真・恋姫†無双 裏√   作:桐生キラ

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反董卓連合編其五

 

 

 

 

 

劉協。真名は桜。この子は以前、『晋』に来たことがある。確かその時は、袁紹のとこの文醜と顔良が一緒だった。その三人は、零士の作る料理を気に入り、また意気投合して真名を預けあう仲になった。と言うよりは、桜は真名を教えて、彼女の性と名は教えてくれなかった。まさか帝の子だったとは。そりゃ教えられない。そういえば今回、猪々子と斗詩も戦に来ているのだろうか。どちらにしても、今は会うべきじゃないだろうな

私と李儒さんは、桜を抱えて厨房に辿り着く。街中が混乱しているからか、ここら辺には人影があまりなかった

「すまんな、二人とも。迷惑をかけてしまった」

「お気になさらないで下さい。すぐにお水を御用意いたしますね」

 

桜は厨房の椅子に座らせ、李儒さんは水を用意しに行ってくれた

「まさかお前が劉協とはな、桜。無事のようで安心した」

 

私は桜に話しかける。桜は衰弱しているも、弱弱しく笑みを見せてくれた

「まさか咲夜との再会がこのような形になるとは、我も思ってもみなかったぞ」

お互い、妙な縁があったみたいだな

 

「劉協様、こちらお水になります」

「すまんな、んくんく、はぁ。生き返ったぞ」

程なくして、水を持ってきた李儒さんは、水の入った器を桜に渡す。桜はもらった水を一気に飲み干すと、一息つけたかのように穏やかな表情になり、少し顔色も良くなったようだ

「お!先に着いていたか。待たせたね」

ほどなくして零士たちも合流する。よかった。月も無事の様だな

「董卓、お主大丈夫か?」

 

「はい。劉協様もご無事のようで」

 

桜が心配した様子で聞いた。月もだいぶ衰弱しているようだったが、少し余裕はありそうだった

「久しぶりだな月、詠。とりあえず無事の様でよかった」

「咲夜さんも、この度は助けていただき、ありがとうございます」

「本当に感謝するわ。正直、来てくれなかったら、どうなっていたことか」

「我も今一度感謝しよう。ありがとうな!」

 

決して無事とは言い難いかもしれないが、生きているだけマシなのだろう。これで目標の一つ目はクリアだな

「董卓様も、こちらのお水をお飲みください」

「ありがとうございます李儒さん。ん…ん…はぁ…」

みんなが揃い、一息入れる。いつまでもこうしていたいが、現実はそうも言ってられない

「さて、さっそくだがこれからの話をしよう」

 

零士が口を開いた。その真剣な表情から、ここの空気が変わるのを感じた

「これから?」

 

月が聞く。閉じ込められていた分、現状を知らないのだろう

「月や桜は知らないかもしれないが、今洛陽は、反董卓連合軍に襲撃を受けようとしている」

 

私がそう言うと、月も桜も驚きと怒りにも似た表情を見せてくれた

「な!なんだそれは?」

私は桜の問いに答えるかのように、今の状況を説明する。それを聞いた月と桜は青ざめていた

「そんな…」

「我らが囚われている間にそのような事になっているとは…」

「今は虎牢関で防いでるみたいだけど、それも時間の問題でしょうね。数が違いすぎるわ」

「奴らの、張譲の仕業だな?」

「そうだ。桜、なにがあったんだ?」

「うむ。あれは董卓と洛陽の政治を話し合っている時であった。夜遅くまで政治の見直しをしていた時に兄上、劉弁がやってきたのだ。その時に…」

 

†††††

 

 

一カ月前

「桜!無事か?」

扉が急に開かれ、誰が入ってきたのか確かめると、そこには血まみれの兄上がいたのだ

「兄上!どうしたのだその血は!」

月「劉弁様!大丈夫ですか?」

我と董卓は怪我をした兄上のそばに行き、手当てをしようと試みたが、兄上はその手を止めたのだ

 

