お悩み相談所『晋』
ここはお食事処『晋』。美味い飯と酒につられ、様々な客がやって来る。そんな中に、時折悩みを抱えているお客様が来ることがある。そんな人達の相談に乗ってあげるのもまた、『晋』の仕事だ
CASE1 担当:東零士
「てんちょー…沙和もうダメなのー」
今酒を飲んでうなだれているのは、凪の親友の于禁こと沙和だ。楽進、李典、于禁は魏の三羽烏と呼ばれ、そこそこに有名だ。だが、于禁は軍にいるのが想像できないほど、噂好きで、流行に敏感な、普通の女の子だった
「どうかしたかい?沙和ちゃん」
「わたしー、軍人向いてないのかなーって。凪ちゃんみたいにー、強くないし。真桜ちゃんみたいにー、何か作れる訳じゃないしー。私ってー、お邪魔みたいなのー。今日の新兵訓練も、沙和の所だけ言う事聞いてくれないの」
ずいぶん酔っているせいか、どこか元気がないな。だが、こんなお客を励ますのも、うちの仕事だ
「なら、君は何故、華琳ちゃんの所に入ったんだい?」
「それは、村の皆を、困ってる人を助けたかったからなの」
「その気持ちは、今もまだあるかい?」
「当然なの!」
沙和はガバッと起き上って怒鳴った。そんな姿に、零士は優しく微笑む
「なら君は、軍人に向いているんだよ。軍人はね、そうやって誰かの為に戦える人にしか務まらないんだ。その気持ちも無く軍に入った者はただの三下。君はまだ、力は無いかもしれないけど、軍人の心としては、一流なんじゃないかな」
「そう、かな?」
「あぁ。それに、こうやって愚痴をたれても、失敗を繰り返さない為に、試行錯誤しながらまた明日も頑張るんだろ?それはとても立派な事だ」
「そ、そっか。えへへー、ありがとうなの、てんちょー!」
「ふふ。なら、頑張っている沙和ちゃんに、僕から助言をしよう。明日の新兵訓練に、ここに書いてある事を試してみるんだ」
零士はいつのまにか用意していた手帳を沙和に手渡す。沙和は戸惑いながらもそれを受け取った
「なんなの?」
「僕が昔いた所の海兵隊という軍が実際に行っていた訓練法だ。多少は効果があるはずだよ」
沙和は絶対わかっていなさそうだったが、目を輝かせて喜んでいた
「ほぇー。ありがとうなの!また明日も頑張ってみるの!また来るの!」
沙和は零士に手渡された手帳を握り、元気良く帰って行った
「よう。大丈夫なのか?海兵隊の訓練法って確か…」
「大丈夫かなー」
投げっぱなしかよ
だが後日、沙和が満面の笑みでうちに成功報告にやってきた
どうやら、あの罵倒式の訓練法は、そこそこ人気を得たらしい
†††††
CASE2 担当:詠
「はぁ…」
「どうしたの稟、ため息なんかついて」
こいつは郭嘉こと稟。袁紹の一件以降にここに来た魏の軍師で、かなりのキレ者らしい。そして…
「いつになったら、華琳様は私を閨に呼んでくれるのかなって…」
こいつもまた、華琳を溺愛している一人だ
「ね、閨って…あんたその前に、あの鼻血癖をどうにかしなさいよ。きっと呼ばない原因もそれにあるわよ」
そう。こいつの困った所は、妄想が暴走し、その結果どこでだろうと鼻血を噴き出すのだ。その度に、うちに来ては血になるものを食っていく。レバニラ炒めは、ほぼこいつの為にできた料理だ
「私だって、どうにかしたいですよ!でも、華琳様を思うと…」
稟がよからぬ妄想に入ろうとするところへ、詠はハリセンを取出し、阻止した
「妄想禁止!こんな所で鼻血出されたら、たまったもんじゃないわ!」
「す、すいません…ですが!この気持ちを止められないんですよ!」
「あぁはいはい。わかったから、そんなに近づかないで。…そうよ。あんた僕とはこんなに至近距離でも会話できるのに、どうして華琳とはできないのよ」
詠と稟はカウンターを挟んで会話している。そこそこ近い距離だ
「それはその…恥ずかしくて…」
「今までの鼻血癖の方が、恥ずかしいと思うけど」
詠に同意見だ
「あ、それなら、華琳に慣れてしまえばいいのよ!」
「慣れる、ですか?」
「えぇ、ちょっと待ってなさい!……………あったわ!ほらこれ」
詠は店の奥に引っ込んだかと思うと、なにか本を持ってやって来た
「これは!なんと精巧な華琳様の絵でしょう!」
詠が持ってきたのはアルバムらしい
