「じ、実は今この町には語尾に「ぱふ」がついてしまう呪」
「それならさっき聞いたわよ」
「うぐっ、ぱふ」
とりつく島もないというか、何というか。さっき胸やお尻を見られていたからだろう、盗賊のお姉さんがオッサンの話をぶった切る。
(いや、お姉さんからすればその対応も仕方ないかも知れないけど)
しっかりとむっつりスケベしていたのだから関わり合いになりたくないという気持ちは分かる。それでさっきは俺も無視した訳だし。
(ただなぁ)
しっかり話していない以上、このオッサンが追加情報をもっている可能性もあるのだ。
「下がっていてくれ、俺が聞こう」
「ええっ、ぱふ」
お姉さん達を制して俺が進み出るとオッサンは酷く残念そうな声をあげた。
(結局の所下心はあるってことかぁ、厄介な)
顔に青あざを作ったりしてるのも女性に良からぬことを企んで制裁を受けたのかも知れない。
(関わったのが、他の隊のお姉さん達じゃなきゃ良いけど)
ともあれ、今優先すべきは情報の入手だ。
「……呪いについて他に知っていることはないか? 夜起きている者はだれも呪いをかけられていない、以外で」
「んーぱふ? その前に、何か言うことがあると思うぱふ?」
話を切り出すやいなや、オッサンはそうのたまって首を傾げた。
(っ、根に持ってたかぁ)
ひょっとしたらお姉さん達を下がらせたことで気分を害した可能性もあるが、こちらが無視をしたのも事実。
「……そうだな」
それは、人として当然のことだ。俺はオッサンの言葉に頷くと、躊躇うことなく指で指しながら声を張り上げた。
「えいへいさん、このひとです!」
「ちょっ、ぱふ?! な、何を言うぱふかぁ!」
「おかしなことを言う、俺の連れの身体を嫌らしい目でなめ回すように見ていただろう? こういう時、不審者として兵士に突き出すのは市民の義務だろう?」
何だか食ってかかってきたけれど、間違ったことはしていないと思う。
「だいたいその顔、痴漢行為を働いて女性に殴られたんじゃないのか?」
「ぎくっぱふ」
案の定と言うべきか俺の指摘にオッサンはビクりと震え。
(しっかし「ぎく」とかにもつくのかあの語尾。徹底してるというか何というか……)
とことん嫌な呪いだなぁと顔には出さず戦慄する。
「やっぱり」
「っ、何だか時間差で鳥肌が」
語るに落ちたせいでクシナタ隊のお姉さん達のオッサンへむけた視線がマヒャドレベルの冷たさに変化したり、視線に晒されてた盗賊のお姉さんが自分自身を抱きながら震えてたりするが、この辺りはオッサンの自業自得だろう。
「そもそも、そんな目にあってまで何故そのネックレスをしてるんだ?」
「えっぱふ? どういうことぱふか?」
ひたすら謎であったからこそ、思わず口から出た言葉に、オッサンはきょとんとする。
「まさか知らないのか? そのペンダントは金のペンダント。身につけた男性の性格を『むっつりスケベ』に変えてしまう力のある装飾品なんだが」
「性格を変える……ぱふ?」
俺の説明に自分の首元へ視線を落とし愕然とするところを見るに、知らなかったらしい。
「じゃ、じゃあ全てこれのせいだったぱふか?!」
「いや、全てかどうかは知らんが」
元の性格が何かも知らない以上、断言は出来ない。
「ああ、何てことぱふっ! これのせいで、こんなもののせいで私はぱふっ」
両手でペンダントを握ったままふるふる震えていたオッサンは金のネックレスを外すと地面に叩き付け。
「こんなものっ、こんなものぱふ!」
何度も足で踏みつける。
(うわぁ)
足の下でネックレスをひしゃげ変形させるオッサンの鬼気迫る様に少しだけ引いていた。
(たぶん、そうせざるをえない程に何かあったんだろうけど)
知りたいとは思わない。そも、既に調べないといけないことを二つも抱えているのだから。
「はぁはぁはぁ、ぱふ」
「気は済んだか?」
荒い息をしつつもペンダントを踏みつけるのを止めたところを見計らって、声をかける。
「っ、み、みっともないところをお見せしたぱふ」
「……気にするな」
性格変更アイテムだと覚えていなければ、俺だってどうなっていたやら。
「……じゃあ、あれをスー様にかけたら」
何てお姉さんの呟く幻聴まで聞こえてくるぐらいなのだ。
(疲れてるのかもな、俺へ「むっつりスケベ」になって欲しいと思うお姉さんとか居る訳ないのに)
さっきまでいたお店の空気に毒されたのかも知れない。
「それよりも、だ。聞きたいことがある」
「あ、呪いの情報ぱふね?」
「ああ」
「そこまで知ってるなら、私の知ってる話はちょっと不確かなのが一つだけぱふが」
話を戻したこちらの問いへオッサンは素直に答えてくれた。ペンダントの効果を教えたことが大きいのだと思う。
「なるほどな……」
「目撃者は相当酔っぱらってたから、幻でも見たか何かと見間違えたんじゃないかって皆言ってるけどぱふね」
追加で手に入った情報は、一つだけ。
「それから、もう一つ。バハラタ出身の女性を知らないか?」
「バハラタぱふ? 確か劇場の踊り子さんに二人か三人ぐらい居た気がするぱふ」
「っ」
「それって……」
ならばついでに聞いてしまえと問うて見ると、かなり有力そうな答えが返ってきて、俺はお姉さん達と顔を見合わせた。
「すまんな、助かった。……行ってみよう」
前半はオッサンに、後半は同じ班のお姉さん達に。
「「はい」」
お姉さん達が返事をした時、俺は既に走り出していた。
「ありがとうぱふ、あなたのことは忘れないぱふよ~」
オッサンの声を背中に受けながら。
オッサン本当に何があった?
と言う訳で、手がかりを手に入れた主人公は劇場へ足を運ぶこととなったのでした。
さて、アッサラームで劇場と言えば、あれですよね?
そう、ベから始まって次がリの、あれ。
「きゃぁっちまぁいはぁぁぁぁぁと!」
そうそう、こんな感じで某有名声優さんのシャウトから始まるメロンを讃える歌……って違うぶるぁぁぁ!
し、失礼しました。個人的には好きなんですけどね、あの曲。
次回、第百三十二話「ベリー○○○」
何故伏せ字にしたし。