真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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反董卓連合編其六

 

 

 

 

 

「じゃあ咲夜、二人と恋ちゃんの家族を頼む」

私は月と詠、そして恋の家族だという無数の犬猫を連れて、車の中に潜り込む。この犬猫、月がどうしても放っておけないと言い、連れて行く事を許可した

「本当に僕もいいのかしら」

賈詡は董卓の右腕として有名だった。連合に見つかれば、恐らく殺されてしまうということで、保護する形になった。それに

「いいんだよ。それともなにか?月を残して先に逝きたいのか?」

「へぅ、嫌だよ詠ちゃぁん…」

「ゆ、月、大丈夫よ!ずっと月の側にいるから!」

「えへへー、よかったぁ」

この二人は、ずっと一緒にいるべきだ。それにしても、ホント詠は昔から月には弱いな。

「じゃあ出すぞ。…零士、車はいつもの場所に置いておけばいいな?」

「あぁ、それじゃ頼んだよ」

零士は洛陽に残り、行く末を見届けるそうだ。ついでに張譲がいたら、サクッと暗殺しておくとも言っていたな

「よし。それじゃあまた後で」

私は車を出し許昌を目指す。さぁ、新しい家族を連れて帰ろう

†††††

 

 

東零士視点

咲夜を見送った僕は、城の一番上に陣取り、辺りを見回していた。街の外には全董卓軍の武将、兵士、軍師が並び、その先頭には劉協がいた

「……来たみたいだな」

約3キロ先で砂塵が舞うのを確認した。先頭には袁の旗印。袁紹な袁術のどちらかだろう。

その後ろに曹、孫、劉と有名な三人の旗が見られた。その中に、見慣れない十文字の旗印があった

「あれが一刀君のか?北郷なのに何故十文字?」

やがて連合軍は洛陽に接近し、進軍を停止する

「全軍、武装解除!連合軍!我々に貴軍と戦う意思はない!降伏する!」

高順さんが指示を下し、全軍武器を放棄する。それを見た連合軍は騒ついていた

「連合軍総大将、袁紹はいるか?」

劉協が前に出て呼びかける。すると連合から三人出てきた。袁紹、文醜、顔良の三人だ

「お、お嬢!? 」

「お嬢様!ご無事でしたか」

「劉協様。この袁本初、お助けに参りましたわ。それよりも、これは一体どうなっているんですの?」

「うむ。我は、お主らが暴君と謳っていた董卓に監禁されていてな。そこを救ってくれたのが、我の後ろにいる董卓軍の面々なのだ」

「は?董卓さんが劉協様を監禁して、それを董卓さんが助けた?」

 

袁紹が疑問を隠さずに言うと、それに応えんと李儒さんが前に出た

「ここからは私がご説明します。私達は確かに董卓様に仕えていました。しかし、上洛してからというものの、私達は大切な人や劉協様を人質に取られ、やりたくもない圧政や暴力を強いられていました。そして今回、この戦の混乱に乗じて劉協様をお救いし、董卓及び賈詡を私達の手で始末しておきました。これがその二人です」

そうして出されたのは、段珪と名も知らぬ文官風の男の屍だ。昨日、李儒さんは自らが董卓殺しの汚名を着ると言ってくれた。しかし董卓軍の面々は、李儒さん一人に負わすのは酷と判断し、いっそのこと全員でやってしまったということにしようと結論だした。

仲間思いというか、甘いというか。嫌いじゃないがな

「劉協様、間違いありませんの?」

 

袁紹、文醜、顔良が死体を確認し、袁紹が劉協に確認を取る。劉協は大きく頷いた

「うむ。我がこうして生き延びれたのも、この者達のおかげなのだ」

うーん……改めて、少し荒唐無稽な話ではあるよな。これで素直に信じたらただのバカ、極めつけの愚か者……

「まぁそうでしたの。大変でしたわね。陛下がご無事で何よりですわ!」

………いやぁ、さすが袁紹!正義感で連合軍を結成する事だけはあるなぁ

結論から言ってしまえば、今回の戦の責任は全て董卓、賈詡にあるとされ、その配下に罪はないということになった。その後の董卓軍の処遇は、ほとんどの者が洛陽の、劉協の配下になった。少数は、フリーの傭兵になる者もいれば、農家に務めるという者もいた。かなり甘い判決ではある。それもあの劉協が味方についたおかげだろう。しかし、ここまで上手くいくとはな