「董卓もいたか。我のことは良い!それよりも聞くんだ!張譲が生きている!そして、あの書もまだ…」

グサッ

「ガフッ…クッ、張…譲…」

会話はそこで途切れる。兄上は喋らなくなった。見てみると兄上の心臓に槍が刺さっていた

「い、いやーーーーーーー!!」

「兄上!兄上!しっかりしてください!兄上!!」

董卓の悲鳴と我の叫ぶ声を気にも、兄上の体の周りには血だまりができていた。そして、その光景を冷笑を含んで見ていた人物が一人いた

 

「まったく、愚かな男だ。ちょこまかと鬱陶しい。だがこれで、そのわずらわしさも解消されるでしょう」

「お主は!張譲!!お前が兄上を!」

「ええ。殺しましたが。それが何か?無能な癖に、いっぱしに頭は切れるから、目障りだったんですよ。そして、私の下まで辿り着いてしまった。殺すしかありますまい」

「この下衆が!」

「ええ。私は下衆ですね。しかし貴女はそんな下衆にすら勝てないんですよ。…お前たち、劉協と董卓を捕えろ。殺すなよ。まだ利用価値はある」

†††††

 

現在

「といった風に、我と董卓は捕まってしまったのだ」

なるほどな。劉弁殺害も張譲の、しかも劉協の目の前で殺されたのか。しかし、劉弁はいったい何を見たんだ。消されるほどの物となるといったい。今回の戦争に関係あるものか

「劉弁は、君たちに書がどうのこうの言ってたんだよね?その書ってのはなんだい?」

「わからん。ただ、兄上があのように焦っていたとなると、なにかよくない書のなのだろう」

良くない書ねぇ。………まさかな。あれは燃えたはずだ。だが仮に、もしあるとしたら…零士も同じ考えにいきついたのか、冷や汗を流している。そんな馬鹿な…

「なぁ、零士。まさかとは思うが…」

「あまり考えたくはないが、それならこの戦争の意味が見えてくる。見ての通り、街は負の感情でいっぱいだった。そして戦場は、あらゆる感情で溢れている。もしあるとしたら、かなりの負の力を蓄えられる」

「いったい何の話?」

詠が私たちに訪ねてくる。確証はない。だが妙な確信はあった。あまりあって欲しくない確信が…

「なぁ、太平要術の書って知ってるか?」

そして私は、太平要術の書について話し始める。その力、特性、黄巾の乱の元凶、そして焼き払ったと思っていたこと。私が知りうる全てを話した。その話を聞いた者は、各々考え込んでいた。確かに、信じられる話じゃない

「その話が本当なら、張譲は最初から、その本の強化が目的?」

「恐らくな。それならあの情報操作や、この連合の結成にも納得がいく」

「兄上は、その書の所在を知ってしまったが故に、殺されて…」

「……段珪は、何か知っているのでしょうか?」

「わからないな。だがすぐ殺すのは、やめたほうがよさそうだ」

無意味な気はしている。段珪は恐らく何も知らないだろう。もし知っていたら、張譲と共に戦争勃発の前に行方をくらませるはずだ。それがなかったと言うことは、ただ欲に走っただけにしか見えない

「月ちゃん、劉協ちゃん、とりあえずこれを食べておくんだ。特製卵粥だ」

そういって零士は、二人分の卵粥を持ってくる。奥でこそこそしてるとは思っていたが、いつの間に作っていたんだ

「あ、ありがとうございます」

「何から何まですまないな」

「気にする必要はないよ。さて、それを食べたら段珪のとこに行くか」

「だな。生きていることを後悔させてやる」

†††††

 

