だったし)

 

 負けて自分から酷い目に遭おうとしたなんて不純な動機の筈がない。無いと思いたい。

 

「表紙の裏を見るだけのつもりだったのに、目に飛び込んできた扉絵から目が離せなくなってね」

 

「気がつけば本を読み始めていた、と」

 

「そうそう、しかも自分の意思で止められない上に何か得体の知れないモンが頭に入り込んでくるんだよ」

 

 このドラクエⅢの世界には、読むことで読んだ人間の性格を強制的に変更してしまう本が存在する。

 

(そして、性格が変えられちゃった訳か)

 

 ちなみに、それらの本は消耗品で一度使うとなくなってしまったような気がする。

 

(まぁ、残っていたとしても読み返したところで性格が元に戻る訳でないし)

 

 この女戦士にとってはとんでもない災難だった訳だ。

 

「それで、本を読んでから……あ、あたいは物事を、その、なんだ……え、えっちな方に想像しちまう様に――」

 

(うわぁ)

 

「し、しかも想像してると、なんだか興奮してきて……」

 

(さっきみたいなことになったんですね、わかります)

 

 話を聞く限り、女戦士が読んだのは女性の性格を「セクシーギャル」に変える『エッチなほん』だと思われるのだが、うん。

 

(おれのそうぞうした「せくしーぎゃる」とちがう)

 

 ただの痴女というか、変態というか。

 

(バニーさんといい、この女戦士といいどうなってんだアリアハンの女性って)

 

 まぁ、勇者のような女の子だって居るはずだが、勇者にも「お尻を守って」発言の前科がある。

 

「頭から離れないんだよ、本の内容が。それで時々本の登場人物とあたいが、自分がかぶって……」

 

(と言うことは、「地下室に監禁云々」は本の内容……のろわれればいいのに、そのひっしゃ)

 

 たった一冊の本のせいで人生を歪められた女性が居るのだ。

 

「で、だんだんあたいも興奮してきて……」

 

(いや、聞いたの確かに俺なんだけど、それを聞かされてどういう顔をすればいいのやら)

 

 笑えば良いんだろうか。

 

「わかった、経緯についてはもう充分だ」

 

「あっ、あぁ。それじゃ……話も終わったし、今度こそあたいは鎧を脱がさ」

 

「それはもういいっ!」

 

 コントなのか、同じネタを繰り返して笑いをとる業界用語で言うところの「テンドン」と言う奴なのかもしれない。

 

 そして、俺は気づかなかった。言葉を遮ってツッコんだとき女戦士が残念そうな顔をしたことなんて。

 

(なんてゆーか、「せくしーぎゃる」っていうかひとりだけべつのげーむやってるよね?)

 

 そう、この女戦士の部分だけお子様がやっちゃいけないゲームになってるんですが。

 

「ええっ、けどさ……ホラ、約束だろ?」

 

(さすが、げーむのせかい)

 

 放っておけない少女が居るかと思えば、いろんな意味で放っておきたい女まで居るとは。

 

(いや、これも捨ててはおけないか。今すぐにでも逃げ出したいけどこの人がこうなってるのも性格矯正する本のせいなんだろうし)

 

 前言撤回、犠牲者だと考えれば放っておくのも寝覚めが悪いか。

 

「俺の言うことに従えとは言ったが、そんな約束をした覚えはない」

 

「っ! た、確かにそうだけど……あたいとしてもさ、こう、ムラムラとしてきてて」

 

 とりあえず動揺を押し隠しつつ冷たくはねつけたが、女戦士はとんでもないことを言い出した。

 

(そ れ を お れ に ど う し ろ と い い ま す か)

 

 勝負に勝ったのに何でピンチになっているのか、誰かに説明を求めたい。

 

(一刻も早く性格を変えるアイテム見つけないと)

 

 このままだと、この女の言いがかりだったものが既成事実にされかねないし、勇者の護衛の一人がこんな状態だというのにも問題がある。

 

「今日の所は宿に戻って寝ろ」

 

「そ、そんなぁ」

 

「それから、俺についての情報を人に話すことを禁じる」

 

 女戦士は不満そうだったが、勝者権限で黙らせると、ついでに口止めもしておいた。

 

「わかったよ。そしてあたいは人にも言えないまま、あんな事やそんなことを……んッ」

 

 頬を赤らめながら内股を擦り合わせるようにもじもじして居たのは、見なかったことにする。艶っぽい声を漏らしたのもだ。

 

(俺は何も聞いていない……聞いていないんだ)

 

 勝負に勝って変なことを言わないよう口止めするだけだったのに、何でこんなに疲れる結果になったんだろう。

 

(ラリホーが使えればなぁ)

 

 人前で呪文を使えないと言う縛りがやたらと面倒に感じたレーベの夜。

 

(ともあれ、これで勇者パーティーから抜けている理由はなくなったけど、どうしたものか)

 

 見た限りでは勇者の方も心配はない、護衛はヒャッキ達に任せれば単独行動も十分可能なのだ。

 

(ここから東に出るモンスターとはまだ戦ってなかったし、下見をするのもなぁ)

 

 解錠呪文のアバカムを覚えているので、やろうと思えばアリアハンの宝物庫の中身をごっそりなんてことも可能ではある訳だが、あの勇者の性格なら泥棒は許せないだろうし、俺もする気はない。

 

(ここの近くの森に鍵のかかった扉があったよなぁ)

 

 奥が入った者を一瞬で離れた場所に送る「旅の扉」であることは知っているのだが、行き先までは覚えてなかった俺としては下見をしてくるのも良いかと思っている。

 

(迷うなぁ)

 

 色々考えてしまった俺は、この晩殆ど眠ることが出来なかった。

 

 そして夜は明け――。

 




女戦士の真実、それは彼女もまた凶悪なアイテムの犠牲者であったという真実だった。

痴女とか変態とかにしか見えなくてもすべてはあの忌まわしき本のせいなのだ。

どう考えても男性が読んだ場合変更される「むっつりスケベ」の方が近い気がしますが、うん。

果たして女戦士は「せくしーぎゃる」からほかの性格になることは出来るのか。

また、勇者パーティーという枷が外れて、いよいよ動き出すのか、主人公。

次回、「ちょっとだけの一人旅」にご期待下さい。

タイトルがネタバレってる様な気もしつつ、続きます。

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