しかしいい話ばかりではない。今回の戦をきっかけに、朝廷は事実上の崩壊を迎えた。というのも、公には発表しないだろうが、劉協自身が新たな帝の座を降りたのだ。自分には大陸を統べる程の力はないとの事だ。今後は元董卓配下の者と共に洛陽の再建に力を入れるそうだ。恐らくこれから群雄割拠の時代が来るだろう。そしてもう一つ、今回の騒動の元凶である張譲を捕らえる事が出来なかった。洛陽には来ていなかったようだ。まぁおかげで、月ちゃんと詠ちゃんの件は無事に済みそうだ。だがあいつは危険だ。なるべく早く見つけないと、何をしでかすかわからない

†††††

 

 

 

僕はしばらく辺りを見回し、ある人物を探す。せっかくの機会だ。話しておきたい。

………お!あの道行く青髪の女の子は…

「やぁ、星ちゃん。久しぶりだね」

僕は屋根から降りて、偶然通りかかった星ちゃんに話しかけた

「貴殿は…東殿?なぜこのような地に?」

星ちゃんは一見、何でもない様子で話しかけてくる。しかし微妙に警戒はされていた

「あはは、まぁいろいろあってね。敵意はないから、その殺気はしまって欲しいかな」

「!!…おやおや、これでも隠していたつもりなのですが、あなたは一体何者なのですかな?」

 

星ちゃんは少し驚き、そして面白がっているようかのように微笑みを漏らした

「ただのしがない料理人さ。そんな事より、君の主に会わせて頂きたい」

「主と言うと、劉備殿の事かな?」

「いや、そっちじゃない。あぁまぁ、そっちにも興味あるが、会いたいのはもう一人の方。北郷一刀君だ」

北郷一刀。天の御使いであり、この外史の創造主。どんな人物か、一目見ておきたい

「主に?ふむ、まぁ貴殿の事だ。なにか理由があるのでしょう。会うのは構いませぬが、今持っている物は、こちらでお預かりして構わないか」

そう。僕は布に包んである刀を二本を持っていた。一刀君にプレゼントのつもりで事前に出したものだ

「構わないよ。もとよりこれは、一刀君に贈るために持ってきたものだからね」

そういって僕は荷物を星ちゃんに渡した。刀が物珍しいのか、興味深げに見ていた

†††††

 

 

 

「主、主に客人が来ている。少々よろしいですかな?」

星は天幕の前で語りかける。中には数人の気配を感じる。話し中だったかな?そんな事を考えていると、中から声がかかる

「星。入ってきてー」

僕と星は中に入る。そこには男の子が一人、女の子が六人いた。あれ?

「恋ちゃん?ここにいたのか」

六人の内、一人は恋こと呂布だった。捕縛と聞いていたが、まさかここにいるとは

「……零士?」

恋ちゃんは、どうしてここに?と言いたげな表情でこちらを見た

「あの、どちら様ですか?」

おっと。すごく不信がられているな。当然か

「おっと、すまない。僕は東零士という。許昌で飲食店を経営している者でね。星ちゃんとはそこで知り合ったんだ」

「星が真名を許す程の者なのか?」

 

黒髪の女の子が星ちゃんに問いかける。星ちゃんは少し微笑み話始めた

「愛紗よ。この者はそこいらの料理人とは訳が違う。わがメンマ道の最大の協力者なのだ!」

星ちゃんは熱弁してくれた。どうやら僕はいつの間にか、メンマ道の最大の協力者になっていたらしい

 

「お、おう…それで、その料理人が、こんなところに何の用だ?見れば呂布とも知己の仲に見えるが」

あ、あはは、敵意剥き出しだな

「そうだね。僕は一刀君と話をしに来ただけだったんだが、どうやら交渉もしないといけないな」

僕は恋ちゃんを見て答える。その恋ちゃんは呑気にあくびをしていた。はは、緊張感ないなぁ

「呂布とはどういった関係で?」

 