「まずはこれで慣れるのよ!これで妄想しても堪えられるようになったら、きっと閨にも呼んでもらえるわよ!」
「私にできるでしょうか?」
「できるかじゃない。やらなきゃダメなのよ!じゃなきゃあんたは、いつまで経ってもこのままよ」
「う、が、頑張ります!では、また結果報告を。この絵、ありがとうございます!」
稟は華琳の写真を大切に持ち、帰って行った。その時、顔が赤くなっていたのは言うまでもない
「お疲れ詠。お前、いつの間に華琳の写真なんて撮ったんだ?」
私は詠に話しかけた。あの華琳によく撮影許可がでたよな
「あぁあれ?僕、猪々子と写真撮って以来、カメラが趣味なっちゃってさ。色んな人や物、風景なんかを撮ってんのよね」
そう言って詠は、多数の写真が入っているアルバムを手渡してくれた。風景や人々の笑う姿、常連の写真や料理の写真、私たちが写った写真まであった
「へぇ。よく撮れてるじゃないか」
「まぁね!」
後日、華琳と稟の距離は何処と無く近くなったようで、普通に会話もできるようになったらしい
ただ
あの相談があった日以来、夜な夜な稟がレバニラ炒めを多く食すようになった。一体、ナニをしているんだ
†††††
CASE3 担当:悠里
「ふえぇぇぇーーん!!!」
「あー…またですか桂花ちゃん」
今泣いているのは荀彧こと桂花。華琳が許昌に移り住む前から居た猫耳軍師。うちにも割と来てくれる奴なんだが…
「もう!!聞いてよ悠里!華琳様ったらまた春蘭と閨を共にしたのよ!なんでこんなにも尽くしてる私じゃないのよ!」
酒が入るとこのように泣いたり怒ったりと、とにかく面倒臭くなってしまう
「えー。でも桂花ちゃん、この前華琳さんと閨を共にしたって喜んでましたよね」
「そんなのは二日前の事よ!こっちは毎日でだって足りないくらいなのに…」
そしてこいつもまた、華琳が好き過ぎる奴の一人だ。魏の奴はこんなんばっかりか
「うーん…どうしたものか………そうだ!ねぇ桂花ちゃん。桂花ちゃんは、華琳さんに振り向いて欲しいんですよね?」
あ、なんか嫌な予感が…
「えぇ、ぐすっ、そうよ」
「ならさ、ちょっと浮気してみない?」
「浮気…?」
まーた妙な事言い始めたぞ
「そそ!他の誰かとイチャついてる所を華琳さんに見せつけたら、きっと華琳さんも妬いちゃいますよ!」
「でも…私は華琳様以外を愛するなんて、できないわよ」
「別に愛する必要は無いんですよ。フリだけです」
「でも相手がいないわ」
「ふっふーん!それなら大丈夫ですよ!ここに女泣かせの店長様がいます!」
悠里は零士を親指で指して答えた
「え?それって僕の事?いつ女泣かせたっけ」
急に話を振られ、戸惑う零士に…
「はぁ?嫌よ、気持ち悪い」
桂花はズバッと切り捨てた
「うわぁ…傷つくなぁ…」
流石の零士も、ハッキリ言われると心に来るらしい。微妙にションボリしてる
「うーん…なら、咲夜姉さんでどうですか?」
そしてやっぱりこっちにも来たか…
「却下だ。後で華琳に何言われるかわかったもんじゃない」
あいつのことだ。そんな事したら後でネチネチ言われるに決まってる
「えー…なら、あたしで大丈夫ですか?」
悠里が言った。最初から自分を指名させたらいいだろうに
「いいの?」
「もちろんですよ!桂花ちゃん可愛いし!」
「そ、そう。なら、よろしく頼むわ。浮気かぁ、たまにはいいかもね」
案外、桂花も乗り気なんだな。後ろに怖い人がいるのに…
「あら、何がいいのかしら?」
「「ヒィッ!」」
後ろの怖い人に声を掛けられ、悠里と桂花は声をあげた。華琳はいじわるな目を桂花に向けてゆっくりと口を開いた
「桂花、あなたが誰の所有物か、一度しっかり刻み込まないといけないみたいね」
「は、はい!」
なんでちょっと嬉しそうなんだろう
「それと悠里、もし私の所有物に手を出したら、ただじゃおかないわよ」
「き、気をつけます!」
おー、怖い怖い
「利口ね。零士、何か精の付くものを」
「畏まりました」
「桂花、今夜は寝かさないわよ」
「か、華琳さまぁ…」
その後、華琳は飯を平らげ、恍惚とした表情の桂花を連れ帰って行った
「怖ぇ!華琳さんマジ怖ぇ!」
「あれはお前が悪い」
後日、桂花が再び上機嫌で入店したことは、言うまでもなかった
