「それで、問題になるのはここからどうやってアッサラームへ至るかだな」
宿屋でクシナタさん達との合流を果たした俺はクシナタ隊のみんなを一部屋に集めて会議を開いた。
(一つ小さなポカやらかしてたけど、そっちも大事になる前に処理できたし)
この直前、今更ながらにスレッジではない今の姿でライアスと面識がなかったため、スレッジと友人として自己紹介し顔つなぎをしたりもしたが、それはそれ。
(アッサラームからこっちに抜けてくる道はアッサラーム側からしか開けられないからなぁ)
よって普通に陸路で行くことは出来ず、残された移動手段は船を使った海路か、旅の扉を経由した大回りルートか、ジパングで断念した俺がでっかいイカに変身してクシナタさん達を乗せ河か海を渡ると言うビジュアル的に問題がある方法のみ。
(ついでに言うと、最後の方法はライアスが居る状況では使えない訳で)
ダーマに行くからとライアスを連れてきていたのが仇になってしまっていた。
(カンダタ一味のアジト襲撃の時は留守番していて貰ったけど、二度続けては流石に反発するよなぁ)
だったらダーマに向かって貰うかとも考えたのだが、あやしいかげの狩り残しが居た場合、足の遅いライアスでは逃げ切れず餌食になる可能性がある。
(かと言って、俺がダーマを請け負ってクシナタさん達とライアスにアッサラーム行きを任せると船で行くしか方法がないし)
旅の扉を経由するには解錠呪文、変身して河を渡るには最低でも変身呪文が必要だが今のクシナタ隊に該当呪文を覚えているお姉さんは居ないのだ。
(海とかの魔物も結構強いと思ったんだよな。慣れない船の上の戦闘じゃ不覚を取る可能性だって……)
つまるところ、ダーマ行きはもう少し先にするしかなくなった訳だが、これはきっと欲張るなと言うことなのだろう。
「案がないようなら、スレッジに頼んで旅の扉を経由するルートか、船でアッサラームを目指すルートになるが」
「異存ありませぬ」
「そうですね、何か良い案が浮かんだら良かったんですけど」
クシナタ隊のお姉さん達からも反対はなく、この後の話し合いで最終的には船旅と言うことになった。
「奴隷商人を運んだ商船を使うというのは微妙に複雑ですわね」
「やむを得まい、ポルトガに胡椒を持っていって船を貰ってくると大幅なタイムロスになるからな」
ルーラの往復分の時間を考えると交易船に便乗させて貰った方が早く、交渉次第では護衛として乗ることで用心棒代も稼げるかも知れないと言う商人のお姉さんの案もあり――。
「良い天気だな」
「この調子で晴れてくれると良いかもしれませんね」
次の日には、ルーラで他所へ飛ぶこととなった者を除く俺達全員が船上のひととなっていた。
「しっかし、暇だなぁ、オイ」
「行程を少しでも短縮する為に聖水を振りまいたからな」
用心棒代は海賊でも出なければ、基本給のみとなってしまいそうだが、やむを得ない。
「釣りとか出来たらいいのだけどね」
「オールで漕ぐ船の構造上、無理だろうな」
釣り糸がオールに絡まって雇い主や船員達に睨まれるハメになったら目も当てられない。
(しかし、アッサラームかぁ)
バハラタでクシナタ隊のお姉さんと再会した時に抱いた懸念が取り越し苦労であれば良いのだけど。
(ゲームでのアッサラームは全年齢対象のゲームだったからあれで済んだ面もある訳で……)
もし、とんでもない魔窟だったりしたら。
(そう、例えばお子様には見せられないようなお店がひしめき合ってる場所だったら)
俺には少々ハードルが高すぎる。
(一人でもいろんな意味で無理っぽいのに、掠われた人を探すとなるとむしろそう言う所こそ重点的に探さなきゃいけないよなぁ)
当然だが、後ろにクシナタ隊のお姉さんを引き連れて。
(いかん、まだ船の上なのに帰りたくなってきた)
女の子の前で、そう言ったお店の人とやりとりしろとかどういう罰ゲームですか。
(掠われた人のことを聞くつもりが、しどろもどろになったあげく客と勘違いされてお店に引き込まれる光景しか想像出来ないっ)
当然ながらそんな醜態をさらせば、クシナタ隊のお姉さん達にはゴミクズの様なモノを見る目で見られることになるだろう。
(生き返らせた時に裸を見ちゃったお姉さんとかには「やっぱり嫌らしい目で見てたんだ」的な勘違いをされて)
最終的には、純粋に助けたいと思ってかけたあのザオリクも下心あってのモノと見なされて、つまはじきに。
(それがシャルロット達にも何らかの形で伝わって……)
俺、社会的に終了のお知らせ。
(うあああっ! 駄目だ、破滅的な未来しか見えないっ)
もういっそ、モシャスで女の子に変身してしまうべきか。
(って、それじゃ精神力もたないし、効果時間もなぁ)
キングヒドラをソロで撃破することより高い壁を感じる。
(だからって、どうする?)
クシナタさん達に任せる何てのは論外だし、恥を忍んでライアスにそう言うお店の人のあしらい方を聞いてくるべきか。
(人とは接せず、透明になって掠われた人がいないかどうか一軒一軒調べる……のは、呪文の効果が切れて見つかったら最悪だし、そもそもあの呪文は燃費も悪いからなぁ)
恐るべし、誘惑の町。俺は辿り着く前からもう既に挫けそうだった。
「はぁ」
「スー様、どうなされました?」
「いや、アッサラームについてからのことをな」
声をかけられて我に返った俺は、クシナタさんに答えると顔を手で覆って俯く。
「悪い方に悪い方に考えてしまうのだ、我ながら度し難いとは思うが……」
「スー様……」
「解っている、今更かもしれん。ただ、俺は相変わ」
そう、独言していた時だった。柔らかなモノが背中に押し当てられたのは。
「スー様、あんまりでございまする」
「な」
「我々クシナタ隊はスー様の協力者、お一人で抱え込まなくても――」
「いや、そう言う訳にもいかなくてだな?」
子供には見せられないお店でどう対処して良いかわからないなどと言えるはずもない。
「す、すまん。俺がこんなでは他の者が動揺するな。少し向こうで潮風に当たってくる」
俺は顔を上げると、なるべく平静を装おうとしながらクシナタさんから逃げ出したのだった。
主人公、ネガティブする。
次回、第百二十九話「ぱふぱふ」
きっと、説明不要。