月と桜が食事を取った後、私と零士、月と桜は王の間に向かう。詠と李儒さんは、董卓軍の面々に救出成功を報告しに行った

「ここだな」

しばらくして、豪華な装飾の扉の前に辿り着く。ここまで来るのに苦労はなかった。警備が誰一人としていなかったからだ。違和感を感じていたが、その答えはすぐにわかった

「この中にいるね。身辺警護に回したか」

気配で感じる。この中には少なくとも百はいる

「大丈夫なのか?」

桜が心配そうに尋ねてきた。見ると月も不安気だった。それを見た私と零士は、微笑み

「「余裕!」」

そう答えてあげた

「乗り込む。みんな下がっているんだ」

零士は氣を凝縮した拳を構える。それを見た私は庇うように月と桜の前に立ち、そして

ガァァンッ

思いっきり扉を吹き飛ばした。中にいた奴らは驚き、騒ついていた

「なんじゃ貴様!」

小太りの、ハゲ散らかった男が声をあげる。あれが段珪か?小物臭が半端ないな

「段珪!よくも我と董卓を閉じ込めてくれたな!万死に値するぞ!」

「劉協に董卓!?何故ここに!」

「私たちが助けたに決まっている。諦めるんだな」

 

私が前に出てそういうと、段珪は鼻で笑っていた

「諦める?たかが二人で何ができると言うのじゃ?こっちには精鋭百人はおるんじゃぞ?」

 

段珪のその発言に、私と零士は目を合わせた

「ククッ、聞いたか咲夜。百人だってさ」

「あぁ。クッ、笑えてくるな」

私と零士は挑発するかの様に笑ってみせる。それに対し段珪は顔を赤くして激昂していた

「なにがおかしいのじゃ!」

「ハッ。なら逆に聞くが、たった百人で私らとやろうってか?この豚野郎!」

段珪の顔は真っ赤になっていた。これじゃあ豚じゃなくてサルだな。おっと、それじゃあサルに失礼だったか?

 

「ぐぬぬ…お前ら!あの賊共を生かしておくな!殺せ!」

武器を持った男共が一斉にかかって来る。それに対し零士は刀を、私はナイフを抜いて待ち構え…

「ハァァァ!!」

「………ッ!!」

私と零士は一気に走り抜けた

後ろには

先ほどまで襲いかかってきた男共の屍で満ちていた

「……は?」

段珪は何が起きたかわかってない様子だった。馬鹿みたいに間抜けな顔をしている

「董卓…なにが起こったのだ?」

「わ、私にも…」

どうやら後ろ二人にも、理解出来ていなかったみたいだな

「貴様ら、何をしたのじゃ!」

「何って、すれ違いざまに一人一太刀ずつ入れただけだけど?」

「そ、そんな馬鹿な話…」

「だから言っただろう。百人で何ができるって。私たちと一戦交えたきゃ、一万は引っ張ってこい」

ちょっと本気を出せばこんなものだ。百くらいなら、瞬殺ってやつだ

段珪「た、頼む!命だけは!」

でたよ、命乞い。さすが小物だな。手のひら返すのが早い早い

「ふむ、とりあえず質問に答えろ。そしたら考えてやろう」

零士は段珪の首筋に刀を向けて言い放つ。段珪はビクッとするも、すぐさま姿勢を正した

「な、なんじゃ?なんでも答える!」

「そうだな。太平要術の書は知っているか?」

「いや、聞いた覚えはない」

「………なら、張譲の目的は?」

「それも知らん。あやつ、突然行方をくらましたからな」

「…本当に、何も知らないのか?」

「うむ。弾圧のあった日、たまたま張譲と一緒におって、運良く難を逃れた。その後しばらくして、張譲が劉協、董卓を拉致すれば好き放題できると言われてな。そしたらこの戦じゃ。わしですら、何が起きているかわかっとらん」

あ、零士が呆れている。予想通りとはいえ、こうも何も知らないじゃさすがにな

「はぁ……お前の目的はなんだ?」

「酒池肉林じゃギャアァァァ!」

あ、とうとう切り伏せてしまった。相当イラっとしたんだろうな

「我はこのような小物に…」

桜も少し落ち込んでいた。当然だろう。あんな奴に出し抜かれるなんて

「全ての元凶は張譲だ。元を絶つにはそいつを見つけないといけない」

「はぁ。とりあえずは、一つ解決だな。さて、もう一つをどうするか」

どうやってこの戦争を終わらせるかな

「あぁ、それならなんとかなりそうだよ。詠ちゃん曰く、連合側で董卓の顔を知る人はいないはずらしい」

「そうなのか?なら……あぁ、その豚を董卓にしたてあげよう」

「あ、あの、何のお話ですか?」

月が戸惑いながら聞いてくる。つかこの豚、重いなチクショウ

 