†††††
CASE4 担当:恋
「う~ん、凪ちゃん程ではありませんが、風も辛いものは好きなんですよ~」
こいつは程昱こと風。稟と同時期に入った魏の軍師で、実は一番侮れない奴なんだが…
「…零士のカレーは、絶品」
「そう言えば恋ちゃん、聞いてくださいよ~。この前野良猫と…」
「…」
「ぐぅ……」
「すぴー……」
このように、普段はグダグダだ
「ていうか起きろよ!」
†††††
CASE5 担当:咲夜
「はぁ…」
「ん?どうした華琳。ため息なんてついて」
なにか悩み事か?私でよけりゃ聞いてやるか
「あら咲夜。実は最近、気になる子がいるのよ」
「へぇ、別に珍しい事じゃないな」
女好きで有名だしな
「でもその子、なかなか私の下に来てくれなくて」
「そうなのか?華琳って結構モテるんだろ?」
秋蘭とか春蘭とか桂花とか稟とか。あげたらキリがなさそうだ
「私もそれなりに自信はあったのだけれど、その子はなかなか我が強くてね」
へぇ、そんな子がいるんだ
「ちなみにその子ってどんな子なんだ?」
「美しい黒髪が特徴ね。顔は中性的で整っているわ。なにより、戦う姿が綺麗なのよ。一瞬で魅了されたわ」
「へぇ、聞く分には、なかなかの子らしいな」
そう言えば、北郷一刀の所の関羽って奴が、美しい黒髪から美髪公なんて呼ばれていたな。もしかして、関羽の事なのか?
「ということで咲夜、今晩閨にこないかしら?」
「なんでその流れで私なんだよ!」
「何を言っているの?私はさっきから、あなたの事を話していたのよ」
「関羽じゃないのかよ!」
「関羽もいいわよねぇ。いずれ必ずモノにしたいわ。その前にまず、咲夜から頂かないと」
「なんでだよ!て言うか最近の話じゃねぇだろそれ!」
「あら、私はいつもあなたの事を考えているわ。だからある意味最近よ」
「女癖悪いにも程があるだろ!少しは節度を持て!」
華琳の悩みには乗らないのが正解らしい
†††††
CASE6 担当:月
「月っちー、ちょっと聞いてぇなぁ」
「どうかしたんですか霞さん?」
霞が悩み事か、珍しいこともあるな
「最近凪が冷たいんよ」
「凪さんが、ですか?」
あー…
「うん。うちとしては仲良ぉしたいんやけど、なんかこう、距離置かれてる気ぃしてさ」
「それは、前からそうなんですか?」
「いんやぁ、ちょーっと前までは膝枕とかしてくれたんやけどなぁ。最近はないなぁ」
「何か、心当たりはないのですか?」
「ないよー。あったらこんな悩まんよぉ」
「へぅ、一体何でなんでしょう?」
「ぐすん…うち、嫌われたんかなぁ…」
霞は割と真面目に悩んでいるみたいだな。涙まで流して。ただ…
「そんな事は………あの、今涙を拭いているその布は一体…」
「ん?あぁこれ?凪の下着よ?」
「…」
「あぁ!凪が恋しい!うちこれだけじゃ満足できん!」
そう言って霞は、凪の下着をクンクン嗅ぎ始めた。実は私は知っていた。最近、凪が霞の性的イタズラに悩んでいると。そしてどういう訳か、その日辺りから下着が消えていた事も
「あぁんもう!今度凪が風呂入ってるとこ覗こかな!ほいで夜とかも、こっそり凪の布団に忍び込んで…」
あ、銀髪少女が霞の肩をトントンとたたいた。霞は振り返らないが、銀髪少女は振り返るまで肩をたたき続ける
「あぁ?なんやねん!今ウチ妄想で忙しい…ねん…」
「…」
霞は振り返り、笑みを凍りつかせた。銀髪少女こと凪は、素敵な笑みで霞を見ている。ただ、目だけは笑っていなかったが
「にゃ、にゃはー。な、凪やん!どないしたん?こないなところで」
「いえ、ただ夕食を頂きに来ただけでしたのですが、まさかこんな所に下着泥棒が居るとは思いもしませんでした」
凪は手錠を取出し、それで遊ぶかのように回し始めた
「し、下着ドロやて?だ、誰やろなー、そないけったいな奴がおるなんて…」
「………霞様、ご同行、願いますよね」
凪のどすの利いた低い声が、霞を黙らせた
「はぃ…」
そして、凪は霞をしょっ引いて帰っていってしまった
「な、なんだったんでしょうね」
月は戸惑いながら聞いてきた。さぁ、なんだったんだろう。とりあえず言えることは…
「現行犯逮捕、ってやつなんじゃないか?」
よかったな凪、これで悩みも解決するといいな