一刀君が問いかける。僕と恋ちゃんの関係か。何といえば良いか…

「そうだなぁ…保護者…かな?だから出来れば、恋ちゃんを許昌に連れてってやりたいんだ」

 

うん、保護者ってことにしておこう。どうせうちに連れて帰るつもりだし

「あ!丁度いいんじゃないかなご主人様。呂布ちゃんどうしよっかーって話してたんだし」

「桃香様!」

桃香と呼ばれた少女は呑気に答えた。この子、わかっていないのか?あの呂布の武を手放すって事だぞ。見れば後ろにいた帽子を被った少女二人は複雑な面持ちだった

「呂布ちゃんはどうしたいかな?」

「………」

桃香と呼ばれた子は恋ちゃんに問いかける。対して恋ちゃんは何か言いたげな表情でこちらを見た

「………家族」

恋ちゃんはボソリと答えた。なるほど、そういう事かな

「恋ちゃん、君の家族、月ちゃんに詠ちゃんに、それにセキトだったかい?あの子達なら僕が保護した。今は咲ちゃんが先に許昌に連れていったよ」

 

僕がそういうと、恋ちゃんにしては珍しく、大きく目を見開いた

「…月と詠、生きてる?」

「あぁ、元気だよ」

「……よかった」

恋ちゃんは安堵の表情を浮かべると、こちらに寄り添ってきた。どうやらこっちに来てくれるらしい

「さて、一刀君。まずはそうだな。僕から君にプレゼントだ。星ちゃん、さっき預けた物を」

星ちゃん二振りの刀を一刀君に渡す。一方、一刀君は驚いた表情でこちらを見ていた

「あなたは、一体何者ですか?」

一刀君は当然の問いを投げかける。だが僕はそれをいったん置いて話し始める

「まずは刀だ。それは蒼月と紅月と言って、脇差の方が紅月だ。どっちも軽めに作った。だが、絶対に折れる事はない。何故折れないかは聞くもんじゃないぞ」

一刀君は刀を抜き、軽く素振りしていた。その時、少しだけニヤっとしているように見えた

 

「これは日本刀?とても軽い。不思議と手に馴染む」

「気に入ってくれたかい?」

「………どうしてこれを俺に?あなたは一体」

 

一刀君は刀を鞘に納め、僕に向き直った

「プレゼントだと言っただろ。同郷のよしみというやつさ」

そこで周りが騒ついた。一刀君自身も信じられないといった様子だ

「俺以外に、この世界に来た人が?」

「どうだろ…多分僕以外にいないと思うよ。二年間、大陸を渡り歩いたが、それらしい人には会った事がない」

管理者は除外だろう。あれはまた別の存在だし

 

「一体いつからこの世界へ?」

「五年前だね」

「五年…?」

一刀君は僕の発言が信じられなかったようだ。軽く頭を抱えている

 

「君は、この世界がどういうものか、理解していないのか?」

「い、いえ、まったく」

そうか。まったくか。正直、あまり長居はしたくない。大陸中を歩いたせいで、かなり知り合いが多いからな。雪蓮ちゃんくらいなら挨拶していきたいところだが、曹操ちゃん辺りに見つかったら、間違いなく面倒ごとになる

「どうやら、長話になりそうだね。その話はまたいずれにしよう。いつか許昌に来てくれ。そこで知る限りを話すよ」

一刀君は困惑しつつも、了承してくれた。なるほど、意外と物わかりのいい子ではあるようだ

「一つだけいいかい?君たちは何故連合に?」

僕は皆に問いかける。答え次第では、今回の件を話しておきたい

「私たちは、洛陽の民が苦しんでいると聞いて、助けに来たんです」

 

ピンク髪の子が代表して答える。恐らく桃香というのは真名だろう。言って切られでもするのは嫌だな

「君は?」

 