「あぁ、そう言えばまだ話していなかったな。この戦争をどう終わらせるかなんだが、詠や李儒さんにも意見が聞きたい。先にあいつらと合流しよう」

そして私たちは、死体置き場となった王の間を後にした

 

†††††

 

 

 

会議室には私と零士、現在洛陽にいる董卓軍の幹部、そして劉協こと桜が集まっていた

「さて、軍師の方々には予想がついているだろう。この戦争をどう終わらせるかだ」

口を開いたのは零士だ。零士の言葉を聞いた詠と李儒さんは、表情を曇らせていた。さすがに気づいていたようだ

「連合を返り討ちにしてはいけないのですか?」

 

董卓軍武将、高順さんが聞いてくる。確か高順さんは、恋の補佐官だったかな?

「それじゃあダメだ。世間は董卓を悪とし、連合を正義としている。正義が負け、悪が勝ってしまえば、月の評判はますます悪くなる。恐らく董卓が討たれるまで、争いは続く。この戦争が始まった時点で、月が助かる道はないんだ」

「そんな!」

 

高順さんの表情は焦りに満ちていた。当然だろう。自分たちがここまで追い詰められていたなんてな

「我が連合と掛け合ってみるか?」

 

桜が提案してくれる。だが、それも難しいだろう

「それも上手くいくとは思えない。劉協は董卓に操られている。そういう認識があるからね。劉協ちゃんが何を言っても、恐らく無意味だ」

 

零士がそういうと、桜はシュンとなってしまった

「一応策はある。さっき零士から聞いたんだが、詠、連合側で月を知っている奴はいないんだよな?」

 

私は詠に聞いてみる。この条件こそが、一番重要だ

「そのはずよ……!!そう。そういう事ね…」

「気づいたか。この戦争、終了条件は暴君董卓の死だ。だから董卓には死んでもらう」

「え?」

そこで空気が変わる。見れば武将陣は明らかにこちらに敵意を向けていた

「み、みなさん落ち着いて下さい!司馬懿さんはそういう意味で言ったのではありません」

 

李儒さんが慌てて止めに入るも、武将陣は今だこちらに明確な殺意を向けていた。本当に、よく慕われているな

「悪かった。言葉足らずだったな。正確には、その辺の死体を董卓と偽って差し出す。連合側に月の顔は割れていない。誰が死のうが、連合側にはわからないさ」

「月を無事に逃がすなら、それしかないわね」

 

私の発言に詠や李儒さんが首を縦に振って頷いてくれた。みれば、武将陣も理解してくれたようだ。とりあえず武器は下してもらえた

「あぁ。それで、この策を実行するに当たって、一つ聞かなきゃいけない」

「誰が董卓様を殺した事にするか、ですか?」

そこで皆が黙り込む。当然だな。いくら暴君と唄われようが、主殺しは汚名でしかない。それに、いくら偽物とはいえ慕っている董卓を殺した事になるのは、辛いはずだ

バンッ

すると突然扉が開かれ、一人の兵士が入ってきた

「報告します!虎牢関、突破されました!交戦中だった呂布将軍、張遼将軍、陳宮様が敵の手により捕縛。華雄将軍は負傷後、戦場から離脱、行方不明になりました!」

「なんですって!?」

チッ!思っていたよりずいぶん速い。それにあの恋と霞が捕縛?なかなかやるじゃないか連合軍!

「これで時間がなくなったね。早急にどうするか決めなきゃ、連合が来るぞ」

焦り、不安が入り混じる。連合は恐らくすぐそこまで来ている。長く身積もっても、明日の夕方には着くだろう

「あの…」

すると李儒さんが、重い沈黙を破った

 

 

 


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