強くて逃亡者   作:闇谷 紅

143 / 554
第百二十七話「合流」

「何だかんだで相当時間をかけてしまったな」

 

 眼下に広がるバハラタの町を見ながら、俺は着地の体勢をとった。

 

「ふぅ」

 

 地面に降り立つのにももう随分慣れたと思う。

 

(さてと、ジパングまでの行き帰りを考えると二日は経過してるかな)

 

 兜を壊した甲冑男も渡したキメラの翼を使ったとすれば、ロスは一日分。

 

(クシナタさん達も掠われた人達を保護したなら、バハラタに戻ってるだろうし)

 

 人攫いの一味と知っているクシナタ隊のみんなと鉢合わせしている可能性があるのが気になるところだ。

 

(あの甲冑のオッサンが先に気づいてやばいと思って逃げ出してる可能性もあるもんなぁ)

 

 あやしいかげが出没すると判明したあの洞窟にもう一度踏み込むのは危険すぎる為、クシナタさん達が情報を得てくれてなければ、あのカンダタこぶんが掠われて売られた人達の手がかりになりそうな唯一の存在と言うことになる。

 

(まずは、あのオッサンを探そう)

 

 幸いにも最初にあった時は魔法使いのスレッジ、次に会った時は偽アークマージと素顔での接触はしていない。

 

(面識がないのだから、こっちの姿を見て即逃亡ってことは無いはず)

 

 既に町から逃げ出している可能性もあった。

 

(ただなぁ……)

 

 あの甲冑男の認識からすれば、自分はアークマージの誘いに乗ってと言うか無理矢理乗せられて起こした反乱の主犯である。

 

(そこへ来て、魔物の暴走騒ぎ)

 

 意味不明だったに違いない。だが、話を聞こうにも元凶のアークマージはキメラの翼を渡して「バハラタにでも戻ってろ」と言うのみ。逆らって留まっていれば追いかけてきた魔物に挽き潰される以上、従うしかなく。

 

(あのオッサンからすれば、選択肢は三つ)

 

 アジトに戻るか、町でアークマージを待つか、逃げるか。ただ、反乱を起こそうとしていたことは同じようにアークマージに反乱へ荷担させられた者が知っており、アジトに戻っても場合によっては主犯として仲間達に処断される可能性がある。

 

(ついでに魔物達がアークマージを追いかけてきたのも見てるのだから、一緒に逃げる形になった自分があの洞窟に戻ろうなんて気には普通ならないよなぁ)

 

 よって、アジトに戻るという選択肢はたぶん選ばないと思う。

 

(逃げた場合も、アジトに生き残りがいれば、裏切り者としてカンダタ一味に追われる可能性が残る。一方で、自分を巻き込んでくれた元凶とは言え、キメラの翼を渡してアークマージは自分を逃がしてくれていた、と)

 

 数日放置したなら、ともかく、まだ一日だ。

 

(あのオッサンが藁にも縋る思いで待ってる可能性は低くないと思うんだけど)

 

 そう言う訳で、町中にもかかわらず忍び歩きをしながら、俺は町の中でも比較的治安の悪い区画へと足を向けた。

 

(あのオッサンにかかわらず、逃げ出した一味の連中がこっちに来てる可能性もあるし)

 

 などと思っていた時期が、俺にもあった。

 

「あっ」

 

 こう、後回しにしたツケだろうか。入り組んだ路地を歩いていて出くわしたのは、見知った顔。

 

「スー様……」

 

「スー様」

 

「っ、お前達……」

 

 一瞬、逃げ出すことも考えたが、あまりに薄情かと諦め。

 

「無事だっ」

 

「「スー様ぁぁぁぁ」」

 

 突撃してきたクシナタ隊のお姉さん達にもみくちゃにされたのだった。

 

「ぷはっ、すまんな……色々任せきりにして」

 

「いえ、スー様こそ、よくぞご無事で」

 

 こうして、想定外の合流を果たしたクシナタ隊のお姉さん達によると、救出作戦自体はほぼ成功したらしい。

 

「奴隷商人と交わした証文も確保したわ。金目の物の回収については、すぐ持ち出せそうでかさばらないモノしかしてこられなかったけど」

 

「なるほどな、売られた先はわかるか?」

 

 あの状況下でなら、充分すぎる成果だろう、俺は相づちを打つと先を促し。

 

「ええ。アジトがあんなだったからかしらね、連絡を待って入り口にいた留守番組の子達がキメラの翼で逃げてきた幹部らしい男とこの街の入り口で鉢合わせしたのよ」

 

「は?」

 

 女盗賊のお姉さんの言葉に思わず声を上げていた。

 

「あー、スー様でも驚くことあるのね。まぁ、私達も驚いたんだけど」

 

 俺の驚きは別のベクトルというか、何て運のない男なんだ的なモノだったのだが、訂正する必要もない。

 

「それでね、その男の証言と持ち出してきた書類を照らし合わせて」

 

「売られた先はアッサラームと」

 

「ええ」

 

 そう言えば、前に尋問した時もアッサラームへ売ったと言っていた気がする。

 

「アッサラームか」

 

 胡散臭い商人とぱふぱふのイメージがやたら強いのはネタにされる頻度が高いからか。

 

「どうしました、スー様?」

 

「いや、少しな」

 

 今更気がついたのだ、アッサラームという町に潜む危険へ。

 

(拙い、今更お前達は連れて行けないなんて言う訳にもいかないし)

 

 だいたい、売られてしまった人々の数を考えると、一人で解決するのは厳しい。

 

「女を売り飛ばすような場所におまえ達を連れて行くのは危険だ」

 

 なんて建前で言っても素直に従ってくれないだろうとも思うが、もし従ってくれたとしても今度は人手が足りない。

 

(ああっ、あの町にお姉さん達を連れて行くとか……)

 

 もう嫌な予感しかしないのに、避けて通れないというジレンマ。

 

「スー様?」

 

「っ、すまん。ところで、ジーンはどうしている?」

 

 話しかけられて我に返った俺は話題を変えると、協力者となってくれたさつじんきについて触れてみた。現実逃避したかったと言うだけの理由ではない。約束を守る為でもあったからなのだが。

 

「あ、あの人でしたら、今は隊長達と一緒に宿にいます」

 

「スー様とも会えましたし、一度合流しましょうか」

 

「いいのか、ここに居たのも何か用があったんじゃないのか?」

 

「いえ、ちょうど帰るところだったんですよ」

 

 戻ろうと言い始めたクシナタ隊のお姉さん達に問いかけてみると、俺がお姉さん達に出会ったのは、掠われた人を家に送り届けた帰り道だったらしい。

 

「そうか、なら戻ろう」

 

「はいっ、隊長も心配してましたし、急ぎましょうっ」

 

 結局俺の甲冑男捜しは無駄に終わった訳だが、結果オーライだった。

 





次回、第百二十八話「誘惑の町」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。