なので僕は名を聞くことにした

「あ、すいません。私、劉玄徳と言います」

「私は関雲長。ご主人様の第一の矛だ」

「鈴々は張飛なのだ!」

「はわわ!しょ、諸葛亮でしゅ」

「あわわ、龐統でしゅ」

僕が聞くと、みんな教えてくれた。なるほど。この子達が桃園の兄弟、ここでは姉妹か。それと伏龍鳳雛。噛んでいたけど、この子達があの名軍師とは

「私たちは暴政の噂を聞き、やって来ました。しかし、同時に違和感もありました」

それから話したのは、僕らが疑問に思った事と同じだった。情報規制、タイミング。この連合には、真実を確かめるためにやってきたとも

「なるほど。だいたいわかった。これからこの戦の真実を告げたいんだが、ここで一つ交渉だ。こちらの情報と恋ちゃんの身柄、交換といかないかい?彼女の武は絶対的だが、当の本人はあまり戦闘を好まないんだ。彼女が戦う理由は家族を守るため。そしてこれからは、彼女が戦う必要はなくなる。恋ちゃんには、普通に暮らして欲しいと思っているんだ」

場は静まり返る。しばらくすると、一刀君はみんなの目を見てうなずき、やがて意を決するかのように口を開いた

「わかりました。その代わり、そちらの情報を教えてください」

そして僕は話し始める。月ちゃんと劉協が囚われていたこと、今回の事件の黒幕、太平要術の書。全てを話し終えた頃、各々が複雑な心境のようだった

「むぅ、なんだか可哀想なのだー」

「その張譲って人、許せないよ」

 

張飛ちゃんと劉備ちゃんはすんなりと信じたようだ。諸葛亮ちゃんと龐統ちゃんは少しだけ考えている様子だった。軍師を務めているからな、素直に聞くわけにはいかないのだろう

「ちなみに、董卓と賈詡はこちらで保護した。今後は表舞台に立つことなく、料理屋で働いてもらうよ」

「わかりました。こちらでも、張譲を追ってみます。貴重な情報、ありがとうございました」

さて、今話すべき事はあらかた済んだかな。ここらでお暇しとくか

「あの!」

こちらがそろそろ帰ろうとした時に、一刀君に呼ばれる

「どうかしたかい?」

「あなたはどうして、董卓を助けたんですか?いくら知り合いでも、いくら状況がおかしくても、単身で助けるなんて、どうかしている」

 

一刀君の疑問は最もだろう。普通に見たら、僕らは異常だ

「はは、君は勘違いしているな。いつ僕が一人でやったといった?」

「仲間が?」

「あぁ。司馬懿、仲達。名前くらいは聞いた事あるだろう?その子と二人で助けに行った」

「司馬懿?…って、え?二人?」

「まぁもちろん、現地の協力もあったよ」

「それでも二人で来るなんて、常識はずれにも程がある」

常識はずれか。確かにそうだ

 

「はは、僕に常識は通用しない。それに、僕もあの子もただ友達を大事にするだけだよ。もう一つ付け加えるならね一刀君。僕らは悪を許さない。悪は必ず殺す。だからもし、君が道を踏み間違えたら、その時は僕が君を殺しに行くよ」

そう言うや否や、三姉妹が一刀君を守るように前に立つ

「ご主人様は大丈夫!絶対に誤ったりしない!」

「そうなのだ!お兄ちゃんはいい人なのだ!」

「我がご主人様を愚弄するのはやめて頂きたい」

 

張飛ちゃんと関羽ちゃんは凄い殺気だな。これがかの有名な一騎当千の将か

「悪い悪い。それにしても、ずいぶん愛されているな一刀君」

そう言ってやると、星ちゃんと張飛ちゃん以外はあうあうと顔を真っ赤にした。

ふふ、どうやら大丈夫そうだな。なかなか雰囲気のいいチームじゃないか

「どうです?なかなか良い所でしょう?」

 

星ちゃんが問いかける。僕も思わず、笑みがこぼれてしまう

「あぁ。君が選ぶだけはあるね。さて、僕はここらで帰らせてもらうよ。一刀君、許昌にある『晋』という店で待ってるよ。恋ちゃん、行こうか」

「……ん」

「また会いましょう。今度はゆっくり話したい」

「あぁ。それじゃあね」

そして僕と恋ちゃんは、誰にも見つからないように、その場を後にし、帰路についた

 

 

 


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